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二人の母と、春の思い出。

お江戸では、桜と言うと「卒業」の季節のイメージですが、私には「入学」なのです。というのも、私が育った雪国では開花が少しだけ遅くなるから。
先日も、これから入学式に向かうであろう若い母親と、声変わりはしているけどまだ子供らしい声の15-6くらいの学生服も初々しい男の子を通勤電車内で見かけて、微笑ましく思いました。
きっと「入社」したての新社会人の方も多いでしょう。

毎年この時期になると思い出す「春の思い出」があります。
それは、駅で見かけた二人の母親と子供のこと。

「ふれっしゅまん、て、なあに?」

まだ5-6歳くらいの女の子だったでしょうか。
車内で、隣に座る母親を見上げながら小さな声で尋ねていました。
母親は、娘の上着の袖を優しく直しながら答えます。
「フレッシュマンっていうのは、新しく社会人になった人のことよ」
「しゃかいじん、って?」
「学校を卒業して、お仕事を始めて、大人の仲間入りをした人かな」
「ふうん」

きっとまだ30前の若いお母さんだったと思うけれど、娘の質問に丁寧に淀みなく答えていて、とても微笑ましく思いました。
その時はその母親より自分の方がずっと年下だったのに(笑)
きっと、あの女の子も同じように優しいお母さんになっているんじゃないかしら。

もう一つは、駅のホームで電車を待っていた時。
昔の田舎の駅は、いまのお江戸よりずっと人も少なくてのんびりしていたものでしたが。

3-4歳くらいのやんちゃそうな男の子が、他の人にぶつかりそうになりながらちょこまかとホームを走り回っていて、内心あぶないなあと思っていました。
でも、若い母親は雑誌に夢中で、男の子には目もくれません。
大人の男の人がよけた拍子に、その子がよろけてホームの端っこから落ちそうになって、そこでようやく母親が慌てて男の子を内側に引っ張りました。
ほっとしたのもつかの間、その母親は、なんと手に持っていた雑誌で男の子の頭を叩いたのです。
「大人しくしてなさいって言ったでしょ!危ないじゃないの!!」
いやもう。
びっくり。
一瞬、周りの視線が母親に突き刺さった気がしましたが、当の本人はそう気にする風もなく、むしろイライラを隠そうともせず男の子の手を引いて、雑誌を片手にその場から去っていきました。

もう何十年も前ですが、よっぽど印象的だったんでしょう。
春になるといつもこの対照的な二人の母親と子供たちのことを思い出してしまいます。


あの男の子も、いまはお父さんになったかな。
出来たらスマホはポッケに入れて、子供の目を見ながら手を引いてあげてくれているといいのだけど。



まあ、これは自分のエゴか(^_^;)

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