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#エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜

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理屈ではなく何か感情がゆさぶられるそんなnoteたちを集めています。なんとなく涙を流したい夜、甘い時間を過ごしたい時そんなときに読んでいただきたいマガジンです。
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#写真

『雨とビールと丸メガネ』 【ショートショート】

 雨音が動悸を加速させる。彼女に会うのは久しぶりで、少し早く着きすぎてしまった。傘を買うまでも無いか、と梅雨の雨脚を舐めすぎた。店に着くやいなや雨は激しさを増し、もうこの店を出させまいと、雨粒混じりの風が店の窓を勢いよく殴る。  「お一人様ですか?」  「いえ、後から一人くるのですが、大丈夫ですか?」  「はい、ご案内致します」  愛想のいい女性店員は若干濡れた私の髪や服を見て、  「ギリギリセーフでしたね」  と言ったが何のことかわからず、不思議そうな顔をしていると、  「

ラブホテルに愛なんてないよ

相方は眠ってしまった。コンビニで買った、小さな日本酒の瓶を抱えて。ここら辺の相場よりちょっと高いよ、と言っていたラブホテルの一室。換気扇の音がうるさくて、スイッチを探した。 ラブホテルは、とても素晴らしいと思う。ラブホテル、という響きに、人々はあまりいい顔をしないけれど、今まで彼氏との貧乏旅行で泊まってきたホテルを思い出すと、あれならラブホテルの方がよかったな、と思ってしまうことが多々。ちなみに、彼氏と泊まった部屋のことは全く覚えていないくせに、毎回違うラブホテルの場所も、

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気づいたら撮っている東京タワー

いとしき隣人へ

ずいぶん前のことだけれど、そばにいてくれるだけでいい人がいた。 話を聞いてくれるだけでいい。 ご飯を食べるときに同じテーブルにいてくれるだけでいい。 横断歩道のないところを一緒に渡ってくれるだけでいい。 泣いてる私のとなりに座ってくれるだけでいい。 文句の止まらない私に大量の副流煙を吸わせても、やる気が出なくてもだもだしている私にスマホゲームの音を聞かせても、締め切り前に必死にレポートを終わらせようとしている私の目の前で寝ていてもいい。 そこにいてくれるだけでいい。 私に

現実とフィクションのあいだを甘い酒に繋いでもらうよるに。

きみが泣いているのを初めて見た。 正確には、音声通話なので「聞いた」なのだけれども。その光景は私の眼前にあり、それでいて触れることが叶わないくらい遠くだった。耳に押し込めたイヤフォンを、更にぎゅっと押し当てて、私は彼の小さな息遣いが、どうか聞こえるようにと願った。 頭の中で素早く計算する。日本の時間では、3時23分。彼は未だ眠っていなかった。最初に、短いけれど乱暴なほどに自棄な言葉の並んだテキストと、追いかけるように今度はやけに弱々しい言葉が並ぶ。こんなにへなへななきみは

夜の空気とノクターナル

こんにちは、フィルムで写真を撮っています小山ひときです。 今回は、夜のフィルム写真を載せたいと思います。 というのも先日、内林武史さんの作品を大阪まで見に行ったことで自分の中の夜が湿度を帯びたように感じたからです。 ギャラリーはいつも展示されている時よりも明るかったそうですが、それでも、静かに光る作品たちには夜の空気を感じました。あの日帰り道で見た月や、深夜に一人で屋上から見上げた星たち。大切にしていた小さな水晶の光が形になったような世界が広がっていました。 また最近、天

淋しさからいちばん遠くで あなたと出逢えますように

「冬はね、どうしても淋しくなるんだ。これはね、僕の病気のひとつなんだけど誰もが理解してくれる、たったひとつの病気なんだよ。」 そう言いながら、彼は珈琲を口に運ぶ。なんてことはない、いつもの日常。広い構内の一角に設置された自販機に、残念ながら紅茶はなかった。 淋しさを持て余す。 独りで過ごす夜を、あと何度乗り切れば淋しさは無くなるのだろうか。そんな疑問を誰もが持ち合わせていながら、誰もが口にするのを躊躇う。答えが無いと知っているからか、答えをもう知っているからか。本を読み

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夕焼けを撮影してみた

無題

光は影と共にあり、闇は光をもたらす

写真を撮っている。 「なぜ撮るのか」と問われれば、私は「撮りたいからだ」と答えるだろう。「なぜ撮りたいのか」と問われれば、私は「世界が美しいからだ」と答えるだろう。 「写真」というものは、わずかでも光が存在しなければ、その景色を写すことができない。真っ暗な箱に小さな針穴を開けただけのカメラ・オブスクラ、つまり写真機の始まりの時代から、それだけは変わらない。 写真は光ありき。だから私は光を追いかける。歩き、歩き、歩いて、目を凝らし、そして光を見つける。撮る。光という「実体

笑えた。

死にたくなった。 深夜の学校で女子高生が飛び降り自殺。 何とも芸術的。 屋上から街を見下ろす。 ある路地裏に能面が見えた。 こちらをずっと眺めている。 深夜の学校で女子高生が飛び降り自殺をしようとしているのを見ている、能面を付けた男。 何だか笑えた。

「写ルンです」とモロッコを旅する

平成最後の日である今日、わたしはなにをするでもなく家でごろごろしていたのだけど、途中で思い立って「でもまあ令和まで持ち越すのもやだな」という事項を片付けることにしました。 というわけでなんとなーくモロッコに持って行ってみたものの仕組みがよくわからず放置していた「写ルンです」を現像してみたのですよ。 そしたら、予想外によかったのでみなさんにもぜひ見てほしいのです......! * バスの窓から。 モロッコは観光地が点在しているのでバスで一日中移動していました。もはや

光色の約束

大好きで大好きでたまらなかった、ひかり。 今年もまたやってきた夏。 容赦ない太陽の光が、肌を突き刺す。 別れてから、一年経ったというのに、夏の暑さが、ひかりを思い出させるのだろうか? 「……シュウト?」 照り返しの厳しいアスファルト。 聞こえないはずの、ひかりの声が聞こえてくるなんて。 重症だな、俺は。 滲み出る汗を拭って、空を見上げたとき……。 「柊人(しゅうと)ってば、無視するなんて、あんまりじゃない?」 そこには一年前と変わらない、ひかりの笑顔があった。