「永遠旅人」

たおやかに流れる水の流れに手を差し出し、手のひらに一瞬収まっては逃げていく無数の光の粒子。遥か幾万光年の彼方からやってきたその波長の断面を捉えた一瞬に脳裏に刻み込まれた美の祭典。その裏側には途絶えることない過去と未来があると海を渡った異邦人が教えてくれた。昨日という過去を乗り越えてやってきた今日という新しい一日。

波面がゆらゆらと揺れる、夢のまにまに

睡眠と覚醒の狭間で漂う間に光り輝く星々は旅立ってしまった。消えざる過去と創りゆく未来が交錯して足元の影はゆらりと揺らぐ。覆い隠す飛行船の軌跡を避けるように旅人は東へ向かう、地平線の彼方に訪れるであろう太陽の光を浴びるために。これ以上の喜びはないと夕闇の宴で誓った衆生たち。いつまでもこの幸せは続かぬと山河を慈しみながら自然物と人工物が奏でる不協和音を鳥達の囀りでひととき忘れ去ろうとする。

今日というときが消えてしまう。そして明日というときが現れ、やがて消え果てる。その繰り返し。

稜線がくっきりと照らし出される、朝の訪れ

ゆるやかに、ゆるやかに傾きつつある日付変更線。その中心点を手繰り寄せながら未来の航海図をデッサンしてはその筆を一瞬止め、黙考する。考えてはならぬ。考えてはならぬ。ただ感じよ。そして念じるのだ。祈るのだ。かつてアステカの王国が滅んだように我らの世界も遠い過去と一体化しようとしている。今日を愛する人がいう。きっと明日はあると。それがただの強がりだと時の旅人は見抜いている。

色のない世界に押しつぶされ、これまでの赦しを請うために旅人はすべてを捨てた。それが未来への絶望であったとしても意に介さず。己がこの世に生を受けた理由。解のない問いの前に立ちすくむ。ただただ今ここにある、その単純な論理を解明することすらできず、足元に群がる一群の蟻を見つめる。そして、ただ一心に己の感情を支配する畏怖と戦う。

今日の風が爽やかに吹いた
明日の風が軽やかに吹いた

どこまでも澄み渡る蒼が永遠の静けさと冷たさを演出する。旅人は身震いしながら北の大地を目指す。己を先に導く遥か長き道をその目に焼き付け、半身が既に消えてしまった我が行く末を案じながら、もはや己ではない己が存在する明日を未来をどう処すべきか葛藤する。未来とは、より永き時を経験した己が過去の己を更新していくこと。その解釈に辿り着くまで半世紀を要した。旅人は永遠に自問自答を繰り返す。

寒空の下、北の大地を越えて旅人は大海に出帆する。時間と空間の乱れのない希望の大地へ向けて航海を進める。己という存在を貶め、消し去る恐怖はもうここにはない。モノクロームの過去を塗り替えるのは白銀が彩る永遠の大地であろう。旅人は、己が真の旅人たることを切に願う。

吹き付ける白い風を冷たく感じる夜
その風は旅人の背を押すことだろう

旅人よ、歩け、進め。それが己の存在を意味づけるだろう。
国を造る者、国を率いる者、それは旅人なり。皆、彼に続くのだ。

天空へ祈る、誰もがみな時代を創る旅人でありますように。

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