書評:『ユリウス・カエサル ルビコン以前──ローマ人の物語[電子版]IV』(塩野 七生)

ユリウス・カエサルとは、天才であり、優れたリーダーである。天才だけに模倣の対象にしてはならない。しかし、彼の行動は論理的でもあり、人々の心理もついているので、彼の人生を学ぶことで、多くの教訓を得られる。

カエサルの職業人生は40歳にして始まる。それより前は、借金漬けの女たらしである。借金を重ね、人妻に高価な贈り物をして、人妻に手を出しているだけである。人妻に手を出すではなく、人妻に手を出しまくっている、である。

前半は、三巻と同じ内容も多い(そもそも、塩野さんの本は重複が多く、無駄に長いところがある。わかりやすくはあるのだが)。この本は、後半はカエサルの功績がガリア戦記とともに描かれ、ルビコン直前で終わる。

ガリアとはフランスのことで、当時は蛮族が住んでいる。ガリア住民全体は多いが、この時代は群雄割拠でバラバラ。一つ一つの部族は小さい。

南仏はローマの属州であった。その長として存在したカエサルが、相手より小さな兵数で、フランスを征服していく話であるのだから、これまた面白い。

基本的には、騎兵が強かったという当時の軍事を踏襲するとともに、理系のカエサルは、工学を駆使する。砦や固い陣を作り、多くの敵を寄せ付けない。その優れた用兵で、自分より多数の敵を打ち破る。勝利を積み重ね、蛮族であるガリア人(フランス人)を征服していく。

カエサルは、ローマの工学力を持って、より多くの敵を打ち破っていく。軍事とは土木工事である。日本で言えば、豊臣秀吉を思い出すような戦い方である。部下の死傷者が少ない。カエサルは、部下を大事にする。名将である。

カエサルの面白いところは、愛人の息子たちをうまく活用していくことである。彼にとっての人妻を愛人化することは、リクルーティングだったのかもしれない(まあ、そんな生活をしていた彼には、ひとり娘しかいないのだが)。そして、人材をうまく活用していく。人心掌握が非常に上手い。金遣いは荒いが、それは部下のためであったり、住民の人気取りであったりと、私財を溜め込むことをせず、みんなのために使う。だから人望が厚い。カエサルは、お金を貯めることが目的ではなく、「元老院を倒して新たな社会システムを作る」という明確な目的を持って、生きている。このビジョンが、リーダーたる所以であろう。

ただ、彼の派手な勝利にも私には理由があると思う。基本的に、カエサルは容易に勝てる戦いを選択し、弱い敵とだけ戦った「戦略家」である。

当時のフランスは、蛮族のいる土地であり、当時豊かだったのは、シリアなどの東方であるから、すごい土地を征服したのではない。豊かな東方ではなく、西のどうでも良い蛮地を征服しただけである。文明も発達せず、集団や組織もできていない小集団に勝ち続けただけである。その戦い方も高いローマの工学技術を活用している。要するに相手が弱いので、連戦連勝なのである。

女たらしの方も、相手は人妻である。絶世の美女というものには手を出していないように思える。要するに、勝てる対象を選んでいるのである。

彼の軍事的な才能は高かっただろうが、天才的でもなかったのではないかと思う。この巻を読む限りは、実は、秀才程度であろうと私は思う。

実は大したことをしていない割に、「すごい」という民衆の評価を得ているのは、演出が上手いからであり、政治力の賜物だろう。カエサルは、政治家として超一流なのである。

そして、文筆家としても超一流なのであろう。重複のない文章、明確な論旨。塩野さんの引用を見ても見事である。カエサルの筆を見ると、そこの部分だけをとってみれば、塩野さんが手を加える余地は実はなかったのかもしれないと思う。

ちなみに、この巻を読み終えての私の感想は、「カエサルが書いた『ガリア戦記』を読みたい」である。探してみようと思う。

そして、ルビコンのあとも読んで見たい。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

三谷四五郎

ビジネス書評

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。