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元教授、技術展に行く(その2、機能性「紙」材料 @紙加工技術展):定年退職24日目

先日、地下鉄の車内広告(タイトル写真)で見つけた「紙」の加工に関する技術展を見に、大阪産業創造館に行ってきました(その1、定年退職23日目)。昨日の概要に引き続き、少し詳細なレポートを始めます。


会場には 56 件もの展示がありましたので、私はそれぞれを以下の3つの大きな分野に分類して、じっくりと見て回りました。 今回はその中の (i)の分野を説明します。

(i) 紙に様々な「新しい機能」をつけた機能性材料の創成

(ii) 紙本来の性質ないしそれに高性能を付与しての「新しい使用法」の開拓

(iii) プラスチックとのハイブリッドも含めた「新しい材料」の創出


1. 耐水/耐油、保冷(温)、防湿、防滑などの新機能を付与した紙

これまでプラスチックの分野では、多様な機能性フィルムが生み出されてきました。たとえば、ポテトチップスの外袋は、中に入る薄切りのポテトが酸化や湿気に非常に弱いため、光遮断、酸素非透過、防湿などの機能が必要で、かつ表面への印刷性も不可欠なため、多層フィルムとして確立してきました。一方、それらに比べ紙の機能はこれまで限られていたので、現在はどこまで機能を付与できるようになったのか、今回はその進展にとても興味がありました。以下にその機能を付与した例(注1など)を示します。


・耐水/耐油性は、主に食品容器などが目的です(子供の頃、立ち食い用のコロッケを包んだ薄い紙袋が、あっという間に油でベトベトになりましたよね。まさにそれを防ぐ対策です)。最新のポイントは、さらにこれを、環境に配慮してフッ素やシリコンを使用しないで実現したことです。

・保冷(保温)は、新しい試みとして紙の層に空気層を築くことで達成できたそうです(発泡スチロールの代替として期待されています)。

・防湿性は、水蒸気の通過層の調節により、野菜などが乾燥しにくく長持ちするようになります(鮮度保持でフードロス削減にも貢献)。

・防滑性:紙に防滑性を付与した例は初めて知りました。ポリマーのシートでは、車のフロントに置いたキーや小物が滑り落ちない様に敷くものがありますが、それと同じ方向の用途ですね。私はそれが、いろいろなサイズに切り取れる軽い紙でできるところが新しいと思いました。下写真(注2)では、飲食店での使用から大きな物流用パレットの輸送時の荷崩れ防止でも使えるようでした。

防滑性の紙の使用例

・これら以外にも、防水、耐摩耗性、透明性、通気性などの多様な機能がありました。


2. 紙の一部を透明に加工することで中身が見える封筒

透明部分の化学構造は、紙の繊維を細かくする方法とポリ乳酸(生分解性があるプラスチック)を活用する方法があるようです。窓枠の位置や形は自由にデザインでき(下写真。注3)、脱プラパッケージとしての使い道はとても幅広いと思われます。

紙の封筒に透明部分を入れることでアピール力がアップ



3. 温度、光、水分などを検知して色が変わる紙、香りが広がる紙

紙にコーティングする機能材料も展示されていました。たとえば、

・紙パッケージ用の外面コーティング剤:耐水性が弱い紙包装の弱点を克服し、フィルム包装からの切替えを目指した例がありました(リサイクル性も高い)。

・紙の印刷用の水性インクや顔料:単に発色だけでなく、温度・pH、紫外線、水分などを検知して消色/発色を繰り返す、いわゆる刺激応答性材料です。擦るとマイクロカプセルが割れて香りが広がるシステムも(消臭、冷感、虫除けなども)、とても有用と思われました(注4)。

擦るとマイクロカプセルが割れて香りが広がるシステムと香り以外の例


以上のように、多種多様な展示内容で、紙の可能性がますます広がっていることがわかりました。次回は新しい用途の開拓などの話をします。お楽しみに!


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注1:大王製紙(株)パンフレットなどより

注2:日本紙交易(株)パンフレットより

注3:日本紙パルプ商事(株)パンフレットより

注4:(株)松井色素化学パンフレットより

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