書評:『ハンニバル戦記──ローマ人の物語II』(塩野 七生)

ハンニバル。この人物の物語は非常に面白い。

私のように教科書で世界史を1秒もやった記憶がない(おそらく、少しはあるのだろうがやったことさえ忘れている)人間が、この詳細な物語とともに世界史を学んでいたのであれば、コーエーの歴史シミュレーションゲームで深入りした『三国志』と同じように強い興味を持っただろうと思う。

ハンニバルの物語が、第二巻である。

カタルゴ、今のチュニジアを中心にした北部アフリカにあった国で、フェニキア人が中心だった当時の大国。第一次ポエニ戦役で、シチリアと戦うことになるローマ。海軍がなかったけど海軍を作り、陸軍的に勝ち、シチリアをイタリアのものにして、制海権をえる。

シチリアから押し出された大国カタルゴにおいて、カタルゴはスペインに進出し、植民地を大きくする。そこから、当時の大軍勢を連れて、ピレネーを超えて、アルプスを越えて、イタリア北部に攻め込むのが、ハンニバルである。

「補給が持たないだろ!」というツッコミもないことにしてしまう。今のフランスであるガリア人などの現地の国を巻き込みながら、イタリアに入って、連戦連勝。本拠を北イタリアから南イタリアに移動し、十何年もイタリアに居座る戦闘の天才である(この時代だと、補給は略奪なんですかね。さすが蛮人。ちなみに、補給のことは、この本では描かれていません)。

戦術と戦略は違うが、ハンニバルは戦術家。あとで分析すればなんのことはないが、当時使い切れていなかった騎兵を大量に投入し、右翼左翼にそれを配して、サイド攻撃をする。サイドをせめて、背後に回り込む包囲殲滅戦で、徹底的にやっつける。兵数の差はないが、戦い方で、相手を全滅させて、捕虜を取る圧倒的な戦いを数々を作る。寡兵でも勝つ。

その騎兵は、アフリカにも山地があったようで、そこからきてる。騎兵が1万人もいると色々できてしまう時代であったようだ。

最初は散々にやられるローマだけれど、持久戦に持ち込んで、スキピオ・アフリカヌスが出てきて、最後は逆転する。スキピオは、ハンニバルに習った騎兵使い。イタリアは持久戦に持ち込み、ハンニバルの補給の効かない精鋭を徐々に削っていき、最後はカラブリアに閉じ込める。

ハンニバルに鍛えられたローマは、軍事強国になる。まとまった騎兵を持ったスキピオが、ギリシアを制し、シリアとの戦いにも勝ち、エジプトとも結び、カタルゴを滅ぼす。

勢力の均衡が崩れ、超大国ができたとき、あっという間に、覇権というのは成り立ってしまうもの。元々、特に同盟などでできていると、数度の大戦を勝ったことで、国ごと取れてしまうことになる。

結局、ハンニバルに勝つところまで行くのが大変で、あとはおまけのように結果が付いてくるという感覚を、塩野さんのこの歴史小説は描いていて面白い。昔のことだから、本当のことはよくわからないんですけど、この2巻も面白かったです。

騎兵という新しい戦力があるとき、その効果的な運用を得たものが一時的に無敵になる。その後、その模倣がなされ、結局は補給が続くものが最終的には追いついて、勝利を持って行く。争いの中に鍛錬があり、戦っている中でいつの間にか強くなっていて、競争力を持ったら、結果がついてくるという様は、ある程度普遍的だと思いつつ、「これは司馬遼太郎なんだよな」と思うわけで、あんまり人生訓とかを引き出すのではなく、ただただ読書を楽しもうと思う春の日でした。

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三谷四五郎

ビジネス書評

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