2ヶ月経って

今のシェアハウスに暮らし始めて、あっという間に丸2ヶ月が経った。物件は今年の2月末に完成した新築だが現在は全13部屋のうち、空いてるのは一部屋だけで残りの12部屋は埋まっている。つまり私は、11人のハウスメイトと共同生活をしている事になる。男性は私を含め8人、うち日本人7人、オーストラリア人1人、女性は4人で日本人、イギリス人、香港人、フランス人といった構成だ。部屋はそれぞれに個室があり、2Fに共同キッチンとシャワールームが2つ、3Fにバスタブ付きのシャワールームが一つ、洗濯機が2つ、屋上はオープンスペースになっており、誰でもいつでも自由に使える。

最初から住んでいたイギリス人とフランス人の女性に加えて、直近で住み始めたオーストラリア人の男性も日本語が全く出来ない為、ハウス内の会話は半分以上が英語、ハウスメイト同士のグループラインは誰が決めた訳でも無く、自然な流れでほぼ100%英語になった。立地なのか、値段なのか、はっきりした事は分からないが、ここに住んでいる日本人は程度の差はあっても全員が日常会話レベルの英語はほぼ問題ない人が集まっており、1番若い22歳の男性に至ってはネイティブとほとんど変わらない様に私には聞こえる。彼はニュージーランドの永住権を取り、ニュージーランド航空のキャビンアテンダントになるという目標の為に日々勉強しており、彼なら数年後にはきっと実現しているだろう。おそらく、住んでいる日本人の中で英会話のレベルが1番低いのは私だと思う。

2ヶ月も暮らすと、一人一人の生活リズムやキャラクターも大体の部分で把握出来るようになってくる。私の住んでいる部屋は2Fでリビングのすぐ隣にあり、人が通る足音、会話、部屋の扉の開け閉めの音がよく聞こえる。住み始めて最初の1週間はリビングの音があまりに聞こえる為、3Fにすれば良かったと少し後悔したが、すぐにそれにも慣れた。私がそうである、という事は2Fに住んでいる人全員がそうである、という事でもあり、リビングの色々な音がよく聞こえる、という事を前提に各自が生活をしている。午前中から正午過ぎの時間帯は、リビングで料理を作るタイミング、シャワーを浴びるタイミング、顔を洗うタイミングを各自が何となく空気を読み、重ならないように絶妙の間合いで行われる。その時間帯にハウスメイトと顔を合わせても、感じ良い挨拶と、相手を気遣う言葉と、程々の世間話程度に会話は留めて、生活リズムを極力崩さないようにお互いが配慮する。じっくりと相手を深く知る会話が出来るのはやはり夜になってからだ。

私はここ1ヶ月程だが、今の生活における唯一の自分の中の決め事を作った。それは、 “仕事帰りにリビングで2人以上が会話をしていたら、必ずそこに混ざる”というものだ。
私は仕事が終わり、家に戻る時刻は大体午前2時前後になる事が多い。平日は流石に誰かが居ることは少ないが、週末になればほぼ必ず何らかの会話がリビングで飲みながら繰り広げられている。私はそこに混ざり、会話に加わる。平日であれば遅くとも午前3時が限度、週末であれば場合によっては朝まで会話が続くこともある。その辺はあくまでもハウスメイト同士の気遣いが前提になっているが、そもそも所謂9時〜5時の仕事をしている人がほとんどいない為、かなり緩い。それぞれフリーのカメラマンだったり、ビジネス英語を教えていたり、ジェンダーについて学んでいる交換留学生が居たり、放射線技師だったり、プログラマーだったり、と本当に多種多様な人が住んでいる。そういった人達の会話に混ざる事で、私は別の人生や別の可能性に触れる機会を得る。それは私にとって貴重な経験になる。

これまでの人生を思い返してみても、現在の様な種類の人間関係はどこにも無かったと思う。家族でも、恋人でも、友人でも無い人と一緒に生活をする。学校生活や職場にも無かった。少し近いのは、大学時代のバスケットボール部における人間関係か、旅先でのトルコ、イスタンブールのゲストハウスにおける人間関係だが、どちらもやはり違う。現時点で確かな事は2つあって、1つ目はもし私の友人が新しい部屋を探していたら今の場所は自身を持って薦められること、2つ目は誰かハウスメイトが私より先に出て行く時にはきっと寂しく思い、何らかの行動を起こすだろうということ。そんな想いをごく自然に持てる様なキャラクターの人達が集まっている。

先日、行きつけの美容室に本当に久々に顔を出して、長年の付き合いになった美容師の方に今のシェアハウスでの生活について簡単に説明した後、 “今住んでるハウスメイトには人生が上手くいって欲しいし、幸せである事を願う”みたいな事を言ったら、 “他人のことより、まず自分の人生だよね”と優しく返された。確かにそうだな、と思ってその時に少し大人になったかも知れない自分を感じ、それが嬉しくもあると同時に淋しくもあった。


#雑感 #エッセイ #店主 #シェアハウスでの暮らし

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