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三人目がいた――「総特集 三原順 少女漫画界のはみだしっ子」感想

 とある友人が言っていました。
「仕事終わって、コンビニのパスタ食べながら、グータンヌーボ見てる時が一番しあわせ」

 どんだけ寂しいんだよ!とツッコむ私に応えて曰く、
「いやいや、ホントだって! テレビの中の会話に『うんうん、そうだよねー』って返事しながら見てると江角マキコと優香と私、女三人で恋バナしてるのとおんなじだって!」

 当時はこの話にげらげら笑っていた私ですが、ポッドキャストを聞きながら腐女子キャスターのトークに「わかるわーそれだわー」と声に出して相槌を打っている今現在、ようやく彼女の「優香と女子会」がいかに画期的かつ天才的な発明であったかを思い知らされています。



 さて、私は基本、作家や作品の「解説書」的な本を読みません。買いません。
 それは今まで好きな作品名につられて購入したら中身がガッカリであったことが一度や二度や五度や十度ではないからです。オタ文化が驚くほど拡大し、ネット普及に伴いファンの声も後押しするようになり、雑な作りの物が少なくなった昨今でさえ、怖くて容易に手が出せずにいます。

 25年くらい前に訪れた謎の「既刊コミックスの文庫化ブーム」において、有名な文化人達が寄せた「あとがき」に、一度も共感したことが無い。

 オタク仲間から発せられた「好きな作品回のマンガ夜話は決して見てはいけない」との教えを、今でも胸に刻んでいる。

 200ページ以上もの大ボリュームで発行されたアニメファンブックが大量の誤表記により回収騒ぎになったのも記憶に新しい。インド人を右に。

 昨今のオタク業界の肥大化により新聞や一般紙にも記事が取り上げられることが多くなりましたが、いわゆる「ファッションオタク」や「ビジネスオタク」によるWikipediaしか見てねーだろコイツ感にイライラを募らせている方も少なくはないでしょう、と言うか私だ。三原順や川原泉の大量のネームを記憶するくらい読み込んでクラスの隅っこで一人にまにましていた偏屈で理屈っぽいオタク少女だった私が、これらを受け入れられる訳がない。

 ともあれ、メーカーに無許可で適当な記事を載せたファミコン攻略本が横行していたあの頃とは訳が違うと分かっていても、なかなかこうした書籍を手に取る勇気が無かったのです。これらの本はカラーページが多い分、安価でないことが多いですし、何より、自分の心の「やらかいばしょ」であるが故に、決してがっかりしたくありませんでした。


 それでも今回「総特集 三原順 少女漫画界のはみだしっ子」を迷わずぽちるに至った訳は、藤原ここあ先生の訃報が飛び込んだからでした。

 あまりにも早すぎる別れにも当然ショックが大きかったのですが、先生の居ない世界への、ファンの嘆きが胸に痛かった。言葉を失くして「嘘だよ」の一言を待つ友人達に、掛ける言葉が見つからなかった。
 彼女達は20年前の私と全く同じでした。


 現在、東京では「~没後20年展~三原順 復活祭」が開催されています。この発表を聞いた私は即座に飛行機のチケットを調べましが、開催期間も半分過ぎた現在、スケジュール的にも体力的にも金銭的にもやはり四回もの上京は難しく、未だ足を運べずにいます。
 せめてもの気持ちもあって、こちらの本を購入しました。
 同窓会に参加する気持ちと似ていました。



 到着した本を開いてみて、まずカラーページの多さに満足し、それから帯に書かれているくらもちふさこ先生の名前ににんまり。はみだしっ子ファンとしては、ヒロインの名前を出されて購入しない訳には行きません。

 本は、何も順序立てて読む必要はありません。
 料理のフルコースの様にきっちりと味わう順番を計算してくださっていたのなら編集の皆さまには大変申し訳なく思います。
 ですが、私は美術館の順路を無視するがごとく、気になったページからぽつりぽつりと伺わせてもらいました。
 
 その中で、声を立てて笑ったのが、くらもちふさこ先生と笹生那実さんのページでした。



 なんだか、お茶会にいるみたいでした。
 ホテルの最上階でキッシュやタルトをつまみつつ、ではなく、親戚の家のこたつでハッピーターンを食べていたら幼馴染みが縁側から上がり込んできた感じ。
 そして昔のアルバムをめくりながら、「あー、あの時そうだったよね」「それそれそれ!」と話している感じ。
 子供の頃に覚えた違和感(薬局のおじさん)や、なんとなく気にはなっていた事(1巻のフーちゃん)の謎も解け、「そっか、それだったんだ~あははは」と、いつしか口から声が出ていました。

 友人よ、笑ってすまぬ。
 私も今、グータンヌーボを堪能している。

「優香と江角マキコと女子会とかどんだけ図々しいんだよ!」
「でもコレがホント楽しいんだって!」

 なまじご本人方が遠い存在であるが故に、妄想も近しくなるというもの。有り得ないから、入って行ける。私の友人だって、優香と脳内で酒を酌み交わすことは出来ても、同じ部署のイケメン先輩と飲みに行っている妄想は決して出来なかったことでしょう。

 わいわいと楽しい時間も過ぎ、ページがラストになった時、まさかの出来事にまたしても声が出ました。こんなことってあるんだなぁ……と、眺めていてふと気が付いた。
 最初は、私がいる気がしていた。その三人のはずだった。
 けれど最終ページにいたのは、くらもち先生と、笹生さんと、三原順先生の三人だった。

 お三方の朗らかな笑い声がころころ響いてくるような、なんとも不思議なページでした。
 未読のページも、これからゆっくり、気負わず楽しませていただこうと思います。



等と書いていたら、後ろの方のページに「マンガ夜話」について村上知彦氏が寄稿したページがあり、「ニャロウ」という素直な言葉が口から洩れたことを追記しておきます。

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