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世界電力版:歌詞を書くときの癖のはなし

 この記事は、ボカロP Advent Calendar 2023の22日目の記事です。

 前日はきさらさんが『きさらがボカロ調声で意識してること』という記事を公開されています。めっちゃ引き込まれるタイトルだし、正解の統一されない概念について「自分はこう思う」ベースで話をしていくのっていいなと感じたので、今日は歌詞について話していきます。

 といっても、あくまで個人的な視点からしか語れないtopicなので、表題のとおり「ぼくが歌詞を書くときの""癖""」について話します。つまり今日この場で良い歌詞の枠組みを定めたりとか、そういう野暮な目的ではないよ!ということはご承知おきください。

 楽しくなってめっちゃ冗長に書いちゃいそうなのと、自己解説的な話ってあまり表に出しすぎても良くない気がするので、本日は以下2点に絞ってご紹介しつつ、なるべく簡潔にサクサクまとめられるよう頑張ります。それでは本編に入っていきましょう!




①タイトルと歌い出しで世界観を伝えたい癖がある

 どのような立場で何について歌っているか、を明確にすることで、歌の世界に入り込みやすくなったらいいな、と思っています。叙述トリックでもない限り、舞台説明は早い方がいいので、タイトルと歌い出しで世界観を伝えることを心がけています。

 タイトルはとても重要です。楽曲タイトルとサムネイルが一番はじめに目に入る情報なので、基本的にはタイトルとサムネイルの質感でなんとなく「どのような楽曲か」が想起できるし、みんな無意識に楽曲の雰囲気を予想してしまっていると思っています。(し、その究極系が『漢字カタカーナ』に女の子のバストアップ構図で「なんかボカロっぽい」的なものだったりすると思う)

 とはいえ、その段階ではあくまで漠然とした雰囲気止まりで、あまり情報解像度が高いわけではありません。なので、タイトルとサムネイルによって与えられたなんとなくの雰囲気を前フリにして、イントロがあるなら音情報で、動画があるならその内容で、雰囲気を形どりながら歌い出しに入っていくわけです。

 歌い出しは、タイトル、サムネイル、イントロ、動画の走り出しによって積み上げた前フリに対して、明確に方向性を定義できるとても大切なパートだと思っています。自然言語での伝達のため、雰囲気ではない意味性の高い概説が可能で、何より違和感なく利用できる有効文字数がぐっと増えるため情報密度もすてきに詰めることができます。

 これは別に歌詞だけで行う必要はなく、むしろ動画のほうが「大枠」を伝えるには適していると思います。なんというか、合わせ技ですね。それに、両者をガチガチに合わせなくても、お互いがお互いを補完するようなアプローチでも素敵だと思います。

 このあたり、じぶんの過去作品だと、こんな感じに着地しています。


①-1. 彼方のひかり

動画は すずめのめ ( @crycry_suzume ) さん

遠くからみれば少しはましに見えますか
よごれやへこみも上手にごまかせていますか
いびつな形のじぶんでは照らされるたびに影ができる

 歌い出しの時点で、主観視点から立場や状態を定義することで、逆説的に表題である「ひかり」の意味づけがわかる形となっています。2番まで聞かなくても、輝かしい他者の存在がイメージできて、くどくない(といいな、と思っている)。

 歌詞自体が内面的な話なので、この時点では世界観の定義は存在していないのですが、すずめのめさんの手によって「ひかり」や「距離」のイメージを天体のモチーフに昇華して頂けたことで、すてきな方向性が定まった感じがあります。実際に、冒頭ワンコーラスの動画サンプルを見て、間奏のアレンジを宇宙っぽく仕上げました。


①-2. 警報のあった日

動画は 阿修 ( @4syuP ) さん

港沿いは曇天で波風が立っている
腐食の進んだ鋼材と機械油のにおい
「嵐がくるよ」って誰かが言っていた
海風は轟轟と互いに唸って交差している

 タイトルからもイントロからもポストロック・オルタナティブのにおいがしているし、それを意識している楽曲です。特にオルタナの精神性として、(場合によっては美しく、そして)寂しい情景とか、ヒステリックな苛立ちとかが大事だなと勝手に思っているので、内面を語る前に、まず心情とリンクするオルタナ的な風景情報が必須だろうと感じ、歌い出しは自分の外側の情報解像度を上げることを意識しています。

 今作における阿修さんのアートワークの素晴らしい点は、全体的に「曖昧なものを曖昧なまま配置している」ところにあると感じています。たとえば歌詞において、単一の激しい感情やvividなテーマでゴリ押すと、キャッチーではあるが複雑で繊細なニュアンスを扱いづらくなる、みたいなバランスのなかで、複数の感情が溶け合うグラデーションの色合いを表現するにあたり、「晴れとも曇りとも定義できない空模様」だったり「感情の読みきれない表情」だったりの置き方が絶妙で、決めきらないから想像の余地で最大公約数を取れるような、抽象度は高いがベクトルは存在する素敵なアートワークだったと感じています。


 歌詞の話をしていたはずが、動画が大枠を伝えやすいよねの話が支配的になってしまいました。………なんとなく伝わったでしょうか。


②ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットの表記にこだわる癖がある

 以前に『新興宗教』について話すスペースや『ゲルマニウムの夢』の感想記事などで言及した概念として、「ひらがな、カタカナ、漢字、Alphabetのなにを使うかで、字面的な印象や意味性が定義される」というものがあります。

 例えば、ひらがなは「柔らかい」「幼い」「不確かである」「ゆるやか」なニュアンスが、カタカナは「カタコト」「強調」「マスキング(もっというと具体的な異物感)」「シャープ」なニュアンスなどを(意図の有無によらず)出しているように思います。

 また、漢字ならそもそも何を当てるかで含まれた意味が定義されますし、そこで利用する漢字の難度や空間支配量によってちょっとカタくなったりやわらかくなったりします。Alphabetはなんというか、特有のより正式な感じとか、アカデミックな印象を受けます。

 このあたり、調べたら学術的な裏付けがあったりするかもしれないし、そんなことなく完全に自分だけかもしれないのでなんともなのですが、そういうマインドで使い分けています。

 じぶんの過去作品だと、こんな感じに着地しています。


②-1. ことばに花束を

イラストは まつざけ ( @matsu_zake )さん

どこまでも行けるとただ思っていただけ
いつまでも続くとなぜか思っていただけ
ことばに花束を 暮らしの点と線を
ばかみたい またきょうも朝になるまで

 この楽曲については完全に当て書きで、まつざけさんにイラストをご依頼するということをまず決めて、その質感に合う楽曲を意識しました。ハンドメイドな質感があり、やわらかく、はかなげな印象を受けます。

 イラストの雰囲気や楽曲の世界観から、なんとなく、あまりカタカナやAlphabetの合わない楽曲だなと感じました。ので、ひらがなと漢字のみ、かつ全体的にひらがな多めで着地しています。スペースも半角だときゅうくつなので、野暮ったいとしても視覚的な余裕をもたせた全角がいいですね。

 楽曲の扱うテーマ自体が、人によっては刺さりすぎてしまう内容で、ゆえに語り口はやさしく、そして曖昧であれたらと感じていたので、サウンドもちょっと浮遊感のある感じになりました。


②-2. 太陽の王国

動画は さいろめ ( @caitromenA ) さん

太陽の焼き付いた祭壇に
ほのおは揺れ たかく立ちのぼる
砂を巻き上げていく熱風は
うたごえをのせ 永久のゆくてをしめす

黒い夜風にうずまく熱狂は
かたちあるもの しあわせでありますよう

 エスニックな要素をふんだんに盛り込んだ、ちょっと多国籍な物語音楽のつもりです。ある民族のしきたり、口頭伝承の神話、などを文章に起こすにあたり、固有名詞は(海外であれば)カタカナないしアルファベットを、地の文は現代的なバランスで、ことばの部分は確からしさに応じてひらがなと漢字を使い分けるようなイメージで言葉を選んでいます。

 この楽曲も、例によってひらがなと漢字のみです。そもそも外来語が存在しない世界観ですし、3分程度の歌ものの歌詞ではイメージ定着に時間のかかる固有名詞はちょっと間に合わないのもそうですし、語り口としてやわらかく、読み物的であることが好ましいかな、という観点でそうなりました。

 と言いつつ、この楽曲の物語性を定義したのはさいろめさんの動画に他ならないと感じていて、その存在自体や装いから感じる世界の息遣いを、定点から観測するようなMVが、絵本のように空想的で、あまりに素晴らしかったというのがあると思うんですよね。


 歌詞の話をしていたはずが、常にアートワークの話をしている気がします。……なんとなく伝わりましたよね?


おわりに

 ということで、「ぼくが歌詞を書くときの""癖""」についてざっくりいろいろ書いてみました。例示した楽曲についても、度が過ぎた詳説にならない程度の、小出し的な形でちょうどよく着地できていたらいいな……と念じつつ、ボカロP Advent Calendar 2023を明日につなげたいと思います。


 さいごに、歌詞の面で「これめっちゃいいこと言ってる!!!」と感じた記事を以下にご紹介します。昨年この記事に出会えたおかげで、個人的な妥協ラインをぐっと引き上げることができました。一読をおすすめします!


 また、記事内でご紹介した作品は以下となります。よろしければぜひ!
 改めて、ここまで見ていただきありがとうございました!





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