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気合のいらない花見|摩衣の快適部屋とふらふら【#5】

農学部を出た私の、卒業論文に選んだテーマは「なぜ日本人はお酒を飲みながら花見をするのか」。

春になり桜が満開になる頃には決まって毎年、ちょうど卒論執筆時期に留学していたニュージーランドで、現地の図書館で桜にまつわる書物を探し回っていたことを思い出す。

21歳のうら若き、そしてお酒に弱かった私は、不思議でならなかった。なぜ新入社員にお給料を払いながら場所取りをさせるほどに、お酒を飲みながら桜の下で花見をしたいのだろうか。

それから随分と時間が経った今でも、未だその気持ちは分からないうえ、以前にもまして「気合を入れて大勢が集う、お酒を伴うお花見」には違和感がある。だからどう、というわけではないけれど。

いい束感。

この春は桜がちょうど咲く頃、私は快適空間を搭載した愛車で静岡~岐阜~三重をふらふらと(時にビュンビュンと)走り、常に山奥に居た。

都市では満開のお花見=人の頭を見に行くに等しい反面、少し郊外へ出ると、そこには本当に無造作に、豪勢に咲く桜たちが山ほどある。しかもその多くには、ほとんど人がいない。

たった1週間で散ってしまう儚い桜の、一番いい瞬間に、無計画な旅の途中にたまたま居合わせることができる、しかもそれを独り占め(うちの場合はふたり占めだけれども)できるという贅沢。

「いつどこにいてもいい」ことの恩恵を、家なし生活1ヶ月の間にすでに何度も受けている。素晴らしい。

快適部屋のリアゲートを開け放つと、そこには。

各地で「お気に入り」が増えていくのは、なんとも嬉しい。しかもそのほとんどは、名もなき路肩だったりする。
(ちゃんとGoogle Mapでピンどめでもしておかないと、二度と訪れることはできない)

ちなみに例の桜の卒業論文については、ついに「論文」と呼んでいいほどに内容をふくらませることができず、あえなく別のテーマで書き直した。突貫工事の論文だったが、無事卒業することができた。
(しかし代替論文については思い入れがなさすぎて、テーマが何だったかすら思い出せない)



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