2019年の中国:リアルPOS獲得戦争の完成とメーカーを巻き込んだ新小売~ATの総合商社化~

にーはお。

「学生時代から中国インターネット企業のリサーチ->フリマアプリのPM->モバイルペイメント事業いろいろ->上海のリアル小売でデジタル事業とPOS分析事業頑張る」という感じで生きているものです。中国企業の経営戦略を紹介する課金noteを運用しています。

毎年恒例の中国1年の振り返りと翌年の展望記事です。

2017年:『中国2017年の消費とインターネット45のテーマ 』

2018年は3 つの領域について簡単に振り返り、2019年は相変わらず大きく動く領域について考えます。

では、2018年から。

明暗別れた「新小売」と「OMO」

日本では2018年がモバイルペイメントの元年になったが、中国では2016年ごろにモバイルペイメントの競争は決着がつき、以降はモバイルペイメントの次、つまりリアル小売を巡る競争が盛り上がっている。「新小売」「OMO」などと形容され、中国のビジネスで最もホットな領域である。

2017年に大量の無人コンビニが出現し、日本でも賑わったが、2018年はそれらの成果が試された場となった。多くの無人コンビニはスケールしきれず、上海で無人コンビニを日常生活で見ることはない。コンセプト倒れに終わってしまったと言える。一方Alibaba傘下のスーパーマーケットHemaは拡大を続け、Luckin Coffeeも急成長し、スター企業の存在感が目立つ感じとなった。

MeituanとXiaomiの上場と低迷

MeituanやXiaomiを始めとするユニコーンの中でもBATに匹敵する企業が上場した。しかし上場後、株価は低迷し、中国企業が試されている。良好な資金調達環境と莫大な市場で急速な成長を遂げたものの、第2の成長戦略が描けず苦しんでいるように思う。

Xiaomiの株価推移

Meituanの株価推移


Luckin Coffeeなども2019年中の上場が噂されるが、同じく第2の成長戦略をどう描くかに注目が集まる。

Bytedanceの挑戦

日本でTikTokが非常に注目されたことを受け、親会社であるBytedanceにも注目が集まった。日本ではBytedanceという存在にようやく注目が集まったフェーズだったが、本土ではBytedanceの第二の成長戦略に注目する論考が多かった。

パーソナライズ化された「メディア」として大きくなったが、「SNS」になれるのか?「ブラウザ」を超えられるのか?「EC」になれるのか?などの疑問に応えるかのように、Bytedanceはこの1年多数の実験を行った。残念ながら上記にあげた新規事業はまだどれも成果がはっきりとは出ておらず、2019年にどのような結果が出るのか、またどのような成長戦略を作ってくるのか楽しみである。


2019年の中国はメーカーを巻き込んだリアルPOS獲得戦争が本格化(ATの総合商社化)


2019年の中国であるが、引き続きある大きなテーマの中でビジネスは動くのではないか。

テーマの前にまず「IDとPOS×ネットとリアル」の概念についての共有から。

「IDとPOS×ネットとリアル」

データを4つに分類し、そのデータを持っている企業が誰であるか、またその力関係を考えたい。まずデータの質をPOS(販売時点情報管理)とID(トラフィック)に分類し、データの存在する場所として、ネットとリアルという軸を加えて、合計4つの事象に分類する。



上記のデータをそれぞれ下記のように企業が持っている。

ネット×ID:LINEやFacebookなどユーザーのID(=トラフィック)を多数持っている企業。
ネット×POS:楽天市場やAmazonなどのネットでECを展開する企業。
リアル×ID:ネットのようにトラフィックだけを持つ企業などと区切ることができないため、リアルPOSと同じ企業。
リアル×POS:スーパーやコンビニ、ドラックストアなど店舗でのPOSを持っている企業。リアル小売とここでは呼ぶ。

結局ネットでの購買活動は限定的で、リアルの世界が最も市場規模が大きいというのが分かってきた。特に中国ではネットでの市場成長率は年々低下し、新たな成長の機会としてリアルでの購買活動に熱い視線が注がれている。リアルの世界に住む企業はそうはさせまいとネットの領域に進出して対抗する。このネット企業によるリアル進出が2019年の引き続き大きなテーマになる。



日本におけるリアルPOS獲得戦

日本と比較したほうが分かりやすいので、まず日本のPOSを巡る話から始める。

戦後当時経済成長率が10%を超える日本において、何か詳細なPOSから分析して商品開発などをする必要はなく、需要過多の状態だったので、ひたすら商品を製造し出店すれば売上はついてきた。

しかし1970年代に入り、高度経済成長が終えると、供給過多になり、分析を元に商品を製造し、お店に並べる必要が出てきた。POS管理の徹底で有名なセブンイレブンは1970年生まれの企業である。もともとPOSはアメリカレジのうち間違えを無くすために生まれたが、鈴木氏率いるセブンイレブンがPOSをマーケティングツールとして使い始める。

誰が買ったか分からないPOSでは不十分で、ID−POS分析を求めるようになる。各社はポイントカードを発行し、より精緻な分析やマーケティング活動を展開した(有効性は不明だが)。ポイントカードが、ネットの普及とともに、Webサイトでの登録からアプリへと変化していくが、大きな流れは同じである。

1990年代にインターネットが誕生すると、ネット企業が生まれて力をつけていく。全国に展開しているリアル店舗並みのユーザーを10年ちょっとで獲得することに成功した。

しかし、LINEやGoogleなどはユーザーが何にお金を使ったのかは知ることができない。楽天市場などのECであっても、日本人の購買活動の95%が未だにリアル店舗で行われているため、ネットPOSだけで、ユーザーの全てを理解するのは難しい。ネット企業がリアルPOSを抑え、そのデータを自社IDと連携させて、IDの価値をより高めようとするのは自然な流れである。

そこでネット企業は、多くの手段を使ってリアルPOSの獲得に力を入れていきた。楽天はEdyを買収して、リアル小売での決済&ポイント事業に早くから進出している。ネット企業によるモバイルペイメント事業への参入が相次ぐのはこのような背景もあるからだ。

日本の特徴は、リアルPOSを持つリアル小売が戦後から現在にかけて発展して生活の中心にあるだけでなく、クレジット事業に進出し(丸井)たり、自社で銀行を持ち住宅ローンを展開する(イオン)など、小売と金融の一体化を果たし、非常に「強い」企業に育っていることである。

日本のリアルPOSを巡るネット企業各社の動向を整理してみる。

楽天
ネットPOS:楽天市場
リアルPOS:Edy買収→楽天Edyとして展開

LINE
ネットPOS:複数のEC事業立ち上げを経て、ポイント還元による送客サービスに落ち着く
リアルPOS:LINEPay

Google
リアルPOS:GooglePay、オフラインCV

Yahoo!
ネットPOS:Yahoo!ショッピング
リアルPOS:Tポイントカードと提携→PayPay

IDを巡るリアル小売の動向

ファミマ
Tポイントカード→ファミマPay

丸井
割賦払い→エポスカード

今の日本のモバイルペイメントの盛り上がりをネット企業によるリアルPOS獲得戦と捉えると変わった見方ができる。逆の見方をすれば、リアル小売が、ネットIDとして力をつけるためにモバイルペイメントに参入していると見ることもできる。
モバイルペイメントはPOSとIDが交わるところであり、モバイルペイメントの覇者が誰に渡るかで、POS獲得戦の様相も変わってくる。日本のモバイルペイメントを占う記事ではないので、これ以上深掘りはしない。

中国におけるリアルPOS獲得戦

日本におけるPOSを巡る現状を見たところで、中国の話に戻る。

中国の高度経済成長が始まるのは1978年にさかのぼる。現在も経済成長率は6%を超える。リアル小売からすれば、POS分析に基づく緻密なマーケティングを行うよりも、新規出店などを繰り返してシェア獲得を行うことへのインセンティブが強いだろう。また、国土が広く、出店には一定の時間がかかる。

リアル店舗が普及して社会の中心になる前に、インターネットが生まれ、ネット企業が力をつけ、社会のインフラになった。中国のEC化率は20%を超え、日本の6%を大きく引き離す。

日本の話を一言でまとめると、リアル小売が非常に強く、IDとしても十分に強い(=トラフィックを大量に抱えている)ため、ネット企業がその牙城を崩すのに苦労している。

しかし、中国で起こったのはその逆だ。リアル小売が非常に弱いため、ネット企業が圧倒的な力を持ち、モバイルペイメントをも瞬時に制してしまった。結果、モバイルペイメントを軸に、リアルとネットでの「顧客体験の統合」を完成させ、AlipayとWeChatアカウントさえ持っていれば、生活を完結させることができる便利な世界をネット企業(AT)実現した。



1つ注意しないといけないのが、リアル店舗にAlipayなどを導入しても、AlipayやWeChatPayへPOSデータは届かないこと。どのIDが、どの加盟店で、いくらの金額をしたかだけである。お店で決済を行うための最低限のデータのやりとりだけがされる。これは日本でも同じである。なので、リアル小売と特別な契約などを結ばない限り、ネット企業はPOSデータを取得することはできない。


では、AlibabaとTencentはリアルPOSを獲得するために、どのような勝負を仕掛けているのか?ようやく本題になったが、ネット企業によるリアルPOS獲得戦争が2019年も中国の主要テーマになる。

AlibabaのリアルPOS獲得戦略

チェーン展開している大規模企業かパパママショップで戦略が違う。


大規模企業:
ホームセンター、百貨店、スーパーマーケット、家電とそれぞれのカテゴリーの最も大きな企業に積極的な投資を仕掛けている。半数以上の株を取得しているケースもあり、POSをしっかりもらっているのではないだろうか。もちろんこのやり方では全てのPOSを抑えることはできないが、各カテゴリーのTOP1クラスを抑えていけば、リアルPOSの10%を手中に収めれられるのではないか。



パパママショップ:
パパママショップに仕掛けるのが、「LST(LingShouTong、統合された小売)」というサービスである。Alibabaの最大の強みは、EC化率が20%を超える国の、ECシェアを自社で50%以上抑えていることである。中国人のネット上での購買活動をほぼ完璧に抑えていると言っても過言ではない。

例えば、上海市のとある区のパパショップの周辺に住む人が、どんな人達でどんな買い物をしているのかほぼ正確に把握している。パパママショップに対して、何を仕入れたらいいかを提案できる。今までは何を仕入れるかは感覚でやってきたが、「LST」に接続すれば、何を仕入れすれば良いかが一発で分かる。そして自社の商品登録を「LST」上で行うようにすれば、Alibabaはリアル店舗のPOSを取得できるのではないか。日本でセブンイレブンがやってきたこととほぼ同義ではないだろうか。


以上がAlibabaの戦い方である。ネット企業として築き上げた莫大な資本をもって大手チェーンに出資・買収しリアルPOSを獲得、中国ECのシェアを50%を占めるデータを生かしてパパママショップの在庫・仕入れ最適化というソリューションを提案し、結果的にPOSも獲得するという訳だ。


TencentのリアルPOS獲得戦略

Tencentはチャットツールとメディア(LINEの公式アカウントのようなサービス)を提供できる強みを生かして、「ネット広告×リアルPOS」といったソリューションをリアル小売に提供する。また店内での顧客の購買体験を最適化するソリューションなども提供し始めている(これでリアルPOSがとこまで獲得できるかは不明だが)。Alibabaを恐れるリアル小売とTencentの業務提携の話は引き続き増えそうだ。



WeChatのトラフィックは尋常ではない。ビジネス、家族、モーメントなどありとあらゆるSNSがWeChatに詰まっている。リアル店舗はネット上のトラフィックを獲得するために、Tencentと積極的に組む動きは増えるだろう。



POSという「購入時点での情報」から「購入前後」ももちろん注目が集まる。店内での顔認識カメラ設置などハードへの投資を一定する必要があるため、数年で急速に普及するとは考えいにくいが、各社実証実験を淡々と進めている。

と、ここまで書いてきたことが中国では2016〜2018年に見られた現象である。では2019年は新たにどの辺りが動き出すか?

小売領域におけるIDとPOSの統合はある意味、完成に近づいてきている。Alibabaは大体のカテゴリーにおいて大規模小売事業者と何からかしらの提携や出資関係にある。次の領域はメーカーと卸を巻き込んだ新小売になる。ネットの力を使ったPB(プライベート・ブランド)商品開発が本格化するのではないか。

欧米諸国はだいたい15%以上を超えているが中国は1.3%しかなくPB商品の割合は低く、2019年は「PB商品元年」になると評論するメディアもある。



日本の総合商社のように、AlibabaとTencentが川下を起点にサプライチェーンを垂直統合して行く動きが活発化するだろう。

日本のセブンイレブンはPOSから工場までを垂直統合することで、常に自分たちが作りたいと思う商品を開発して来た。Alibabaなどはセブンとはマーケットインは違うが、「ID→POS→卸→メーカー」までのデータを統合し、自社での商品開発に乗り出すに違いない。Alibabaのビジョンが中小企業や個人がビジネスをしやすくすることなので、自社ブランド展開はビジョンと反する可能性はあるが、ビジネス機会としては、このような形を目指すことだろう。メーカーや工場までネット企業がデータを持つようになるのはまだ時間がかかると思うが、2019年には具体的な取り組みもいろいろと見えてくるのではないか。


以上、2018年と2019年をまとめる形で、中国の社会の変化を考察し、小売(POS)を巡る戦いとして、強引ながら1つのストーリーにしてみた。
この1〜2年でPOSを巡る動きは完成形に近づき、メーカーを巻き込んだ小売の新しいあり方が見えてくるのではないか。自分はリアル小売側の人間として、上海からこの変化に関わっていきたいと思う。

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家田昇悟

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