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VOL4: 『未来の学校のつくりかた:5つの教育現場を訪ねて、僕が考えたこと』著者 税所 篤快(さいしょ あつよし)さん

国際教育支援NPO e-Education創業者。1989年生まれ、東京都足立区出身。早稲田大学教育学部卒業、英ロンドン大学教育研究所(IOE)準修士。19歳で失恋と1冊の本をきっかけにバングラデシュへ。同国初の映像教育であるe-Educationプロジェクトを立ち上げ、最貧の村から国内最高峰ダッカ大学に10年連続で合格者を輩出する。同モデルは米国・世界銀行のイノベーション・コンペティションで最優秀賞を受賞。五大陸ドラゴン桜を掲げ、14ヵ国で活動。未承認国家ソマリランドでは過激派青年の暗殺予告を受け、ロンドンへ亡命。現在、リクルートマーケティングパートナーズに勤務、スタディサプリに参画。同社では珍しい1年間の育児休業を取得した。著書に『前へ! 前へ! 前へ! 』(木楽舎)、『「最高の授業」を、世界の果てまで届けよう』(飛鳥新社)、『突破力と無力』(日経BP)など多数。


―このインタビューでは、教育のフィールドで想いを持ってチャレンジしている方のお話を聞いていきます。今回は、先日『未来の学校のつくりかた:5つの教育現場を訪ねて、僕が考えたこと』を出版された、税所 篤快さんにお話をお伺いできればと思っています。

税所:よろしくお願いします!



Index

1、新書『未来の学校のつくりかた: 5つの教育現場を訪ねて、僕が考えたこと 』

2、30代は、家族増殖の時代

3、演じなければならない税所篤快像は、ゼロリセットされてきている

4、それでも。「おまえの情熱はどこにあるのだ?」



1、新書『未来の学校のつくりかた: 5つの教育現場を訪ねて、僕が考えたこと 』

―まず新書のお話からお伺いしたいと思います。なぜこのタイミングで出版に至ったのでしょう?

税所:5年前から、教職研修での月間連載を続けていて、そのなかで、日本のいくつかの学校を回ったなかで感じたことを言葉にしてきていました。今回ある程度文章がたまったタイミングで、出版のお話をいただいたのです。


―ご自身にとっての意味付けは?

税所:こんなに長い期間、ルポタージュを連載するのは初めてのことでした。僕は、<中途半端・税所篤快>とか<熱しやすく冷めやすい・税所篤快>とかいう通り名があるのです(笑)。そんな僕でも5年間、この連載を息長くやり、一冊の本に綴じることができたことは、大きな意味がありますね。コツコツとものごとを続けていくということが、いま僕が向き合っているトレーニングテーマなので。もちろん執筆のチームがあってこそではありますが。


―読者の反響はどうですか?

税所:おかげさまで、楽しく読んでいただいている印象です。僕と同じように旅をするような感覚で、日本の教育の挑戦事例を知ることができて、楽しかった、リフレクティブになったという声が、教育現場の実践者である先生方・管理職の方々から届いてきています。あとは、海外の国連職員の方など、日本のことを気にかけておられる国外の方からも反響が届いています。


―原稿を読ませていただきましたが、読者が旅をするかのような本だというのはその通りに感じました。取材をつづけるなかで大切にしてきた視点はなにかありましたか?

税所:「すごい」「おもしろい」と思える事例だけを取材するということです。自分自身が痺れ、心を打つような現場だけを取材した本なので、その僕自身のワクワク感が読者の方にも伝わっているのではないかなと思います。


―滑り出し上々というところでしょうか。

税所:ところが一方で、何人かの方から「俺は税所篤快の物語が読みたいのだ」という声もいただいています。ほかにも「あなた自身の現場はどこなのですか?」という声や、「おまえ自身のマグマをぜんぜん出せていない」というような厳しいフィードバックもいただいています。


―そのような言葉をもらってどのように感じていますか?

税所:そうですね。遠慮をしていたのかなとは、思いました。自分を出すということではなく、挑戦されている学校にフォーカスをあてることで、自分の表現、ほとばしるマグマのようなものをどこか自制しなければならないというものがあって、70%くらいのパワーでやっていたということなのかもしれません。「きれいすぎる。もっと毒々しいものをあなたは持っている」とまで言ってくださる方もいました。ありがたいフィードバックですよね。


―20代で、世界を股にかける社会起業家として挑戦をつづけてきた税所さん。周囲がそうした「税所篤快像」を脳裏に焼き付けているという面があるのかもしれないと感じましたが、どうですか?

税所:そうですかねえ。ただ、基本的には僕は、人の期待には応えたくない人なのです。そうするとだいたい息切れをしてしまいますから。そうではなくて、誰からも期待されていないところで成果を出すのが得意。バングラデシュでの活動も最初はだれも期待していませんでした。見られていないところで火を起こすのが好きなのですよ。


―なるほど。

税所:自己矛盾は認識しています。見てほしいという願望と、見ないでという願望との両方が混在している感覚です。


2、30代は、家族増殖の時代

―30代をむかえるなかで、今後はどのような生き方をしていきたいと考えているのですか?

税所:「家族増殖の時代」ととらえています。


―キャッチ―なフレーズですね!

税所:もうすぐ次男が生まれるのですが、妻は女の子も育てたいと言っていますし、個人的には5人の子どもを育てたいという希望を持っています。自分の中で、子どもたちに囲まれている光景にあこがれがあるのです。


―どうしてそのようなことを思うようになったのですか?

税所:本山勝寛さんを知っていますか。いま日本財団で子どもの貧困対策のチーフをされている方です。彼は39歳なのですが、お子さん5人を育て、かつ作家業をされてベストセラーも持っているような方なのです。財団での正スタッフをやりながら、作家もやり、父親業をやっている39歳。彼がこの前、5人の子どもたちのことを楽しそうに話していて、インスピレーションをもらったのです。子どもを育てるのは楽なことではないですが、子どものエネルギーが、自分自身の活動の源にもなっているのだろうなと考えるようになりました。


―そのときまではそういった考えはもっていなかったのですか?

税所:はい。2,3カ月前に本山さんと話をして、ビビっときまして。5人いたら五大陸にそれぞれ一人ずつ子どもを送ることができるなと妄想しています。


―すごい構想ですね。税所ファミリーが世界に。

税所:ワクワクしているのです、いまそのビジョンに。これってあと15年くらいはかかるじゃないですか。僕の30代はその期間のコアになる年代です。なのでなにをするかはとてもシンプルで、家事をして、子育てをして、仕事をするということです。そしてきちんと足腰を鍛え、地に足をつけて生きるということです。


―すでに一児の父親、この8月には第二子もご誕生予定ということですが、父親になるということで変化したことはありますか?

税所:リクルートのスタディサプリで働いて5年になりますが、2年目で所属していたグループで会社から賞をもらい、みなで沖縄旅行に行きました。その時、当時のマネージャーを筆頭に、メンバーのみなも、お子さんがいる家庭はその旅にお子さんを連れてきていて、思いっきりそこで子どもたちと遊んだのですが、それが楽しくて。当時は僕はまだ子どもがいなかったのですが、子どもがいる人生ってすごくいいなと、思いました。


―何を感じたのでしょうね、そのとき。

税所:そのとき、家族というものがすごくまぶしく見えたことを覚えています。短い旅の中ではありましたが、信頼と愛で結ばれた人間関係を感じることができて、自分もこのような人生を送りたいと思いましたね。


3、演じなければならない税所篤快像は、ゼロリセットされてきている

―話を聞いていておもしろいのが、税所さんは人の期待には応えたくないというけれど、人の姿はよくみていて、それを自分の中の火に変えて、動いていくという行動パターンがありますね。

税所:確かにそうですね。人の期待には応えたくないと言いながら、人にすごく影響を受けているということですね。自分のピンとくること、直感的にビビっとくることというのは、大事にしているというか、もう、それを感じたら動かないではいられないというところはあるのだと思います。


―周囲からの期待、いわゆる「税所篤快像」みたいなものと向き合っていくことは、これからも避けられないと思うのですが、自分の中ではどうとらえているのですか?

税所:ちょうど1カ月ほど前にスタディサプリの事業責任者の山口文洋さんと面談をしたのですが、その時に、僕がリクルートのスタディサプリで過ごしてきている5年間って、税所篤快にとってなんなのかみたいな話を彼としたのですよ。


―おもしろい。

税所:その時に言われたのは「社会起業家・税所篤快」みたいなイメージはだいぶ薄れてきたのではないかということでした。そして、僕も「確かにその通りです」と答えたのです。バングラデシュやソマリランドなどをフィールドにして20代の前半は活動を続けてきて、24,25くらいまでは、自分は途上国で活動しなければいけないということを思っていました。ですが、その過程で自分自身への限界を感じることもあって、スタディサプリへの参画を決めた経緯があります。


―会社員として働くいまの5年間で変化があったのでしょうか。

税所:ある意味、その前にあった税所篤快像を世間が忘れてくれたというか、その期待値が薄まってきたような感覚を持っていて、いまだいぶフリーダムに戻ってきたというのは感じています。演じなければならない税所篤快像は、ゼロリセットされてきていると。


―ポジティブな要素としてとらえているのですね。

税所:会社員として、リクルートで仕事ができる人とたくさん触れ合って、揉まれる中で、なんだかんだ足腰が鍛えられている修行期間のように思えています。いま僕にとっては、この期間は根っこを太くできた5年間だと思っているのです。


―それでも"あの頃の"税所篤快を覚えている人もいるのではないですか?

税所:いますよ。昔の僕の像が好きな人も。早くほんとうの力を身につけた方がいいというお声をいただくことは少なからずあります。


―それでもいまは、下に下に根を張り、太く広く力を蓄えている期間なのですね。

税所:そういうことです。先日、東大の哲学者である小林康夫先生と、僕の新書の出版記念トークイベントを開催したのですが、その時に小林先生に「君、おもしろいね」と言われたのが嬉しかったのです。小林先生とお話をする機会は初めてだったのですが、初対面でそのように言っていただけるということは、この2,3年自分の中で蓄えてきたインプットがあったからなのかなと思えて、自分自身の成長を感じることができました。


―昔の自分とはすこし違う脱皮したような感覚をもったのですね。

税所:いままでの自分のような、アホな行動力で人を驚かせるだけではない、自分の見せ方ができるようになってきているのかなと思います。20代の後半にいい養分をたくさんいただけていることが大きいのかなと。


4、それでも。「おまえの情熱はどこにあるのだ?」

―「社会起業家・税所篤快」が一度浄化されていまがあるというのがしっくりきているということだと思いました。とはいえ、誰も期待していないところで芽を生やすという税所さんが楽しみなのですが、なにか構想はあるのですか?

税所:先々週くらい、G社の担当編集者を訪ねて、僕が書きたいと考えた新しい連載案を持ち込みました。自分の中で妄想が膨らみすぎて。ところが、その編集者の方とは長いつきあいなのですが、言われたことは「税所さん、落ち着きなさい」でした(笑)


―(笑)

税所:「いろいろやりすぎ」だと。いま一番やらないといけないことを考えなさいと言われたのです。こんなところに企画持ち込んでいないで、勉強しなさいと。書きたいのはわかるけれど、これはあなたが好きで得意なことですよねと。そういうことはいつやってもいいじゃないと。むしろ苦手で面倒くさいことがあるのであれば、そっちを先にやりなさいよと。


―どう感じたのですか?

税所:いや、もうぐうの音も出ないとはこのことだなと(笑)。彼女とは付き合いが長く、僕がもっとも尊敬する編集者の一人なのですが、ふだんあまり厳しいことは言わない人なのです。それが今回は珍しく、いままでで一番厳しく言われましたね。それは大きいです。


―なるほど。

税所:実はもうひとり、僕が尊敬する人生の師のような方からも近しいことを言われているのです。「今回の新書は素晴らしい本だけれども、週間誌のような本である」と。「お前が本当にやりたいのはこういうことではないのではないかと思う。なので、この本を最後にこのような仕事は卒業しなさい」と言われました。


―みんな、税所さんのことが気になって仕方がない、そんな存在なのだなと話を聞いて思います。

税所:もうひとつ新書の厳しいフィードバックコメントの話なのですが、「いや、これ税所が書かなくてよくない?」と言ってきた同僚がいました。いったん受け止めたふりをして僕は蓋をしたのです、その時(笑)。「この野郎、こっちは一生懸命書いてきたのだぞ」と。なのですが、その後にさきほど触れた編集者の方や、人生の師と仰ぐ大先輩の方から、同じことを言っていただいているように思えてきたのです最近。「おまえの情熱はどこにあるのだ?」という。


―その問いにいま向き合っているのですね。

税所:そうです。なので、最初の本を出版してどうですか?という問いに戻ると、わかりやすくそういった率直なフィードバックが届いていて、けっこう揺さぶられていますというのが今なのです。


―時間が来てしまいました。1時間のインタビューの中でも、税所さんの率直な人柄がにじみ出て、人間らしい人だなという印象を持ちました。これからの税所さんが楽しみです。ありがとうございました。



改めて、税所さんの新書『未来の学校のつくりかた: 5つの教育現場を訪ねて、僕が考えたこと 』に興味を持った方はこちらへ!

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