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転がる石は全て川へ~”A夫とB助は監禁中の元大統領の都市伝説を語る”編~

「”元大統領”が四人の男女に首輪で繋がれて、夜中に雄たけびを上げているんだってさ」

夜、窓際に寄りかかり、スマホから流れるB助の声を聞く。窓の向こうでは、赤や白の球体が流れていく。時に点滅しながら。

「A夫。これはなかなか面白い都市伝説でよ。わざわざ”元大統領”が繋がれている住所すら明かされているんだ。東京都○○市××町三丁目4ー1」

「でたらめは書けるだろ」

「まあな。説も色々だしな。落ちぶれた元大人気ミュージシャンが監禁されてて、曲を書かされている。そして四人の男女がそれで誰かをプロデュースして大儲けしている説。後は文字通り、某国の元大統領が匿われていて、日本を救ってくれる最終兵器として温存されているという説」

「違うよ、違う」

俺の言葉に力が入る。B助は驚いたのか、沈黙する。

「B助。こうなんじゃないの。小学校から勉強も運動も駄目で虐められてて、結局社会人になっても短期間で転職を繰り返す奴。勉強も運動もできてウハウハだったのに社会人になってから先輩に生意気な口聞いて、事務所裏でリンチされてから人生暗転した奴。学校の時はどこでも何でも駄目だったけど、社会人になってからたまたま投資で大当たりしてウハウハになったけど、人生可哀そうな友人ばかりだから、本当のことを言い出せない奴。後はなんだったかな、忘れた。まあそういう奴らが、小学校か中学校の時にスクールカースト最上位でいじめてきた加害者に復讐して監禁し、”元大統領”って名付けて、金とか全て絞り尽くしてるって話だろうよ」

「なんだよいきなり。知ったような口聞くなあ」

「B助。お前が住所言ったとき、昔の友達が一人暮らししてる家だと分かった。あれだろう。夜中になると部屋がカーテン越しにオレンジに点滅して、”元大統領”の影が見え、ホーホーと野太い声で吠える。それを四人が囲んで鞭かなんかで叩いてる音がする」

「……」

「でもさあ、”元大統領”って、何を差してるんだろうな。なるほど、某国の元大統領も、確か親との関係は良くなくて、政治家になって、昔は誇れる仕事をしてたが落ちぶれた人とか、ずっと落ちぶれてた人とか、そういう人の支持を集めて大統領に当選したと。でもめちゃくちゃ嫌われてもいて、結局ロクデナシに守られながらも引退していったと。こりゃあ三丁目4-1の連中そっくりだな。ハハハ。でもさ。逆に元大統領の更にーつ前の大統領ーー前向きな事言いまくりながら金持ちやエスタブリッシュメントに片足突っ込んでた人だなーーを元大統領として、小中学校の時に、自分たちをいじめてた奴になぞらえて監禁していると。こういう事も言えるよな。だって某国の元大統領は訳分からん奴らにとってはまだ大統領なんだから。今の大統領は闇の勢力の傀儡に過ぎない、偽物なんだから。だから分かりにくいこの推測も成り立つよな。ハハハ」

「……」

俺はB助の沈黙を肴にロング缶を飲み干す。窓を開け、道行く車に酒を吐き出してやりたい気分だ。

「B助。今から空いてるか」

嫌だ、とは言わせない。

「三丁目4-1に行くぞ」

~続く(次回はC美の河川敷日記)~


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