見出し画像

しゃべる画像 #毎週ショートショートnote

 秋の彼岸の中日、兄と私は霊園の石段を息を切らしながら登っていた。その後を兄嫁と妻がゆっくり登ってくる。女二人は亡父の思い出を笑いながら語りあっている。  
 我が家の墓の前にたどり着き、掃除や花の支度を終える。線香を焚き、墓石に手を合わせた後、墓石の下部にあるボタンを押すと、墓石の一部がぼんやりと明るくなり、亡き父の肖像が浮かび上がった。そして父の声が流れてくる。「お父さんだよ…」
「13回忌か。毎年この声を聴いているけど、ちょっと音が間伸びしてきてない?」「13年も経つと具合が悪くなってきたんじゃないか」「あら、13年じゃないわよ。お義父さん、生きてるうちにこのお墓建てたんだから」「メッセージと愛唱歌が流れる墓石だって、嬉しそうに話してたわよね」
 メッセージが終わると「星影のワルツ」が流れ始めた。女たちはすでにこの後立ち寄る蕎麦屋で何を食うかの話題に移っている。初秋の風が、私たちの頬を撫でていく。


本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です。

(404文字)


たらはかに様の企画に参加させていただきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?