浅瀬 一

会う人いないし、 吐くほど呑めないし、 泣くほど寂しいので、 書くことにしました。 …

浅瀬 一

会う人いないし、 吐くほど呑めないし、 泣くほど寂しいので、 書くことにしました。 https://www.youtube.com/channel/UC1uvmhHEs0b5_zlCilHiSdQ

最近の記事

#7だから何度も言っているように、

私は後方支援に興味がない。 もちろん春陽のことを下に見ているわけではない。だけど、見たことのないものを誰より先に見たいと言う気持ちが抑えられないのだ。 ベガは先遣隊が探査し終わった星だ。その星に危険因子がないことを確認し、次に鉱石や植物などを調査して、有益な情報を持ち帰る。その調査の時点で私たち学生を駆り出し、探査の訓練も兼ねて人件費を削減しようという魂胆だ。 だから特に興奮したりせず、訓練を適当にサボって森へ進んでみた。見たことない植物もあるように見えるが、図書室の図

    • #6だから何度も言っているように、

      僕が銃を打つことに意味なんかない。 そこに銃があって、引き金が引けて、的に当てられる能力があっただけだ。 この星にはあとどれぐらいの仲間が生きているんだろうか、 あれだけあった弾倉も今はもう一つだけだ。 この星にはあとどれくらいの敵がいるんだろうか。 鬱蒼とした森の奥に、歩く気配があった。 スコープの反射がバレないように気配を消して向こうを覗くと、警戒心のない女がいた。こちらにはまだ気づいていないようだ。 にしても、不用心が過ぎる。ポケットから煙草を取り出して火をつけ始め

      • #5だから何度も言っているように、

        夏が好き。 あの突き抜けるような、風が特に。春陽と言う名前も気に入っているけれど、この風には負けるかもしれない。 春の良さといえば名前の通り、暖かい陽だまりだと思う。のんびりとしたあの空間は、この時間がずっと続くのかと思うほど良い。でも、夏は動きのあるあの風が私を運んでくれる。そんな気分になる。 でも冬も冬でいいところはたくさんある。雪は自然の迫力を間近に感じることができるし、冬の吹き荒ぶ風も、自分の体の境界線がわかるようで楽しい。 いつだったか、「批判をせずになんで

        • #4だから何度も言っているように、

          夏が嫌いだ。 汗が体を伝う感覚がどうにも苦手だからだ。汗ばんだ体を風がなでるのも、自分の体温の高さが際立つようで不快である。風香と言う名前にとことん負けている。 少し前までは毎年毎年憂鬱だった。マシになったのは煙草を吸い始めてからだ。煙草の葉っぱは乾燥すると喫味が辛くなる。程よく湿気を含んでいると、その葉特有の味がよくする気がする。もし違ったとしてもいい。 そうだと考えていれば気が紛れるからだ。 とはいえ別段冬が好きと言うわけではない。気温が低いおかげで燃焼温度が下がり

        #7だから何度も言っているように、

          #3だから何度も言っているように、

          春陽が一番怖い。 私に対してネガティブな行動をとるから、と言う意味ではない。 むしろ逆だ。 今は私の後ろをつかず離れず歩いている春陽が、知っている人間の中で一番怖い。それは、すぐに怒るだとか、腕っ節が強いと言うわけではない。むしろ、怒らないのだ。たとえば、誤解で男子のいじめの犯人にされたときも、自分以外のミスのせいで訓練が伸びたときも、不良に喧嘩を売られたときも、怒りを顔に出すことは一切なかった。 希望する学科に特化している今の学校へ転校した後は、学校内はどうだか知らな

          #3だから何度も言っているように、

          #2だから何度も言っているように、

          男女の権利は平等であるべきだ。そんな横断幕を掲げた男性議員も増えてきた。男性の雇用を増やす政策も知らない間に作られ、徐々にではあるが私の学校にも男性教員の比率が上がっている。風香の学校の役員はまだ女性ばかりだが、私の学校の校長は今年度から男性教師になり、地元の新聞で取り上げられていた。 「ナンパでもしに行く?」 「そんなガラじゃないのわかってて言ってるでしょ。」 「たまにはいいじゃん」 風香は暇そうにしてまた煙草に火をつける。 「このぐらいの時間に吸うたばこが一番美味いよな

          #2だから何度も言っているように、

          #1だから何度も言っているように、

          「甘いものとタバコは合わないの。なんか口の中で混ざり切らないんだよ」 風香が制服から着替えた後は耳にピアスがたくさんぶら下がっている。 重そうだし、引っ張ったら痛そうだからあんまり長く見ていられない。 「甘いものが食べれなくなるなんて最悪じゃんそれ。やめなよ」 何度も言ったセリフを、もはや冗談のように言う。私は死ぬまで吸い続ける、と風香はいつも言った。 学校の近くの自販機にはいろんなフレーバーのたばこがあるのに風香はいつも青いパッケージの飾り気のないものを選んでいた。私は

          #1だから何度も言っているように、

          アトモス

          広い広いこの星の真ん中 寂しさだけで書いた手紙 後どれくらい追いかけるのかな、なんてね 終われないなんて言えないぜ 運命のUFO流星の向こうへ行こう 十年後不透明度急成長の前にさほら That is necessary いなくなったよ地下暗い魔王 ご感想はどう?新しい王 笑わせるぜ 運命のUFO流星の向こうへ行こう 十年後不透明度急成長の前にさほら That is necessary あぁどれくらい追いついたのかな、なんてね まだまだだなんて言えないぜ

          アトモス

          moon

          寒いから一人で あなたのマフラー買いに行く 期待とはさようなら 重いのは嫌いでしょ迎えに行く なかなか行かない旅行に行こう 流行りの場所なら月なんてどう 今は安いみたい フラットな通りを 歩いたら向こうから風が吹く なかなか言えない言葉だとか 流された後の気持ちよりも なかなか行かない旅行に行こう 流行りの場所なら月なんてどう すごく静かみたい

          手取り

          タネも仕掛けも凡庸で ほつれもつれ連なって だけど僕は釘付け 百貨店のこの階で 誰も彼もが後攻で 先手打てば叩かれて 良く見えるのは幻想で 隣の人だけ愛せ 手を取って 僕のこの手を取っておいで 大人気取りは強情で いつもいつも辛がって 晴れてどんな風に浮いて 懐かしんでしんぜようか でも間違えないように 想像通りになったり したったのは言った通りお金じゃない まして力じゃない そっちはなんか違うんじゃない ジョンレノンが引っ叩いたここが痛い 手を取って 僕のこの手を

          「ぼう」

          あの時これを握って振り回していたのはなんでだったんだろう。 たぶん、怖かったんだ。 学校が終わってからは行くところがなかった。だからこいつらと一緒に遊んでいた。もともと気の合う友達ではないと言うことはお互い気づいていたんだろう。しばらくすると遊ぶ内容も少なくなっていった。そんな時にあの浜辺に行った。特に誰かがここに来たいと言ったわけではなかった。 それを見つけた時、最初は怖かった。こんな場所まであれがくるとは教わっていなかったからだ。どうでもいいこいつらとも今だけは気が合

          「ぼう」

          「触らぬ神に祟りなし、されど」

            お客様は神様だ。 丹精込めて作った作品をわざわざここまで探しにきて評価してくれる。 「おお、これがあったら助かる」と言ってくれる。作り上げた甲斐、というものをくれる。遠くであっても近くであっても気にかけてくれて、新しいものがでてくるたびに見にきてくれる。その分、満足されられない作品を作ってしまった時は申し訳ない気持ちになる。もっと精進しようという気持ちになる。 言い方を選ばず言おう。お客様は"神様"であるから、 "おまえ"では無い。 もちろんこんな偏屈で奥まった場所

          「触らぬ神に祟りなし、されど」

          「風呂」

          なるべく遠くの水面を叩くと「バシャン!」と音がする。放った力が100%伝わる感覚がした後、すぐに体がふわっと浮いた。アメリカを再現したオープンワールドのゲームのビーチ似ている景色の中で、かなり沖の方を僕は泳いでいた。  これは夢だ。第一に僕はクロールが泳げない。唯一溺れない泳ぎ方は平泳ぎで、これも得意というわけではない。そんな僕が意のままに海を泳いでいる。いつ終わるかもわからないがこの夢を楽しもうと思った。 ふと誰かに呼ばれる。行かなければいけない気がする。ついていこう、と思

          「風呂」

          「ひとつ」

          小綺麗な店の中には風格のある木製の長いテーブルがあり、そこには商品が行儀良く列を作って買い手を待っていた。店員はといえば、レジの椅子に無愛想に座っている。やたらと話しかけてくる服飾店よりは居心地の良い場所だ。商品を順番に見ていく。ひとつ気になるものを見つけた。これを買うことにしよう。 小綺麗な店の中には風格のある木製の長いテーブルがあり、そこには商品が中良さそうに並んで買い手を待っていた。店員はといえば、レジの椅子に無愛想に座っている。やたらと話しかけてくる服飾店よりは居心

          「ひとつ」

          「なわ」

          今時の賃貸には珍しい、柱になわを強く巻きつける。決まった結び方じゃないと力がうまく伝わらないらしい。ネットと見比べながら不器用な手つきでなんとか紐をくぐらせて、ぐっと力を込めて結び目を固く縛った。 君と仲良くなりたいなと思った。そのために君が好きそうな映画を見て、音楽を聴いて、本を読んだ。君と仲良くなれたかどうかは怪しいけど、その映画や本や音楽は僕の身体と合っていて、じんわりと心に染み込んだ。 遊びを残さないようになわをピンと張る。ギターの弦を変えるときと似ているなと思う

          「なわ」

          「森」

          誰もいない森で一本の木が倒れたら音はするのか? 波長は受け取るものがいなければ存在しないのか? 音や光はなんて脆いんだろうか。 誰かの耳や目に伝わるまでに光や空気の影響を受け、 絶え間なく変化していってしまう。 誰かが「その音が聞こえた」と言ったらどうだろうか? 誰もいない森だと証明できない場合は? 腑に落ちないことを解釈して自分の中に落とし込んで、 その解釈を人に伝えることができるだろうか。やってみたい。 散文。