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10th Anniversary

きっと、自分が望んでいる場所にはいけるようになっている。

「離婚て、どうやってするんだろう」

私がその話をした時、波瑠は泣いていた。
私と波瑠と夫は、大学の同期で同じサークルに所属していた。

「あんなにふたり、お似合いだったのに……」

波瑠はそう言ってくれたけど、いまいち私にはピンとこなかった。
私と彼は大学2年の頃から付き合っていて、付き合って7年目に結婚をした。お互い面倒くさがりで、結婚式は挙げなかった。
付き合っている間も結婚してからも、いちどもケンカをしたことがない私たちは、おだやかなふたりとして皆の目に映っていたのかもしれない。
それをうまくいっているというのなら、ほとんどの人間関係は実にたやすいと私は思う。私にとって、相手に合わせることは何も難しいことではないからだ。

「里美は優しいから、いままでいろいろ我慢してきたんでしょう。これからはそのいろいろをぶつけていけばいいんじゃない?それからでも私、遅くはないと思うんだけど……」
涙声でそう言ってくれる波瑠を、私はとても優しいと思う。友達でよかったと思う。

「私、全然優しくなんかないよ。」
これは心からそう言ったのに、波瑠には否定されてしまった。
私がいろいろ我慢するのも、相手に合わせるのも、思考の出発点は全部、私が面倒くさいからなのであった。
自分の考えを相手とぶつかってまで共有しようとするのも、ぶつかって歩み寄ってさらに仲が深まったりするのも、全てが面倒くさいのだった。
私は私と一緒に過ごす時間が一番好きなのだ。

「でもさ、ふたりは今までもそうやってやってきたんでしょう?だったら大丈夫だよ、これからも頑張れるよ」

波瑠の励ましには、なんの含みもない。心から、私たち二人のことを思ってこう言ってくれている。私は波瑠のこういうところが苦手だ。

私は変化がこわい。だからこれからも彼と一緒にいると思う。私がこういう気持ちなのであれば、いずれむこうから話が切り出されることもあるだろう。その時は、今が時期だと受け入れると思う。

私は自分の気持ちをはっきりと言わない。
付き合ってる時も、結婚してからも、ずっと他に好きな人がいた。3人か4人か、あるいはもう少し。
変化を嫌う裏側で、ずっと同じ場所にとどまることもまた嫌いなのだった。ずっと生殺しのような状態で、もうすぐ10年が経つ。

10年という節目に、彼は何を想うのだろう。

変わらないことといえば、呼吸を続けていることくらいか。


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