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人生初のナイトクラブが20220904の渋谷CONTACTで良かった

PRELUDE

今日、おれはフォロワーを急に誘って夜の渋谷に躍り出た。吉野家で適当に牛肉と生卵を貪り、そしてクラブへと向かった。おれたちはそこに何が待ち構えているかも知らずに、クラブを吉野家の亜種かなにかだと思っていた。しかし、実際は燃え盛る虎の巣窟だった。おれたちは、まんまと罠に誘い出されて、そして……真のHIPHOPを目撃した。

志人 & DJ KRUSH

普段、志人は京都の山奥で木こりをやって、合間にHIPHOPをやっている。彼は1989年に生まれて、高田馬場のあたりで育って、早稲田大学に入学したりしながらHIPHOPをやっていた。だいたい17年くらいのキャリアだ。
今日、彼は坊主頭に無精ひげを生やし、そして作務衣姿でステージに現れた。おれは彼のことをまるで修験者か何かだと思った。
志人のライブは、彼の持っている曲をコラージュし、語りとラップの区別がつきにくいスタイルである。はじめ、彼は鳥の鳴き声を模した自作(と思われる)楽器を使って、会場に京都の自然あふれる森を召喚した。おれたちは、その時点で紛れもなく京都の奥ゆかしい森の中にいた。人で満ちた渋谷のクラブではなく、星が見える森だ。
それから、彼はしめやかに詠唱を始めた。DJ KRUSHとのタイアップ曲の『云/鬼 呼 生-たま よび いく』が始まった。ライブとは思えないような声量と速度で語られる世界に、おれたちは完全に引きずり込まれていた。志人とDJ KRUSHがタイアップした2曲は全部Apple musicとかのサブスクで聴くことができるから、全員聴いてほしい。
DJ KRUSHのDJ術もよかった。世の中の音を彼の形に削り出したらあんな音がするんだと思う。乾いた樹齢1000年の老木みたいな音だった。おれたちはライブハウス特有の爆音をスピーカーの側でずっと聴いていた。しかしうるさいと感じることはなく、むしろその裏に隠れている静寂を感じていた。
志人はおれたちに向かって「残りの生を五感で感じ、やるべきことをやっていけ」と高らかに命じた。そして……彼はおれたちの脳髄に流星群を降らせた。ニューロンをスパークする電光が全部流れ星になったみたいな感覚だった。
それを最後に、志人は舞台裏に引いた。DJ KRUSHの深奥なBEATが流れて、彼らのライブは終わった。

ill-bosstino & DJ HONDA

正直なことを言うと、おれは志人を目当てにナイトクラブに行った。ill-bosstinoとDJ HONDAのことはライブ情報をインターネットで検索するまで知らなかったし、まともにKINGS CROSSのCDを聴いていたわけでもなかった。しかし、おれは北海道からやってきた二人に再び焼かれることになった。
二人ともだいたいキャリアが30年近くあったりする。すなわち、日本におけるHIPHOPシーンの黎明期からやっているツワモノだ。それでいて、今回はこの二人が初めて組んでやるライブだったりする。つまり、デビューライブだ。
彼らの音は『GREED EGO』から始まった。非常に伝統的なラップで、おれはヒップホップというよりも格調高いクラシック音楽を聴いている気分になった。つまり、脳内麻薬がドバドバに出てキマっているというよりも、むしろオキシトシンが出ていい感じになっている状態だった。DJ KRUSHのBEATがもはや雅楽めいて逆に新しいのと違い、DJ HONDAのそれは極めて伝統的であり、むしろ安心感すら覚えた。ill-bosstinoのラップにも同じことが言える。昔ながらの一節一節区切って歌うラップであり、『REAL DEAL』なんかは「デッデッデーン!」って低音が、人類全員が知っているHIPHOPの記憶を呼び覚ましていた。
ill-bosstinoはおれたちに繰り返し語りかけていた。「追うものは追われるものより強いが、追われるものは追うものを待たない」「最後まで立ち続けていた奴が勝ち」と。すなわち先達が死ぬまで追いかけ続ければおまえの勝ちであり、おまえが死ぬまで走り続けてもおまえの勝ちということである。
ill-bosstinoはそれを伝えきって、二人のライブは終わった。

POSTLUDE

この二組の言葉と音は、インターネットの量産されたユーモアをコピペする機械と化したおまえの脳みそを完膚なきまでに破壊する。そして、おまえはその瓦礫の中、一匹の燃え盛る虎の子を見つける。それがおまえだ。おまえは子供の頃に置いてきたはずの丸裸な言葉だ。どこまでも純粋であり、清く、原初の愛に満ち溢れている。志人とill-bosstinoは世界と人を愛している。そうでなければあんな言葉は出て来ない。おまえは彼らの発する言葉を聞き、おまえの中に秘められただれもしらない言葉を開放する。つまり、燃え盛る虎の棲む穴にまよいこみ、そして見事生きて帰ることが出来たおまえは、虎なのである。今、おまえはおまえのニューロンに走る炎虎を自覚した。ならば、その炎虎の導くままに、おまえはおまえの言葉を紡げ。おれはそうする。

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