書評:『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』(岩田清文, 武居智久, 尾上定正, 兼原信克)

日本の安全保障について学ぼうと、兼原さんの本を読んだ続きがこちら。どうも、安全保障論を読んだけど、軍事方面の内容が薄いのが不満。餅は餅屋ということで、陸海空の自衛隊の一番上だった人たちがOBになっていて、対談しているのがこの本である。この本は、自衛のリアルがわかってよかった。

ここで此処で対談している人たちは全て良いのだけれども、結論、日本の安全保障はかなりまずい状態であることがよくわかったし、中国・北朝鮮という脅威がある中、米国が内向きになる中で、日本を平和に保つためには、不断の努力が必要なんだと思いました。香港は中国に併合されるし、台湾さえ危ない世の中ですから、対岸の火事というわけには行きません。

さて、自分のためにも、内容をなぞって行こうと思います。特に、印象に残ったところを中心に書いていきます。

日本の環境

大きくは、中国がひどく国境を各地で犯してくる中、米国はバイデンになってもアメリカ・ファーストになっており、国防環境は厳しい。中国の軍事費を見ても、規模を見ても大きな脅威になりつつある。

振り返って、コロナを見てみると、自衛隊の補給が危ない。自衛隊の艦船や戦闘車両のメンテナンスの多くは民間企業が担っている。これらの企業は民間であって、自衛隊が直接指導や指揮ができない。コロナの最中に、ソマリアに行けといっても行ってくれるかわからない。

日本の防衛費では、防衛事業は対して儲からないので、コマツが防衛産業辞めたように、企業は防衛産業やめたい。もちろん、日本国外の企業が修理・メンテナンスをしていたのでは、有事に役に立つはずもないのだが、ひ弱な民間の防衛産業が兵站を担っているので、自衛隊はまずいという話。

もっと、定期的に安定的にお金を出して、防衛産業を作っておいて、かつ、ちゃんと有事に動く構造にしておかないと、有事の際の自衛隊の補給は続かないということがわかって、結構衝撃だった。

こう思った。兵站の弱い軍隊は必ず負けるので、自衛隊は戦争になったら必ず弱い。初戦などは訓練の成果があって十分に戦えるだろうが、補給・兵站の側面から継戦能力があるとは思えず、徐々に中国の物量にやられるだろう。

戦略面で言うと、中国はサラミスライスで現状変更を繰り返し、東シナ海、南シナ海を犯してくる。海洋国家は、海は広いな大きいななので、海を占有しようとは思わず、公海を設定し、点で抑える。機動部隊を持っていることが強みであると考える。

中国は陸の国家である。なので、考え方が異常で、海を領土だと思ってエリアを取りに来ている。エリアが取れるのは、海でも沿岸だけで、オーシャンは取れない。そもそも、無理があるから、南シナ海に大きく引き出して、兵站が伸び切ったところで海軍をぶっ潰すのが良いだろうとのこと。

まあ、こんな戦略も兵站があってこそだから、先程の防衛産業の方をどうにかしないと、どうにもなるまいが。

台湾危機への対応

日本と米軍は共同で訓練しているが、台湾と米国は同盟関係にもなく、訓練をしていないから高度な連携による軍のオペレーションは難しいだろうとのこと。

台湾に関しては、オバマが徹底的にいけない。トランプになって武器供与をし始めたが、一応、米国は中国を認めて、台湾は認めないことになっているので、最新兵器は出さずに、F16とかを出しているに過ぎない。この武器供与や訓練を始めると言うのは、強化されつつある。

中国側から見てみると、虎視眈々と台湾をずーと狙って戦力を整備してきた。米国はすっかり中国に油断していたから、最近整えつつあるけれども十分な準備がない。

こうなると、中国としては、時間が経てば不利なので、早めに侵攻してしまおうと言うことになり、近年の台湾は大変に危険である。

ちなみに台湾を取られると、第一列島線が崩壊し、日本の与那国島にはロケット弾が届く距離というから、日本の領土は削られる。日本の国防にとって死活的に重要なのが台湾である。また、民主主義の砦としても台湾が大事である。香港が併合されて共産党独裁社会に取り込まれ、韓国が中国に取り込まれつつある現在、台湾まで併合されると非常に危険である。

台湾は山が多いのでゲリラ戦に向いている。日本が日清戦争に勝って台湾を併合したときに、ゲリラの平定に約10年かかっているそうだ。中国が陸軍を入れても相当な被害が出るのが想定される。

というのもあるけど、日本としては、OB同士などで良いから台湾とは交流を持って、AI兵器とかそういうものの研究をしっかりやるべきだという話で終わっている。

感想としては、日本の友たる台湾を日本は大事にしようねということ。中国共産党とは違うのだよ。そして、米国がちゃんと台湾に協力するようにしていかないといけない。

経済安保的にも、中国はNGだけれども、台湾は協力していくべき。

朝鮮半島

まず、朝鮮半島は中国にとっても戦略的要衝なので、北朝鮮は離さない。

そして、韓国は信用ならないし、あてにならない。中国の属国だったので、中国にビビって何するかわからない。日米同盟は強固で、米韓同盟もあるけれども、日韓の協力はない。

北朝鮮のミサイルは脅威。弾道ミサイル以外に高速滑空ミサイルもあって、こっちの迎撃はできないから敵地攻撃能力を持つしかない。米国としても潜水艦からの核弾頭を積んだ中距離弾道ミサイル(SLBM)やられると非常に危ないので、北朝鮮がちゃんとした戦略潜水艦を持つのはすごい脅威になる。

朝鮮半島有事の際には、北朝鮮からの難民が大量にくるので、これの収容をちゃんと考えておかないといけないが、そういうプランはない。中に、北朝鮮の特殊部隊が混じっていて色々テロを仕掛けてくるので、大量の難民を捌いて隔離しておく大きな場所を用意しておく必要がある。

韓国は大局見た外交ができずに昔も滅んでいるので、あんまり期待できない。唯一の望みは若い世代で、そういう人たちなら、今のボケた大統領の路線を組み替えられるかもとのこと。

感想。

相変わらず厄介者の北朝鮮と韓国。北朝鮮は核ミサイルだけなので、これへの対処は、日本の攻撃能力。米国と協力して、空軍とミサイルで対処すれば、能力自体はすぐにできるだろうと思われる。

あと、北朝鮮が性能の良い潜水艦を持つと厄介なので、これはさっさと日米で潰して仕舞えば良いと思う。潜水艦の戦争などあってもわからないのだから、陰でどんぱちやっているものではないのだろうか?潜水艦は日本の優位だろうから、これはしっかりやってほしい。

日本も大型の戦略潜水艦を作って、巡航ミサイルの母艦とか、さまざまなミサイルの母艦にすれば良いと思う。ミシガン・オハイオの改装を見習うべきだろう。

アジアの核

米国とソ連の核は安定していた。いわゆる相互確証破壊というやつで、「どっちかが核ミサイルを撃ったら、撃った方も反撃されて滅ぼされる」と双方が知っているから、お互いに撃たない。で安全が守られるということ。なので、米ソのミサイルは、比較的安全だった。

米ソが恐れていたのは、「フォールス・ポジティブ」で日本語にすると、誤検知。鳥の大群をミサイルを撃たれたと勘違いして核ミサイルで反撃し、相互に撃ち合って滅びてしまうというのが怖かった。

一方、中国は、「フォールス・ネガティブ」を恐れているらしく、核ミサイルを撃たれているのだけれど、鳥と勘違いして滅ぼされた、というのを恐れているそうだ。

つまり、賢い米ソは戦略レベルで噛み合っていたが、米中の核戦略は噛み合っていないので、結構おっかないということらしい。

北朝鮮については、日本が敵地攻撃能力を持てば良くて、F35に核兵器を積めばまあ完了するということ。ただ、自衛隊には核の専門家がいないんだそうで、そこが問題。

ちなみに、ミサイル防衛で当時の河野防衛大臣陸上のイージスアショアを断念したのは大した早漏野郎で、よろしくない。弾道ミサイルはイージス・アショアで撃ち落とし、高速滑空ミサイルは別の対処になるから、両方必要なんだそうだ。高速滑空ミサイルがあるから、イージス・アショア関係ないというのは嘘で、イージス・アショアだけでは、日本をミサイルから守れない。が正しい。

こっから感想。

防衛のためにも自衛隊に核の専門家は必要だろう。そして、核かどうかは別として、日本は敵地攻撃能力を持つべき。じゃないと、北朝鮮の核ミサイルの脅威に対抗できない。

科学技術制政策と軍事研究

ここから、ガースーがこけた日本学術会議の話。

米国はインターネットを生み出したDARPAを代表として、学術と国防というのがセットになっている。アカデミックの世界で、軍事向けの技術を作って、それを民間に転用する(インターネットはヒッピーが作ったから、軍事向けの研究を利用して、世界中をつなぐネットワークを作ったんだけどね)ことは普通で、豊富な予算を持っている。

が、日本の日本学術会議や大学教授さんたちときたら、いつまでも、日本は平和主義ということで、軍事の研究をやらない。特に旧帝大などがやらない。

アカデミックの研究に落としている予算を、軍事につける研究にも落とせ。そうじゃないと日本を守れんというのが、自衛隊OBではなくて、外務省OBの兼原さんのご意見。

ちなみに、科学技術予算は4兆円。防衛予算が5兆円。防衛関連の技術開発はたったの1200億円で、多くの企業や学術機関は軍事関連の研究を嫌っている。

ので、日本にはゲームチェンジャー技術が出てこないんだそうだ。

感想。

グデーリアンの戦車戦を思い出した。ナチスドイツが強かったのは、戦車をゲームチェンジャーと捉えて、その運用を極めたから。戦車は火力がある陸軍ではなくて、機動力が高い陸軍と捉えたのがグデーリアンとドイツだったが、他の国は、歩兵支援を戦車でやった。機動力が戦車と車の補給部隊だと格段に上がるので、ドイツの陸軍は最初強かったのである。

という、新たな自動車という技術をどう生かすのかで、とりうる戦略が代わり、戦争は変わるわけだ。

また、第二次世界大戦であっても、英国軍には陸海空の3軍あったが、米国には陸海しかなかった。途中で英国を見習って、空軍的なものを作った。日本は、陸海しかなかったから、中途半端な飛行機の運用に終わった。飛行機こそ、機動力が違うのにね。

昨今だとサイバー攻撃などもあるのだから、ここら辺も独立させた上で、陸海空サイバーが連携した戦略・戦術を持って脅威に対処するのが基本だと思う。

ちなみに、南西諸島の防衛の話が少し出てきている。南西諸島が取られたら、海上自衛隊はロールバックして後から帰ってくるというが、陸上自衛隊は絶対に国民がいるから引かずに守り抜くという。この辺りの戦略レベルで、陸自と海自の元指揮官レベルで話があっていない日本の恐ろしさ。統合軍で戦わないと負けるわな。

で、その根本の技術開発、武器開発が進まないのが、今の日本。そして、技術単位になぜか、米国はともかく、中国に持っていかれて活用されているという非国民ぶりである。

ドローンだ、AIだと出てきているのに、ここの研究がないのは確かにまずいと思ったのである。

グデーリアン的な新技術の運用を含めた研究はちゃんとやらんと、日本のような小国は守り抜けないでしょうね。この辺りは、イスラエルを見習え。と思うよ。

日本の安全保障

まずは、総理大臣をリーダーとする軍事の指揮命令系統をちゃんとしろという話。それから、総理大臣に軍事の知識は必須なので、それをちゃんとやれと。具体的には、自衛隊や防衛省からのブリーフィングを総理大臣になったらすぐにやれと。総理大臣は自衛隊の最高指揮官であるから、これをちゃんとやらねばならぬという話。

それで、兼原さんがよく言っていて私もそう思うのだけれど、日本の指揮系統。実際、有事になると総理大臣の隣に統幕長がいることになるんだけど、この統幕長は司令官も兼ねている。自衛隊への指示と、首相への説明を一人でやれというのだけど、首相に説明していたら、まともな指揮ができんでしょということ。福島の大震災の時も問題になったんだそうだ。この組織系統はしっかりしないとまずい。

あと、大本営機能がまずい。実際の脅威には、陸海空そして、おそらくサイバーも含めた統合作戦を作る必要があるんだけど、そういう部署が小さくてとても統合作戦を考えられていない。ちなみに、他の本で書いたので、別で書くけど、大日本帝国の大本営は臨時の組織で戦争の時しかできない。でも、軍事は平時の訓練が全てだから、有事だけ作ってもつくっても機能しない。スタッフ部門も充実させて、十分統合作戦を練っておくべきという。これも納得ですな。

感想

まあ、第二次世界大戦に突入した反省もあるのだけれど、日本というのは戦後、戦争ができないように国家の仕組みが設計された国である。すぐ冷戦が始まって軌道修正したけど、設計が基本そうなっているので、色々軍事が機能しないように設計されている。

それを真っ当に国防できるように設計し直さないといけないのが、今である。中国の脅威あり、北朝鮮のミサイルあり、韓国の政情は不安定、米国は気まぐれに影響圏を放棄する(中東見てれば、状況変われば日本も放棄しかねないことはわかる)。

軍事は準備が8割であろうから、組織含めてちゃんと作って、ちゃんと戦略や作戦を練って、訓練しておかないとなあと。それは、自衛隊だけではなくて、総理大臣をはじめとして全部訓練しておかないといけないだろう。

まあ、先の大戦に対する反省はあるとして、これは他の本に譲る。

日本の安全保障に対する提言

ここは、このまま書いておく。

・日米首脳会談で核問題を取り上げよ
・総理決済の統合軍事戦略を策定し、防衛大綱を防衛戦略に格上げせよ
・台湾有事への対応をはじめよ
・国の安全保障に科学技術予算を活用せよ
・国防の不可欠な機能として防衛産業を位置づけ、育成活用戦略を策定せよ
・防衛大臣の下に装備開発委員会を設置せよ
・統合幕僚部に「統合司令官」と常設統合司令部を設けよ
・自衛隊の軍令系の将を格上げして大将とせよ
・有事対応の民間サイバーセキュリティを強化せよ
・有事対応のシーレーン防護に取り組み、エネルギー安全保障を強化せよ

提言を全部書いちゃったから怒られるかもしれないが、著者たちの意図を考えると、この提言はちゃんと広がるべきであると思うので、書いておく。

安全保障に思うこと

この本はとても良かった。日本が直面する切実な問題がよくわかる本であったし、自衛隊の高官だった人はやっぱり全然違う。

書評読むだけじゃなくて、興味が湧いたらちゃんと買うか借りて読むのがおすすめですよ。

ちなみに、国家公務員が尊敬されない世の中で、唯一日本国民に信頼されているのが日本の自衛隊。災害から救ってくれるし、離島で病気になった人も助けてくれるし、海外で困っても脱出させてくれるし、本当にありがたい。

でも、日本の政治や制度が国防に向いていない。米国も昔ほど超大国ではない昨今、ちゃんと国の仕組みを作り替えていかないといかんと思うし、こういうのの設計をする人が政治家で出てこないといけない。

そして、それを作り替えるときに、昭和初期の軍部の暴走のようなことが起きないような制度をちゃんと気をつけて作らないといけない。

中国の侵略が世界中で広がる中、自民党総裁選では、こういう話が論点になって欲しいんだけどな。税金は安全保障に使って欲しいわけだ。

まあ、いくら自民党の支持率が下がっても、野党に人気が出ないのは、この辺りの政策の陳腐さが、現実的な国民に受けないからなんだろうな。

ということで、次は大東亜戦争の本を読むことにする。

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