AKB48 わがままガールフレンド

何故かマガジンハウスから出たファッションブックと称する写真集。
奥付けにディレクターとして淀川美代子の名が見える。 巻末に「AKB48は21世紀のオリーブ少女だ!」と題する蛇足コラムがあるように、オリーブ的な構成。
中島らもの「うめぼし新聞」読みたさに、姉貴のオリーブを盗み読みしていたあのころの尻の下がむずむずするような居心地の悪さを感じつつ読了。

テーマで括った写真のページと、間に挟まる対談や占いで成り立っており、モデルとして登場するのは前田敦子、大島優子、小嶋陽菜、板野友美、松井珠理奈、篠田麻里子、渡辺麻友、宮崎美穂、高橋みなみ、小野恵令奈、峯岸みなみ、北原里英、柏木由紀、宮澤佐江、河西智美(目次の並び順)。
オフショットがページ立てになっているのは前田敦子、大島優子、小嶋陽菜、板野友美、松井珠理奈、篠田麻里子のみ。 残りはその他大勢扱い。

マリン・ルックと水着は斉藤亢、下着(敢えて「ランジェリー」とは書かない)と対談は熊谷隆志、キスマークTシャツと花プリントとイメージチェンジは天日恵美子が、ミリタリーは佐野方美が、それぞれ撮影。

斉藤亢の仕事は凄い。 AKB48は篠山に撮られたことより、斉藤亢に撮られたことを誇るべき。
熊谷隆志の仕事は酷い。 AKB48は商業主義と揶揄されることより熊谷隆志にヤッツケ仕事をされた事を恥じるべき。

オリーブと言えば、TPDのフロントメンバーだった八木田麻衣が「芸能界を目指す素人」として載ったように、「もっともらしいウソ」を巧妙にちりばめた大人になりかけた少女向けの絵本であった訳だが、このファッションブックなるものにも「つくられた物語」のようなものが散見される。
笑顔の下に涙を隠していたにしても、劇場での公演には嘘の無い生の感動があった訳で、それを見るために劇場に通った身としては、こういうインチキ臭い物づくりをする連中が一丁噛みしてAKB48を食い物にするようなのを見るに付け哀しくなる。
インチキが悪いとは言わない。 インチキと判らないように上手く騙してくれさえすれば文句は無い。

全員集合的顔見世写真は無く、人気の濃淡で写真を使われる枚数が決まったりもしないところがファッションブックらしさか。
しかし乍らAKB48でありさえすれば何でも売れる時期に出すファッションブックにしては、布地面積が少なすぎる。 そうしないと商売にならないと踏んだのか、AKB48がお安く見られたのか。 第二弾をもし出すなら、秋冬物中心でお願いしたい。

篠田麻里子は撮られ慣れている上手さ。 何を求められているのか理解して動いている。
板野友美は例によってカメラの前に立つと化ける感じの巧さ。 表情の種類の多さは図抜けているし、ハズレも無い。
大島優子はスイッチが上手く入ればアタリもあるが、ハズレも多い。

マリン・ルックでおしゃれスタート (撮影=斉藤亢)
12ページ9カット。 見開きが三箇所ある。
篠田麻里子=4カット
北原里英=4カット
小嶋陽菜=3カット
河西智美=3カット
前田敦子=2カット
板野友美=2カット
大島優子=2カット
柏木由紀=1カット
宮澤佐江=1カット

1970年代に洋服を図解するためのカタログとしての写真から若い女性のライフスタイルとしてのファッション写真へと新たな地平を切り開いた斉藤亢が撮影。 流石にきっちりした仕事で隙が無い。 モデルも活かし、服も活かす、良く出来た写真。 このマリン・ルックの写真だけでも1500円の価値はある。
「推され」とか「干され」とかそう言う卑俗な物言いは嫌いなのだけれど、写真そのものを見ないで登場カット数だけを見る向きには北原の4カットは異常な数に見えるかもしれない。
北原の、ただ整っているだけではないアクの部分が上手く生きていて、2カット目4カット目あたり実に良い表情。 どちらも一緒に写っている板野や河西の方がポージングも表情の作り方も上手いのだけれど、不思議と北原に目が行く。

眩しすぎる!初めてのランジェリー(撮影=熊谷隆志)
18ページ、16カット。 うち見開き2箇所。
大島優子=7カット
前田敦子=6カット
板野友美=5カット
篠田麻里子=4カット
柏木由紀=3カット
小嶋陽菜=3カット
河西智美=2カット
北原里英=2カット
宮澤佐江=2カット

色々な意味で酷い。 看板に偽り有り有りで、眩しさの欠片も無い。 むしろどんより。

下着と言ってもきわどいものではなく、布地面積も水着と大差無いのだけれど、やはり「水着」と「下着」では着る者の(見る者もだが)心理に落とす影の大きさは違うようで、全体的に表情は冴えない。
それに加えて何処にピントが合っているのか、そもそも合わせる気があるのかすら分からない熊谷隆志の撮り方と、百年の恋も一遍に醒めるようなハズレの表情を敢えて撰ぶ編集者の狂った審美眼とが相俟って、見るに堪えない写真が並ぶ。
根が正直な奴の顔を選って見てみると、現場の雰囲気も読み取れる。
こんな仕事が来ることもある。 ご愁傷様。

KISSマークTシャツ(撮影=天日恵美子)
小嶋陽菜と板野友美のオフショットページを挟んで、読者プレゼントのKISSマークTシャツを着た写真と、キス顔の写真を。
前田敦子、板野友美、大島優子、篠田麻里子、小嶋陽菜、松井珠理奈で、8ページ13カット。 見開きの集合が1カット。
Tシャツを着た方の写真は表情も明るく、松井珠理奈が若干塩分過多なくらいで、なかなか良い写真。 キス顔の方は板野友美だけが可愛らしく、あとは罰ゲーム。
前田敦子は南極に居そうな顔だし、松井珠理奈は酸っぱいものでも食べたかのような顔。 こう言うのはキスをしている顔ではなく、キスをしたくなる顔に仕上げなければ意味が無い。 無駄なリアリズム。

キュートなミリタリー(撮影=佐野方美)
8ページ5カット。 見開き3箇所。
前田敦子=2カット
板野友美=1カット
大島優子=1カット
小野恵令奈=1カット
小嶋陽菜=1カット
高橋みなみ=1カット
松井珠理奈=1カット
宮崎美穂=1カット

ストロボを至近距離から当てたような写真。 面白い表情は切り取れているが、撮り方は雑で、背景紙の端を壁に留めたテープまで写りこんだカットまである。
前田が横坐りになった写真は良い。
警察は軍隊では無いのだけれど、ファッション用語では「ミリタリー」で一と括りなのだろうか。

ラブリー&セクシーな水着 (撮影=斉藤亢)
16ページ12カット。見開き4箇所
峯岸みなみ=6カット
大島優子=5カット
小嶋陽菜=5カット
板野友美=4カット
高橋みなみ=3カット
前田敦子=3カット
松井珠理奈=2カット
小野恵令奈=1カット
宮崎美穂=1カット
渡辺麻友=1カット

小野恵令奈、宮崎美穂、渡辺麻友は10人横並びの見開き集合のみ。 松井珠理奈が水着らしい水着を着ているのも珍しい。
細かく腹を隠す小野と宮崎。 元が細かった小野がそうしたく(させたく)なるのは分からないでもないが、宮崎は隠すほどの事は無いと思う。 ぷよぷよしていてこその宮崎。

板野友美の表情が、他の衣装のときとはガラリ変って柔らかい。 特にチームA生え抜きの連中と並んだカット、最初と最後の見開きの写真が実に良い。 板野の引き出しの多さを改めて感じた。

髪を下ろした高橋みなみと言うのも中々見られない絵だ。
峯岸みなみが6カットで一番多いのだけれど、可愛らしさと色気を上手く出し分けられていて、状況によって何を求められているか的確に判断している。 

役者としてのスイッチが入った大島優子の恐ろしさが出ているのか65ページ。 着ている水着そのものは色気よりも可愛らしさに振れたデザインなのだけれど、うっすらと見える日焼け痕と解けた肩紐を絡めた指先が艶かしい。 他のカットでも指先の曲げ方の一つ、口の開き方一つに意味がある。
モデルとしての仕事を役者的解釈でこなしているので、身に纏った衣装や小物を上手く見せつつも大島優子そのものが前に出ている。 ファッション写真としてこれがどうなのかはさておき、ポートレートとしては良質。
「判り難い凄さ」こそが大島優子だと私は思っているので、このあたりの大島優子は実に見応えがあった。

カリスマモデル・ SHIHO とおしゃれレッスン(撮影=熊谷隆志)
モデル仕事の多い篠田・板野と、役者仕事の多い大島優子。 都市圏で育ったおしゃれな人と、仕事で都市圏に来て育ったそうでもない人の組み合わせ。
6ページ、6カット。 見開き一箇所。

篠田は流石に大人で、話を上手く引き出し、廻している。 非おしゃれ女子の大島は「どうしたらおしゃれになれるか?」と根本的なところから質問。 おしゃれ女子の板野はそれに便乗して質問を膨らませる。
SHIHO の話は具体性があって判り易く、読者女子にも参考になるのではないかと思う。 まぁ、その辺りが男である私には読んでいて尻の下がムズムズする部分ではあるのだが。

損な役回りではあるが、大島優子が居ることで対談に厚みが出ている。

花プリントでピュアガール(撮影=天日恵美子)
枠を大きく取った小さめの写真で10ページ10カット。
大島優子、渡辺麻友、前田敦子、宮崎美穂、小野恵令奈、松井珠理奈、高橋みなみ、峯岸みなみ、板野友美、小嶋陽菜(登場順)
良くも悪くもオリーブらしい写真。 
髪を下ろしてリボン無しの高橋みなみ。 こうして148cmなりに撮られると、どうしてよいやら不安げな表情になってしまうが、こうした顔もまた良い。
横位置の写真はともかく、縦位置の写真になると足首やひざの辺りでばっさり切ってしまう構図が多く厭な感じ。
靴まで無理に入れない事で説明的になるのを避けているのかもしれないが、やはり一寸引っ掛かる。
メイクが白浮きしておてもやん化してしまった渡辺麻友が一人貧乏籤。
特にポーズを取らせずに、ただ突っ立っているところや歩いているところを撮った写真で構成。 規定演技の板野友美は、規定としては満点。 大島優子はここでも一捻りして規定に無いものを盛り込んでいる。 それがファッション写真として良いのか悪いのかはさておき、見れば見るほど味のある写真にはなっている。
峯岸もその線。 良い仕事。

いつもと違うわたしにチャレンジ!(撮影=天日恵美子)
普段着からスタイリストの用意した服に着替えて変身・・・と言う子供騙し企画。 最初に着ている服だって何処からどう見ても衣装。 臆面もなくこう言う事を出来るのがオリーブ。
前田は前も後もさしたる変化は無いが、小嶋の変貌振りが凄い。 服を選んでいる時のかったるそうな顔から、お仕事モードのけだるげな表情へ豹変。 立ち方は上手くないが、圧倒的な美形感で帳消し。

「こう見せると生きる」ってのを形として残せたのは、小嶋にとっても良かったのではなかろうか。

メイキング・オブ・AKB48 ファッション・ブック
「AKB48のおしゃれマイブーム」と称した雑貨紹介、プロフィール代わりの「ラッキープリンセスの恋と運命を語ろう!」と題した占いページの後にオフショット4ページ。
アイドル専門誌なら仮令オフショットでも使わないようなスイッチの切れた顔の写真がちらほら。
「眩しすぎる!初めてのランジェリー」などと御為倒しの表題を付けても、写り込んだ進行表に目を凝らすと、直截に「下着」と表記。 脇が甘いというか何と言うか。

最後に中森明夫の蛇足コラム。
提灯の持ち方が下手になっていた。

総括
「ファッションブック」と言う体裁で出されたが、表紙が下着で裏表紙が水着。 これは看板に偽り有りと言はざるを得ない。
水着はともかくとして下着にひん剥く意味が判らない。

「AKB48」と冠が付けば何でも売れる時期に、ここまで安売りする運営側の意図も読めない。
一度上げた露出度を下げるのがどれだけ大変なのか理解しているのだろうか。

評価出来る点は、何度も書くが斉藤亢に撮らせたという事、これに尽きる。
やっつけ仕事の好い加減なつくりの本の中で、それが唯一の救い。

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