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【女の犯罪史】 城定秀夫監督


衝撃的作品

Vシネマで製作される作品の凄味を感じた。

あらすじ

時は昭和。田舎の港町の漁協に勤める君子(波多野結衣)は、男を知らないまま見合い相手の義男(森羅万象)に船の上で強引に関係を迫られ、そのまま結婚。

結婚後の生活といえば、家では昼も夜も女中のようにこき使われ、ただただ苦痛なセックスを強いられて無味乾燥の生活を送る日々。

そんな港町で、漁の不作が工場排水によるものだと漁師たちが激昂する騒ぎが勃発。現地調査のため東京から戸塚(吉岡睦雄)が派遣される。

戸塚の素朴な優しさに心動かされる君子。苦痛なだけだったセックスはいつしか快感に変わり、気づけば身も、心も離れがたくなってゆく…。

強烈な薄幸女

はじまりから終わりまで、ただただ君子が不憫すぎる。

君子は気乗りしない様子で、見るからに粗野な漁師と見合い。体格、力の差でも明らかに敵わない状況に持ち込まれ、「一目ぼれした」と強引に関係を持たされます。ここまで作品開始から5分程度なのも衝撃。

亡くなった君子の母が、色を売って生計を立てていたことは狭いコミュニティの田舎町では誰もが知るところで、そこを取り上げて義男は「そんなことを言う奴がいたら俺が半殺しにしてやる。」と言い放つのです。

ここ、よく覚えておいてください。

直後シーンが結婚後へと移ると、君子の不憫な生活描写が怒涛のように続きます。

漁に出る前の仕度が遅いとイラつく義男、「すみませんばっかで暗い女やの」と吐き捨てられる。

漁協の上司と同僚の不倫現場を目撃。同僚から「あんたの家に行ってることになってるから適当にごまかして」と頼まれる。

ただ痛いだけのセックス。

睡眠薬が手放せないほどの不眠に悩まされる。子供ができないのはその薬のせいじゃないのか?と義男に詰られる。不妊とは関係ないと医者も言ってて、今度は旦那さんも一緒に来てください、と言われた旨伝えると「お前が産めん女なんやろ」

遅くまで帰ってこない夫を待ちくたびれて先に眠ってしまったところ、帰宅した義男に暴力を振られ強制的に口淫。挙句「淫売の娘のくせに」と言われる。

「産めん女は男を悦ばせてなんぼじゃろが」なんて、嫁に言える神経が理解できない…。昭和という時代背景が持つ男性像の悪いところが煮詰まったような人物です。お前…義男お前、「そんなこと言う奴は半殺しにする」とか言ってたくせに…。

書き出しているだけでも辛くなってくる怒涛の不憫ぶり。

心まで痛めつけられるような扱いと無味乾燥な君子の生活に、突然現れたのが東京の男・戸塚でした。

傷口に染み入り、潤わす男

義男からは

「味が薄い、食った気がせん」と貶される料理を

「ちょうどいい、美味しい」と笑顔で食べてくれる戸塚。

君子の痛んだ心には、戸塚の言葉と笑顔が深くまで染み渡ったのでしょう。直後、お弁当をこっそり2人分準備する君子はなんだか楽しそう。

そんな二人の様子を煙草をふかしながら眺める同僚。

「あーあ、初々しいわあ」

ほんまやな…。

貰い物の口紅を引く君子。一度はハッとして拭うも、翌日にはきちんと引いて戸塚に会いに行く。なんといういじましさ。

しかし、そんな優しい男でも宿泊している宿に来てくれと君子を誘うのです。ここで君子は「田舎女と思って馬鹿にせんでください…」と一度はきちんと断り、すぐに乗りに行くようなことはしません。

断ったけれども…自分の気持ちに嘘はつけず、お酒はなくなったと義男に嘘をつき出て行った隙を見計らい、戸塚のもとへ…。

暗がりの中で口紅を引く君子の姿が、それまでの虐げられていた不憫な女から、決意を持って変わった恋する女へと変わっている印象を受ける。

そしてその夜を境に君子と戸塚の逢瀬が始まります。

逢瀬の翌朝、勤務先である漁協でふわーっと欠伸をする姿がとても可愛らしいし、戸塚からプレゼントされたハイヒールを履き、楽しそうにステップを踏む君子はとても幸せそう。

この後、帰りが夜遅くになっていたところを義男に見つかり咄嗟に「同僚と話し込んでいたから」と嘘をつきます。

手放せなかった睡眠薬は義男を眠らせるための道具になり、

下手だった嘘を巧みに重ねていく。

小さく、細かな女の変貌が日常に溶け込むように描かれているのが絶妙。

君子の行く先

水質調査期間を終え、戸塚が東京に戻る間際、君子が戸塚の子を身ごもっていることが発覚します。「東京の妻とは別れるから、待っていて」そう言い残し、東京へ戻ります。

しかし、信じて待つ君子のもとに届いたのは、「妻とは別れられない、子供はおろして、離婚するなら3000万円が必要」という手紙。

妻とは別れるっていう男が別れるわけないんですよね…っていうことが分かっているのは見ている他人だけで、当事者は理解できない。

「3000万円あれば離婚できる」と解釈した君子は漁協の印影を偽造し、3000万円もの大金を横領し、東京の戸塚のもとへと向かいます。

口紅と、プレゼントされたハイヒールを身に着けて…。

しかしそれは君子を諦めさせるための方便で、信じて恋焦がれた男に裏切られた君子は失意の淵。そのままホームレスとなり、戸塚と間違え抱きついたサラリーマンに突き飛ばされて激昂し暴行。逮捕されたことによって犯した罪が次々と明らかに。

その後、獄中で私生児を出産。それは女の子だった。

偽造する間、東京に向かう間、戸塚の家に向かう間、裏切られた後。それぞれのシーンに響くタップの音が、ハイヒールをコツコツ鳴らす笑顔の君子と重なって、陽気な音なのに切ない気持ちになるんですよね…。

女優・波多野結衣の素晴らしさ

この作品の何が衝撃的なのか。ひとつは波多野結衣という女優の力です。

今っぽい風貌の美人顔なのに、昭和の香りがする食器類に囲まれている時に醸し出す、絶妙に所帯じみた雰囲気。幸の薄い地味な女性像を体現する演技力。そして何よりこの作品に携わっていたのがデビューから3,4年の頃というのが驚きだった。

虐げられ、裏切られ、とことんまで悲壮感のある薄幸の女、というのはたぶん元々の役者本人には要素の薄いところだろうと思う。それをここまでしっかりと自分に落とし込み、表現されていたことが衝撃だった。

以来、Vシネマでも本業のアダルトビデオでも特にドラマ仕立てのものはついついチェックしてしまうように。

監督・城定秀夫

JOJOを称えよ!

このイベント行きたかったなあ…。

それはさておき。この作品が衝撃的だった理由、もうひとつはこの「君子」という女の一代史というべきものを、70分強の尺に信じられない密度で詰め込んでいること。少なくとも一人の女には強い衝撃を与えて今もなお愛している作品にした城定秀夫監督。

私のJOJOロードが始まるきっかけになった衝撃的作品でした。

この作品に出会えたことで私は、「城定秀夫」という人物を知り、各作品の出演者から「セクシー女優」の見識をさらに拡げ、今に至る成人してからの土台を作り上げたといっても過言ではないのです。

一番好きなのは君子が海岸線を自転車で走るシーン。

戸塚と出会う前と後では自転車の速度、ペダルを回す勢いから、日常を過ごす君子の戸塚への気持ちや幸福感が加速度的に増しているように見える。

1度見終わってから改めてそこを見直すと、妙に切なくなるところでもある。