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#エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜

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理屈ではなく何か感情がゆさぶられるそんなnoteたちを集めています。なんとなく涙を流したい夜、甘い時間を過ごしたい時そんなときに読んでいただきたいマガジンです。
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#毎日更新

在上海活下记录 1

芥川龍之介 「上海遊記」に寄せて 私の支那国上海での初日は冷めざめと降り頻る雨であった。 飛行機を降りる前、父が初めて私に教えた支那語は【不要(ブゥヤオ)】であった。ニィハオでもシェシェでもない、ブゥヤオ。意味は見ての通り必要ないという意である。何故と訝しがる私に父は一言「降りたら分かるさ。追いかけてくる男たちに言うんだよ」 機場の外に出たか否か、何十人もの車屋が私たちを包囲した。何かわぁわぁと喚きたてているものの、それが乗っていかないのか?という誘いであることぐらいし

在上海活下记录 2

芥川龍之介 「上海遊記」に寄せて この記事は、前日の在上海活下记录1の続きになります。 悉くしつこい車屋の間を抜け切り、父の会社が用意した車までたどり着いた。そこの車はピカリと太阳を反射する白金色で塵ひとつついていない。ふっと後ろを振り返ると、数かずの車屋の其れは全て黒いがそこにはびっしりと黄砂が付いている..いま自分が立つ白金の車の近くは、突然にそことの空気が隔絶されたような気になった。不相変(あいかわらず)、人の往来に対して、車屋は何かを喚いていた。 ◇ 揺れに揺

わたしの二番目の恋の話をしよう

わたしの二番目の恋。それは小学一年生の頃。「恋」なんてたいそうな言い方をしてみたけれど、何てことない子供の記憶。 幼い頃のわたしといえば、クラスで分からないと困っている人の宿題を全てやってしまったり、誰も進んでやりたがらない人前に立ってやる仕事をずっとやり続けすぎて先生に「一度やった人は出来ない」とルールを書き加えられたり、クラスのガキ大将に歯向かってカチューシャを割られたりしていた。ちょっとした問題行動として親が担任に呼ばれたのは今だから分かる話だ。コーヒー牛乳が飲めなく

恋の証人。

これは本当に起こったことかもしれないし、そうじゃないかもしれません。 「俺、宏美とも寝てるよ」 男が口にしたのは、わたしの憧れの女性の名前だった。 ちょっとだけ虚をつかれて、眠気がとんだ。 深夜3時までだらだらと抱きあって、わたしたちはまだ裸でベッドに寝そべっていた。さっきまで繋いでいたその手が、あの優しい女性の体にも触れていたなんて。 バイト先のバーで、わたしが働き始めるよりもずぅっと昔に働いていた男とその女性、宏美さんは、いまでもそのバーにそれぞれ飲みにきていた。

何より憂鬱なのは、秋が終わってしまうこと

打ち合わせ先からオフィスに戻る途中、突然雨に降られた。雨降るなんて聞いてない。打ち合わせ中に窓の外が暗くてああもう日が暮れたんだな、日が短くなったな、なんてのんきに考えてた。なんで雨雲だって気づかなかったんだろう。外にいたら絶対に匂いで分かるのに、とちょっと自分の衰えた野生の勘を恨めしく思った。もちろん折り畳み傘なんて持ってない。最悪だ。あの日と同じように突然雨に降られて私の前髪は早くも台無しになった。でも今日はもう帰るだけだから別にいいんだ。全然可愛くない私で君に会うよりず

【#生きる音楽】あの子とギブス

ギブスは大学時代に好きだった女性の十八番だった。 彼女がカラオケでこの曲を歌う時はいつも 「高いんだよね。この曲。」 と言ってから歌っていた。 彼女とはバンドも一緒にやった。 僕が組むバンドで僕はいつもバンマスでかつ調整役だった。 スケジュール調整も、練習曲を準備するのも、スタジオを予約するのも僕。 そんな僕を彼女は理解してくれていた。 「私はあまりバンドをやったことないからわからないけど、今野くんがいるからバンドとかできるんだよね」 まだ地下になる前の渋谷

わたしがあなたのペットだった頃。

「君は年が離れているから、恋人って感じがしないね。セフレってほどドライでもないし。なんだろうね」 ストーブの灯りで橙色に染まったその人の肌に触れながら、すこしだけ考えて「それならペットでいいですよ」と答えた。 男は肩まである自分の髪を邪魔くさそうに束ねて、いいねそれと笑った。 恋人ではない男のベッドで寝るなんてはじめてだった。 意外と平気。わたし、なんにも傷ついてない。 ベッドで過ごした数十分は、過去の恋人たちとしてきたのと変わらない、ただのセックスだった。 窓の外は雪

誰かに髪の毛を乾かしてもらうとき、目を閉じると君にしてもらってるみたいで好き

ドライヤーが壊れたのは3日前だった。髪の毛を乾かしているとどんどんモーター音が大きくなってきて、なんと火花まで飛ぶようになった。増税前に買い換えるんだった、と少しだけ後悔して新宿ビックロに行き、モデルチェンジで安くなってたパナソニックのナノケアを買った。マイナスイオンの1000倍以上の水分を含む「ナノイー」なるものが発生するらしい。おかげで私の髪はするんするんのまとまりのあるサラサラ髪へと生まれ変わった。 私は髪の毛がコンプレックスだった。くせ毛で細くてふわふわしてすぐに絡

それはもう、ただの好きな人だよ

そんなことない。そんなことないと何度も何度も自分の中で答えを探す。けれども、私が欲しい答えは見つからなくて、ただただどろっとした黒いかたまりが心から漏れ出ているだけだった。ぐるぐると回る回る回る… そうやって考えている時点で答えは出てるじゃんか、と友人は言う。まだ割り切れるもん、と壊れたおもちゃのように繰り返す私に、彼女は何度も食い下がる。 ずっと未読だったLINE。勇気を出して再送した私のメッセージには、仕事が忙しくて返信できないとの返事があった。そうしてそれから、返信

君のことなんか、大好きでしかない

「で、これからどうするの?」 君が静かに、探るように放った一言に私は何も言えなかった。私はどうしたいんだろう。私は君とどうなりたいんだろう。目の前にはただ君が好きっていう刹那的な感情と君に抱かれたいっていう欲望が綺麗に二つきっとほとんど同じ大きさあるいは質量で並べられている。でもそれは目の前にしかなくて、数メートル先には何もなかった。暗闇、違う、そんなネガティブすぎる表現じゃなく、空虚あるいは煙に近い。見えそうで見えないもの、形のないもの、実態を掴めないもの。君のことなんか

そろそろ香ってくるのは金木犀のはずだけど、今日は林檎の香りを胸いっぱいに吸い込んだ

「ルーティーン」って言葉はこの数年で一気に広まったけど、私にも日々の生活の中で細かいルーティーンがある。 たとえば仕事を終えるとき。PCで仕事をしてるので立ち上げてるアプリを全部消したり要らない書類やファイルを整理してから電源を落とす。デスクの上を軽く片付けて、仕事中は外してるシャネルのピアスと同じくシャネルのJ12をつける。デスクの端っこにはサンローランのミラーが置いてある。メイク直し用のパウダーをぱふぱふっとはたいて、リップを塗り直す。最近のお気に入りはテラコッタ色のル

始まってすらいないから これはバッドエンドではない接吻

首筋を撫でた。 なんども撫でたかった。 一瞬しか触れられない事がわかっていたから、わたしはその一点に身体の全ての感覚を集める。すると、当然立っていられなくなった。わたしの五感とそれ以上の感覚を彼に全て預ける。 自棄ではなかった。 むしろわたしは誰よりも自分の身体を大事にしていた。自分が可愛くて仕方がなくて、でもわたしには彼がその時だけ頼りだった。 「どうしてそんなことをするの?」 その言葉をわたしは飲み込む。 それが血になってくれればよかった。 彼をわたしの中で飼ってみ

曇天

地元では大雨らしい。こちらは曇り空。敷き詰められた今日の雲は、週末までまだ1日残している人々の深いため息で作られている気がする。雨はまだ降らない。ため息のカタマリはただただ厚みを増していく。そこには、ため息に混じって吐き出したみんなの心の涙が溜まっている。そんなもの浴びたくないから、みんな色とりどりの傘を持つ。人がひしめくあの街は、何色の涙を流すのだろう。雨は神さまの涙なんかじゃない。れっきとした、僕らの涙だ。 曇り空の時ほど空を見上げたくなる。鉛色の切れ間から、白く淀んだ

なんだか泣けてしまう気持ち

わからないけど、なんだか泣けてしまう、そんなときがある。 私の場合、ニュージーランドの国歌をうたうと泣けてくる。 なんで? と聞かれてもちょっと困るのだけど。とにかく、胸が熱くなって涙が滲んでくる。 ニュージーランドの国家がけっこう好きだ。歌う機会はほぼない。でも、娘の小学校の集会に参加すると遭遇する。 昨日は、2学期の終わりの日ということで、「がんばった生徒が表彰される集会」(終業式みたいで、そうではないもの)に行ってきた。そこで、国歌を歌う子どもたちの姿をみた。