作文教室

むずかしいことをやさしく 『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』#2

「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」

作家の井上ひさしさんの言葉です。

と、言われつつ、原典がはっきりしないんですよね。井上さんは日本語に関する本を何冊か出しておられますが、その中にも見当たりません。

検索していたら、なんと国立国会図書館のレファレンスが見つかりました。

Q. 劇団「こまつ座」の雑誌「the座」1989年版がその言葉の出典にあたるかどうか確認をお願いします。
A. ご指定の資料を通覧しました。以下に関連の記述が見つかりました。ページ pp.16-17*劇場の構想を練っていた時の回想とともに、「むずかしいことをやさしく、・・・という呪文のように長い標語をこしらえたのも、そのころのことでした」という記載があります(16ページ下段)。

国立国会図書館は、日本で出版されるすべての書籍が集まるところ。膨大な本の中から該当の雑誌を探し、関連する記述を探す……。

司書ってすごい。

というわけで、「#1000日チャレンジ」の書評2冊目は、井上ひさしさん他による『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』です。

1996年に岩手県一関市で開催された「作文教室」の内容を編集したもので、井上さんによる講義と、生徒の作文の添削で構成されています。

井上さんは作文の秘訣を「自分にしかかけないことを、だれにでもわかる文章で書く」ことだと語っています。

自分本位でいい。
自分を研究して、自分が一番大事に思うことを書く。

本当はそれだけでいいはずなのに。書こうとすると、お腹の奥底からゴショゴショと声が聞こえてくる。

カシコクミラレタイ。セイカイシタイ。

こうした気持ちになってしまう原因として、井上さんが指摘しているのが国語教育の欠陥です。遠足について、読んだ本について、求められるのは「感想」。それだと、「○○山に行きました。お弁当を食べました。楽しかったです」しか書くことがない。

それよりも、よく観察して、みたものをどう説明するかというトレーニングが必要なのです。

本では「は」と「が」の使い分け、「ひとまとまり」としての段落の考え方といった作文の基本も紹介されています。その語り方が、まさに「むずかしいことをやさしく」。

一番好きな言葉はこれ。文章は考えに考え考え抜いたところから生まれる。でも書いて終わりではない。

読み手の胸に届いたときに、自分の書いた文章は目的を達成し、そこで文章は終わるわけです。

文章を書くには、言葉に対する異様な注意力が必要です。そのぐらい難しいことであり、しんどいことでもある。だから書くよりも「よい読み手」を目指す方が楽ですよともお話されています。

よい書き手になるために、まずは、よい読み手になることを目指したい。

わたしは「言葉に対する注意力」はある方だと思います。でも、「数字に対する注意力」がまったくないんです。「#1000日チャレンジ」についてダンナと話をしていたときのこと。

「1000日で1000冊の本って、1か月に何冊書けばいいの?」と聞いたわたしを、ダンナは憐みの目でみつめていました。

(こいつ、またやっちまったな)

そんな表情を見て気がつきました。

井上さんの境地にたどりつきたい。

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