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【note145枚目】 浅草ロック座へ行ってきた7

 先週9月11日、浅草ロック座へ行ってきました。新公演『まつろわぬもの』スト客生活を始めて3年目。これで3回目の秋の浅草詣でとなりました。秋公演には必ずお気に様が出演されているというのも不思議な縁を感じます。今回はなんと桜庭うれあさんと椿りんねさんが同じ香盤でご出演ということで、いつもよりウキウキがマシマシです。

新公演『まつろわぬもの』
 「順う」:従う、従わせる、服従する などの意味を含む言葉。従わず、抗い、流れに逆らいながら生きる人々の景色が詰め込まれた素晴らしい新公演。自分が見たことあるものだと『秘すれば花』『夢幻』と秋の公演は哀切を含んだ景構成のイメージがある。今回もそんな感じなのかなあ?と考えながら観劇に臨んだ。休憩時間には各景のモチーフを担当の踊り子さんが解説している。去年の夢幻でも感じたけど、ペーパーで欲しい…。オープニングムービーも各景を表すシルエットが続いていて良き。色がないってのが味がある。

1景 桜庭うれあ 『土蜘蛛』 古代
 巨大な蜘蛛の妖怪というイメージが先行しているけれど、その実は大和王権に従わなかった土着の氏族・豪族を示すものというのを今回初めて知った。蔑称として書き記されているのが元で、その不気味な存在が妖怪に例えられたというのも納得できる。黒髪とのツートンになっているうれあさんのショートウィッグが禍々しい蜘蛛の頭にも見えるし、同志を先導する棟梁のようでもある。また、ダンサーさんや踊り子さんとのコンビネーションダンスと白基調の照明が大きな蜘蛛が巣を張って敵を絡めとるようにも見える。圧巻の景色。黒基調の衣装と、蜘蛛の意匠のアクセサリーがかっこいいうれあさん。怯まず、恐れず、前を見据えて歩き続ける。勇ましさや潔さを感じるベッドショーがとても素敵だった。

2景 虹歩 『浅茅が宿』 江戸
 虹歩さんと真白希実さんのペアダンス美しすぎる。目に映る全てが綺麗。世界観と劇場の空気が澄んで締まった感じ。去年の『夢音』でもうれあさん→虹歩さんの流れで、ウワっと沸いた1景から一気に大人の世界観の2景で虹歩さんにやられたクチなので今回の「失って初めて尊さに気付く」みたいな切ない景での巧さが光る踊り子さんだなと改めて感じた。妻を置いて都へ行った男と、それを健気に待ち続けた妻。たとえ死して身が朽ちて霊となってまでも死を受け入れずそこに留まり続けた。待ち続け、ようやく帰ってきた男と舞うひと時が妻の最後の幸せだったのかなと感じられるペアダンスと、消えてしまった妻を思う男の哀しさが伝わるベッドショー。哀しい、でも美しい。

3景 花井しずく 『虫めづる姫君』 平安 
 今回初めて拝見した踊り子さん。3景は虫の着ぐるみを着た踊り子さんと、姫君しずくさんでかなり賑やか。その時代にそぐわないタイプの虫大好きな姫君(最古の不思議ちゃんって説明には笑った)虫取り網を振りまわしたり、虫を追いかけまわしたりしておおよそお姫様と呼ぶには跳ね返りが過ぎる。「姫君とは」という常識に全身で逆らっていく自由さが眩しい景だった。表情がコロコロ変わっていくしずくさんがとってもかわいくて、ベッドショーでは青虫の装飾をした小道具と何度もキスをして、本当に好きで好きで仕方ない!!が溢れていた。この方もバレエの下地がある踊り子さんなのかな?振り付けの予備動作から美しい。ポージングもとっても綺麗だった。

4景 赤西涼 『平将門』 昭和

 さっきまでの気持ち返してよ(1回目)めちゃくちゃハードな4景。平安時代の装束から、後半は明治の軍服に変わったところがなんで??と理解しきれてなかったんだけど、どうやら元が『帝都物語』にあると他のお客さんの呟きで知ってようやく理解できた。この景、ずっと人が死んでるんですよね…。ここで絶対に討ち取ると多勢に無勢で切りかかられ死んでいった平将門が、怨念を込め形を変えて蘇り殺戮を繰り返す。赤西涼さん、人を手にかけた時の愉悦に満ちた表情や、侮蔑を込めた視線。何もかもが怖い。素晴らしい。

5景 白橋りほ 『好色五人女』 江戸
 この方も今回初めて拝見した踊り子さん。これがデビューとのこと。ほかに踊り子さん4人が一緒に出てきて、おそらくそれぞれモチーフのものを身に着けていたはず…真白さんは桶を持っていたような。(本当は樽)振袖にリメイクされたセーラー服がとても可愛かった。この景メインの白橋さんは八百屋お七かな?元になるお話が女性の不義密通とかにまつわるお話だから、幸せに恋の話をする女の子たちの空間は「夢の中」となっているのがなんともヒリっとくる。白橋さんのベッド着がオレンジ色だったと思うんだけど、あれは燃える恋心と火の手のメタファーなのかな…夢から覚めた時彼女たちはどうなるんだろうと思うと、ふわふわかわいい世界観が一気に切なさを帯びた気がした。

6景 椿りんね 『鉄輪』 鎌倉

 さっきまでの気持ち返してよ(4景ぶり2回目)休憩時間の解説を聞いただけでもどう考えてもどすーーーーーんと暗くて重い景だって構えていたけど、そんな構えで太刀打ちできるわけがなかった。男に捨てられた女が恨みを込めて丑の刻参りを続けて鬼になる、ざっくりとした導入からもう怖い。りんねさん扮する鬼と化した女と、赤西涼さん扮する安倍晴明のペアダンスが鬩ぎあっている様をよく表してるように見えて心がヒリヒリした。

りんねさんはこういう「重い愛」の情景を表現するのが本当に上手い。心の痛みが目に見えるというか、彼女自身のストリップに対する愛が重いからなのかもしれないなあと感じている。捨てられてしまった女の愛が深いからこそ、哀しみも憎しみもうんと深くなる。愛しているから哀しい、愛しているから憎い。そのすべてが身に収まりきらずに氾濫して自分の身さえ滅ぼさんとする鬼迫に満ちた衝撃のベッドショーだった。ベッド着も血に染まってる感じがとても良かった。事前にご本人から拍手無しのお達しがあったけど、実際目の当たりにしたら拍手なんてしてる場合じゃなかったし、とてもじゃないけど出来ないよあんなん……。

7景 真白希実 『蝦夷』 古代
 「蝦夷」という呼称も、広くはその土地に住まう人たちの蔑称らしい。真白さんが演じる「真っ直ぐな生き様」ってどうしてあんなに美しいんだろう。同志達の心が折れそうになるとき、前を向き、背中を押す。これは私の妄想補完なんだけど、浅草で大トリを飾ってきた真白さんご自身も、同じ香盤の踊り子さん達にとってはそんな存在だったのではないかな?20日間、稽古期間を含めると約1ヶ月。大トリという責務は、同時に公演の完成という目標に向かって進んでいく道標でもあったのかもしれないなぁ…と。年内で引退される事も踏まえてそんなことを考えて、妙にしんみりしてしまった。

フィナーレ 火の鳥

 幾星霜の生と死を見渡し、自ら炎に飛び込んでは何度も蘇る火の鳥。まつろわぬものたちを見届けて未来へ向かう、華々しいショー。暖色で暖かみに溢れていて、ここまで見届けてきたものを全て焼き尽くして浄化していくような印象だった。


一番最初のメモ。「鉄輪」のところが平安になってるのは作品の時代背景から。
最終的には収められている書物の成立時代に統一した。