【報告】仮想儀礼特別講座@練心庵(2024.3.11(月)開催)に行ってきました!

(作品の直接的なネタバレは極力避けていますが、作品を未読未見の方はご注意ください)

 去る3月11日(月)、寺子屋練心庵(大阪府豊中市)で開催された「仮想儀礼特別講座」を受講しましたので報告します。

 まずは、素晴らしい場を設けてくださったスタッフの方々、登壇者の方々、そして受講者の皆様(あれだけの人数の方と「好きなもの」を熱く共有できる体験は中々ありません)に感謝いたします。

 登壇者は、練心庵主宰・釈徹宗さん、ドラマ『仮想儀礼』制作統括・高城朝子さん、勝田夏子さんの御三方(受講者から見た左からの並び順。以下敬称は「さん」で統一させていただきます)。
 受講者の人数は、椅子5脚1列が5列分、それが左右にあり計50名弱だったでしょうか。それでも室内は存外ゆったりしていました。
 また登壇者に向かって左にはホワイトボードがあり、作品の登場人物の名前が書いてありました。

 以下、講座の書き起こしではなく、覚えている限りでのトピック別要約ですので悪しからず……。
 要約の文責は私にあります(〔〕内は私の感想です)。

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【当日の進行について】
 前半は、(作品に触れていない方のために)原作小説ベースでドラマ版の内容も交えた梗概を、釈さんが紹介。全体の語り方が丁寧かつ簡潔で初めて耳にする方にもおそらく分かりやすいものになっており、法話のようでした〔釈徹宗さん……「TVのままの人だ!」なんて思ってしまいまして失礼しました〕。

 続いて、ドラマのスライドやNHK番宣映像の紹介。白眉は出演部分のスライドに虹を描き足した「後光が差す釈さん」。一同爆笑。
 途中に制作陣御二方のご紹介を挟みつつ。

 その後、制作陣御二方と釈さんによる内幕話の時間、最後に質疑応答(20分程度)という運びでした。

【作品のテーマについて(釈さんによる宗教論)】
・「真っ当で常識的なサービス業としての宗教は成り立つのか」。正彦はそれを目指したが、結局うまく行かない。なぜなら、社会からはみ出すのが宗教だから。社会とも家庭とも違う価値が宗教には求められる(作品でも次第に密教が重要視されるよう誘導されていき、教団が自律性を帯び始める)。
・ラスト「誠の聖性の発揮」から「死者儀礼の構築」に至って教理に血が通う描写が宗教的に見て秀逸。
・高城さんは「最初コメディ→からの→急にホラー(ダーク)」のような急にがらっと展開が変わる構成がお好きで、企画段階からずっとその線でいこうとしていたらしい〔人が悪い〕。
・聖泉真法会のような小集団でも、生じることは大カルトや世界の宗教紛争と相似。
・「正彦」「誠」「真実(まみ)」といった名前にも表れているとおり、「うそかまことか」がひとつのテーマ(秋瞑の霊視などのように、真実かハッタリか、偶然か奇跡か分からないような描写)。「うそがまことになったのさ」というそのものズバリのセリフも。

【放送までの経緯について】
・高城さん、原作小説を何年も前に読んでいた。前半は面白いが後半は怖く感じ、途中で読むのを止めていた。再読し、企画書を作ったのが5年前。しかし、「宗教モチーフはTVでできない」と放送局7社に振られる(放送業界で宗教はタブー。民放ではスポンサーが付かないという話も)。
 そうした折に件の事件があり、「今なら、そしてNHKなら」と企画募集に応募し、見事通った。
・高城さんの当初の宗教イメージは、オウム等の影響もあり、「怖い」であったそう。「どうして宗教を信じるのか? 代わるものがあるのでは(映画や、親しい人との語らいなど)?」との思いが端緒。
・企画募集のヒアリングでは、審査員が10人ほどいるなか「これをNHKでやらなきゃどこでやる」といった声が上がった。編成も推したことで採択に至った。
・勝田さんも原作小説を読んでいたが、「TVではできないだろう」と思っていた。企画書を読み、「これならできそう、なんとかなる」と感じた。コミカルからサスペンスへ、という構成も魅力に感じた。

【演出や脚本などについて】
・真実(まみ)をニュートラルな立場に据えるなど、受け入れやすくする意図での原作小説からの改変。
・セーフティネットが壊れ、「すがりたい気持ち」が自然に湧いてくる現在の社会情勢を反映させた。
・釈さん「篠田さんの原作小説にある、宗教について深く考えさせる《良い一文》を、脚本に散らばらせて」と依頼。結果、反映された。
・宗教・信仰を繊細にあつかうため、演者にはアドリブを控えてもらった(演技的面白さのためにアドリブで仏像の頭を撫でる大東さんに、ストップをかけた)。
・脚本上、港岳彦さんが一番悩まれていたのは、誠についての重大な改変。
・釈さんは諸々の改変について原作者の篠田さんがどのように考えているか聞きたく思っていたが、制作陣が変更点を細かく丁寧に打診していたためその必要はなかった。篠田さんは「ぜひアップデートを」と言い、誠についての改変も「大賛成」と。
・第一話の鳥居の場面は伏線。
・高城さん。最初からシリアスで行くと「お勉強」と捉えられてしまうので、まずはコミカルに振り切り、いわば視聴者をダマした。そのために、音楽担当の岩代太郎さんに「面白い音楽を作って」と依頼した(釈さん「あのケッタイな音楽ね!」)。
 全十話あるので、なるべく「面白いもの」でダマす(釈さん「手練手管でね」)。
 展開をダークさに振っていくタイミングはかなり工夫されており、いくつかの契機がある。「石坂の登場」や「あなたは本物です」など。第七話で政治が絡んでよりヒリヒリするダーティな展開に。
・勝田さん。第四話の百万単位で稼ぎ始めるシーンで破滅的な曲を付ける運びだったが、高城さんが「もう少し待って」と。
・最終話の五体投地の場面は、ドラマでは30秒ほどだが実際は3〜4分やっている。本当に体を叩きつけており、汗も本物(釈さん「東大寺のお水取りで見たことある、みたいな感想があり、どこにでもマニアはいるものだと」)。
・映像上、時折誰のものか分からない視点が混じっている。

【反響の印象について】
・勝田さん「不謹慎という声はほぼなかった」。むしろ、信じるとは、宗教とは、など考えさせられたとの意見多数とのこと(釈さん「悔しい。長年それを訴えてきて寺子屋まで作ったのに(笑)。《ドラマ》という手があったのかと」)。

【俳優について】
・石坂役の石橋蓮司さん。難しい役どころだが怪演。
・増谷の下の名前(哲成)は、演者の奥野瑛太さんが演じやすいように釈さんが付けた。真言宗の寺の倅にありそうな名前。
・釈さん「主演のお二人ははまり役ですよね!」。
・青柳さんの起用の理由。岸さんが「きっと好青年」と推挙。正彦の《真っ直ぐ・堅い・熱い》性格ともピッタリ〔しかし、土スタで「何も考えてない」(冗談)ことが判明してしまった青柳さん〕。
・大東さんの起用の理由。高城さんと大東さんとは「世界ウルルン滞在記」担当のころからの付き合い。生い立ちの話を知り、「彼なら」とオファーした。大東さんも「俺以外にこの役をやらせたくない」と。
・演者は「後半の展開を踏まえると、前半でどこまでふざけていいか」と迷われていた。
・美波さんの思い。秋瞑をエキセントリックなだけの人と捉えられたくない反面、暴力を振るうシーンがあることへの苦悩。最終的に、「大事なものを守るための暴力」と納得。

【宗教部分のイメージ作りについて】
・原作小説はイエスの方舟、法の華三法行事件などを明確に下敷きにしており、恵法三倫会には某日蓮系教団をダブらせているかもしれない。諸団体の実名もどんどん出てくる。
・ただし、ドラマでは「特定宗教の信仰を馬鹿にしない、信仰者を傷つけない」更には「特定宗教を連想もさせない」ことに細心の注意を払う必要があるため、釈さんと勝田さんとで表現を逐一チェックした。
・「霊感商法」は特定宗教と結びついているため「霊感ビジネス」とするなど。また、誠を「総長」と称するなど。
・作中の宗教イメージは、あえてチャンポンに。チベット仏教をベースに、「いかにずらすか」に苦心した(「ただしくずらす」ためにチベット密教と真言密教の専門家をアドバイザーとするなど)。
・映像化の困難。小説と違い、仏像・荘厳・教祖の服装などを具現化しないといけない(釈さん「教団の教義までちゃんと作りましたからね。小説読み込んで」)。
 エメラルドのモチーフも「他の教団にはないものを」という計らい(釈さん「あらゆる教団のロゴマークまで調べましたから」)。儀礼・お経・その唱え方(釈さんがテープに吹き込んだ)・仏像の順番まで作り込まれている。
・果ては、モリミツの祭壇の褒め方まで。「仏像の褒め方」の型などないので、高城さんから釈さんへ、仏像を示して「褒めてください」と依頼(笑)〔未明に電話したとおっしゃっていた気が〕。「思わず拝んでしまうようなご尊顔で……」など、流石宗教家、な語彙が飛び出したそう。

【質疑応答(他の受講者様の意を汲みきれていないおそれがあるので、私のものだけです)】
(質問)
 正彦の性格(原作は迷いなく進むが、ドラマでは迷い悩み、人の意見を聞く人物になっている)や由宇太くんの運命についてなど、原作小説からの改変の意図は。

(回答)
・正彦については、原作小説では結構心の中でいろいろなものをくさしている。脚本家へは「愛せる人にしてください」とだけ依頼した。
・由宇太については、ドラマの展開のほうがより正彦が責任を感じる度合いが大きいのではないかと思ったため。あとは、若いのでやり直してほしいというのも。
・最終的に「宗教は怖い」というだけの感想に終始してほしくなかったので、雅子の親族への仕打ちや、広江への私刑描写は穏当に改変した。

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(以上、なるべく発言者様の意を汲みつつ要約しましたが、もし受講された方で「この箇所のニュアンスが違う!」といった意見をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ご海容のうえ忌憚なくご教示ください)

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