書評:『銃・病原菌・鉄 上巻』(ジャレド ダイアモンド, 倉骨 彰)

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『サピエンス全史』を読んだ後、人類の発展を詳しく知りたければこれだと思う。むしろ、この本を読むと、サピエンス全史の雑さに気づく。

私のような日本人には、タイトルの『銃・病原菌・鉄』は、欧州人のアメリカ大陸の征服を想起させる。ところが、この本の内容は、欧州人によるアメリカ大陸侵略だけではない。ホモ・サピエンスが認知革命を起こした4万年前から1万年前を少し触れた後、主に、そのあとの農業革命が起きた1.3万年前から今までの人類全般について、客観的な分析をした本である。『サピエンス全史』より古い本なので、一部の情報は更新が必要かもしれないが、人類についての考察はこちらの方が詳しい。これは、人類の歴史の本である。

この本は、ヤリというニューギニア人の素朴な疑問から始まる。
「なんで西欧人が支配してて、俺たちが作ったものが世界を制してないの?」

これに対して、アホな人たちは、「俺たちXX人が優秀だから」と答えるが、そんなのは嘘八百であることを著者は暴いてしまう。

人間が4万年前に認知革命を起こし、世界で大型動物を狩り尽くす。ホモ・サピエンスは、南北アメリカ大陸で猛威を振るい、オーストラリア大陸の大型哺乳類を食べ尽くす。ここまでは、サピエンス全史と同じ。

その後、農業革命を起こす。この本は、この辺りの事情に詳しい。

栽培化できる作物と家畜にできる大型哺乳類を、進化学的にちゃんと調べてみると、数が少ないことがわかる。小麦、大麦、大豆、米の部類の生産性の高い穀物の種類は実は少ない。

ユーラシア大陸は東西に大きく、起伏も激しかったため、植物の種類が多く、確率的に栽培に向いた種が見つかりやすい。実際見つかり、農業が起きて、広がった。アメリカ大陸にも穀物種はあったが、生産効率が弱かった。家畜も同様で、牛、豚、馬と言った飼い慣らせる大型哺乳類がユーラシア大陸にはいたが、他の大陸にはなかった。これらのものは、気候の似ている東西には広がりやすいが、気候の違う南北には広がりにくい。アメリカ大陸は南北に長く、東西に狭い。メキシコと米国のあたりも砂漠で分断されている。アフリカ大陸は、中央に砂漠と熱帯雨林があり、南北の連絡が悪い。

農業と家畜が生産性を決め、土地あたりの生産性が高い人たちが、集団を組んで戦争を仕掛けたから、他の人が絶滅したのだという。

また、病原菌が、最強の武器である。これも結構必然である。

農業や家畜を飼う民族は人口密度が高い。人口密度が高いので、疫病が起きる。そもそも疫病のほとんどは、動物の病気が突然変異してできたものらしい。その病原菌の元は、豚やら牛やら鳥であるので、家畜を飼っている民族で、農業などで都市ができ、人から人に伝染するところで起きる。これは、ユーラシア大陸で起きている。結果、ユーラシア大陸では病原菌に抵抗力のある人たちが生き残って増えた。

人畜無害なアメリカ大陸原住民は、家畜経由の病原菌に弱かった。大型哺乳類を家畜に持たない彼らは、家畜経由の病原菌に晒されることもなく、平和に暮らしていた。なので、家畜からくる疫病の病原菌に強いわけでもなかった。突然、スペインをはじめとした欧州人がやってきて、インフルエンザなどの病原菌をばらまいたものだから、原住民の95%が病気で死んでしまった。あとは、馬とか鉄もあるが、95%は病気で殺したというのが、欧州人のアメリカ原住民虐殺と征服の真実である。

ということで、極論すると、「ユーラシア大陸が東西に大きかった」ので、いろいろな植物や動物に接していて、栽培に向いた植物や家畜をゲットしたので、集団が強くなった。都市化が進み、病原菌が広まったので、疫病に強い人たちが生き残り、病原菌をばらまくことで、世界のいろいろな大陸を制覇した。これが、中東起源で始まった文明が世界を制した基本的なロジックである。

なので、今のパプアニューギニア人が最初に中東にいたとすれば、彼らが世界を制しているのである。ホモ・サピエンス間に対した優劣はなく、おかれた環境によって変化が生じるという環境決定論である(もちろん、これは百年程度の人生において努力が必要ないと言っているのではなく、1万年、1000年のオーダーでいうと、進化論的にそうなる、と言っている)。

そして、この本の面白いところは、これを書いた人が、歴史学者ではなく、お医者さんであるということである。えらく教養の広いお医者さんがいるものだ。

というわけで、下巻に続く。

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