谷川俊太郎が語る「ことばの組み合わせ」への心配り

部屋の片付けのようにEvernoteを整理しつつ見返していたら、以前感銘を受けてやったことがない書き起こしまでしていた動画を見つけたので、ここでシェアがてら書くことにします。

たぶんnoteをやっている人であればまず間違いなく知っているであろう詩人の谷川俊太郎さんが、ほぼ日から刊行された「かないくん」について阿川佐和子、糸井重里という聞き手としては最高峰の2人と語った時のUstreamがありまして。

かないくんを語らう夕べ。
http://www.ustream.tv/recorded/43034248

このアーカイブの1時間6分辺りから、阿川さんが「今の若者の歌」について不満に思っていることを話すところがあるのですが、その不満に対しての糸井、谷川連合の返しが本当に素晴らしくて感動しました。

動画を見るほどヒマじゃない人向けに、会話を途中で遮ったり詰まったりした箇所を除いた書き起こしを以下に掲載しておきます(結構カットしている部分がありますが、主旨は変わっていないので問題はないかと。気になる方は動画をご覧ください)。

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阿川:さっきも楽屋で言ってましたけれど、今の若者が本当に心酔する歌とか詩、文章、物語っていうのが…

言葉としては、私がひっかかっているのが、例えば「大丈夫」、「明日は必ず来る」、「手をつないで歩いていこう」、「僕がそばにいるよ」、「涙を拭いて、さあいこう」、っていうのばっかりなんですよ。

糸井:うさぎさんどうしの歌だね。

阿川:なんなんだろう。これでみんな「勇気付けられたんです」って若者は言うんだけど、「どこで?」って。

それで、最近歩きますよね。私たちの小さいころは船だったでしょ。それが飛行機になって、その次「中央フリーウェイ」とか、道路でドライブになった。

最近歩きますね、歌は。みんな手をつないで歩きますね。

糸井:車買わないもんね、若い子はね。

阿川:まあ歩くのがいけないとは言わないんだけども、心の悲しみとか、寂しさとか、経験した痛みとかいうものを、どういう言葉で、「あ、いいんだ、これで生きていこうぜ」っていうふうな気持ちにさせるかっていうものが、文学だったり、絵本だったり、詩だったり、歌だったりするんだけど、それがことごとく「大丈夫」、「そばにいる」、「手をつなごう」って。これじゃだめでしょうって。

そのへん、どうですか?私だけ怒ってるのもなんだけど。糸井さんそんな歌つくってたっけ?

糸井:僕はそういう歌は作れないんですけど、谷川さんと僕と同時期に一人の人を褒めたことを知ったんですけど。岩崎航さんっていう、ずっと点滴を打たれながら…

「点滴ポール」っていう本があるんですよ。で…五行詩ですかね?

谷川:そう、五行詩ですね。

糸井:五行詩で、自分の今の状況とか、感情とか、さまざまなことを書いてるんですが、今阿川さんがおっしゃったような言葉づかいにそっくりなんです。

阿川:はい?

糸井:つまり、手垢つききったような、街に落ちてるゴミみたいなくらいに、みんなが使っているなんでもない言葉ばっかり拾ってきて、コラージュみたいにして作ってるんです。

ですから、パッと見たら今阿川さんが言っていたような詩(うた)なんですけど…良いんですよ。

阿川:良いんですか?

糸井:ものすごくいいんですよ。

で、そういうことの可能性を僕はやっぱり、時々。例えば「昔は良かった」になっちゃうんだけど、例えばRCサクセッションなんかでも、そんな歌を歌ってるんですよ。でも、混じるんですよ良いのが。

阿川:その混じり具合が良いと。

糸井:そう。で、その岩崎航さんっていうのは…良いんですよねぇ。

谷川:いいですね。

糸井:もう、やんなっちゃうくらい平凡な言葉だらけなんです。広告の裏で書いているみたいです。

だからそれは…なんだろう。

阿川:それはそういう言葉を選ぶからいけないんじゃないと。

糸井:じゃない。文字を使っている人のひとつの憧れの境地っていうか、

阿川:普段の、日常の言葉

糸井:日常の以上ですね。それの写真を撮ってる齋藤君って人は、写真集のタイトルを「感動」とか言ってますからね。

阿川:「感動」ですか。

糸井:「感動」って言葉…ひどいですよね?

阿川:ええ…「感動した!」

糸井:そう。

谷川:その写真家は耳が聞こえないんですよ。

阿川:はーー…

糸井:だから、技術が見えるみたいなことの、次のところを触ろうとしている人たちがずいぶんいて。実はこの本(かないくん)も、結構その要素が。谷川さんはやる人なんで。あえてやっているところは結構あると思いますよ。

阿川:何が違うんだろう。「なんだ、こんな歌!」ってやってる横で、このかないくんを読むと、本当に普通の言葉しか出てこない。

(ページをめくり)「今日、となりのかないくんがいない」。これか?っていう…手垢のついたような言葉しかないんだけど、何でこんなに心惹かれるんだろうって。

谷川:だから、ことばの組み合わせってすっごいデリケートなんですよ。みんなそのデリケートなところに気がつかなくなっていて。決まり文句みたいな表現もちょこっと変えると決まり文句じゃなくなるはずなんだけど、みんなそこを全然考えずに決まり文句をそのまま使う傾向にあると思いますね。

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最後の谷川さんの「ことばの組み合わせ」という表現はすごく心に刺さるものがありました。

たしかに、正しいしきれいな表現なんだけど、全く心に刺さらないことばというのは現代社会ではよく目にします。一方で、同じ単語を使っているはずなのに惹かれることばも目にしたことがあります。

ことばの組み合わせ、キーボードで簡単に消したり修正したりできる今だからこそ、強く意識したいものです。

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