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ブランドの想いとブランドへの想い

株式会社スマイルズより2016年に分社化した、株式会社スープストックトーキョーが離乳食の提供を開始し、話題をさらった。示唆に溢れる事例だと直感に訴えかけてくるので、”世の中の体温を体温をあげる”を理念に事業展開を行う同社の事例について考えてみた。

○当時の外部環境

”当時日本経済は悪化の一路をたどり、マクドナルドなどが安値攻勢を仕掛け、外食業界全体にデフレの嵐が吹き荒れていた時期でした。”

経済悪化時のルールはシンプルで顧客の消費に対する引き締めがひと際強くなり、節約志向が一気に高まる。個人消費では住居費や水道費などの固定的な費用は削減ができないため、食費・娯楽費への見直しが入り結果、外食頻度の抑制、低単価商材への移行が目立つ。そんな時代であることが分かる。

実際にマクドナルドはこの外部環境に対して値下げを行うことで顧客獲得・収益確保に向けた戦略をとったよう。(1985年まで210円で販売していたマクドナルドのハンバーガーは、この時期96年~99年の間に65円~99円に値下げ)
安価な商品が提供されることにより、それまでの食や時間の代替として多くのお客が増えた。結果的に経済的自由度の少ない学生や、切り詰めた生活をしているサラリーマンがボリュームになったのではないかと想像できる。一方でお客側では長蛇の行列を生み、お店側ではスピード重視の店内オペレーションを生み、「せわしない」「にぎやかな」イメージを形成したのかもしれない。こんな環境が当時では日常の光景であった。

○創業のきっかけ

 “Soup Stock Tokyoが創業したのは1999年。当時女性がひとりで気軽に入れるファストフードはどこにもありませんでした。安心、安全でおいしい食事がゆっくりと食べられて、働く女性が自分の「居場所」として共感できる場所が必要でした。カウンターでひとり、スープをすすっている女性が思い浮かんだことをきっかけにSoup Stock Tokyoはスタートしました。今では全国に60以上の店舗を持つようになったSoup Stock Tokyoですが、どれだけ広がっても「おいしいスープを食べてもらいたい」という思いを常に忘れず、それがすべてにおいての判断基準になっています。”

先の外部環境から考えると、全くの新しい軸で、着目されていなかったターゲットに向けた展開である。
「シンプルでこだわりが強く個性的な”働く女性”」に(Who)、「一人で、ゆっくりと、温かいスープをすすって、目を細めて、ほっとしているような”自分の居場所”」を提供する(What)、「魅力的なスタッフ。極めてシンプルな店舗。そして従来は食の引き立て役であったスープを通じて。」(How)
完全な私の解釈であるが、このような想いで始まったのではないだろうか。

そして、「働く女性の自分の居場所」として共感を集め支持を得ていった。記事から引用すると「静かで優しい場所」として働く女性に受け入れられたともある。
事業自体がまるで一人の人間のような一貫性を有している点に凄みが感じられる。

○離乳食の提供スタート

4月「離乳食を全店舗で無償提供する」とTwitterで発信したところ賛否の声がネット上で飛び交い、話題をさらっている。ありがたいと好意的な声があがる一方で、子連れが増えることで静かな場所でなくなる、こどもが苦手なので行くのをやめるというような声も散見された。

○企業と顧客の関係性

スープストックはこだわりが強いが、お客を選別しないことを公言している。実際、創業当時の企画書(参照:スープで、いきます)でも、当初からぶれない軸として掲げられていることが確認できる。

お客を選ぶことはしないが、「シンプルでこだわりが強く個性的な”働く女性”」を意識した事業づくりを行い、狙い通りのお客を獲得した。
そして「自分たちの居場所」であることを感じたお客は、スープストックのブランドに愛着を持つようになっていったと考えられる。

他方、お客の視点から見てみると、愛すべき自分たちの「静かで穏やかな自分の空間」を、今回の離乳食提供により壊されかねないことを危惧するのは当然である。ブランドに対する忠誠心が強いからこその反発心。好きだからこその反対意見表明。

企業・お客どちらの視点に立てども、お互いの想いがあるがゆえの難題。

○ここから得た個人的示唆

「働く女性の自分の居場所」
当時の外部環境から出発し、受け入れらたコンセプト。しかし実は働く女性とひとえにいっても、独身一人暮らし女性なのか、共働き女性なのか、はたまた実家暮らし女性なのか属性は実に多様であり、属性が変わればニーズも異なる。マスマーケティングの限界点がここにある。
とはいえ1to1マーケティングでは規模拡大に難所があるのも事実。
重要であるのは、最大分母のお客様のニーズを的確に捉え、受け入れられている価値を壊さないようにコミュニケーションを取りながら施策を広めていくことではないかと思う。結果論としては離乳食導入の仕方を全店スタートする前の広げ方、コミュニケーションにはもう1つの工夫の余地があると良かったのかもしれない。

Soup for all!を掲げるスープストックの成したいこと、それを可能にするお客様との関係性、どちらも軽視せずにしっかりと向き合い成長をしていくことが必要だ。


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