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対談:成河さん×福原充則「出るよ!出てやるよ!出てくださいって言わせるよ!」


今回の対談のゲスト、
成河さんとは?

成河(そんは)
1981年生まれ、東京都出身。大学時代から演劇を始め、北区つかこうへい劇団などを経て舞台を中心に活動。平成20年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞、第18 回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。近年の主な舞台に『髑髏城の七人』Season 花、『エリザベート』『タージマハルの衛兵』『子午線の祀り』『スリル・ミー』など。
本年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に、義円役で出演。
今後の舞台出演作は、4/27~『EDGES』、7月『導かれるように間違う』、9月~『COLOR』。



2月某日、リモートにて

ーー2人の出会い
 
成河 あれって何年前だろうね。マンションマンションの『人間フィルハーモニー』('07 作・演出:福原充則)だよね?

福原 15年前くらいかな。正直、もっと前の感覚だけど。

成河 そうだよね、「出ませんか?」ってことでどっかの喫茶店で会ったのが最初かな。

福原 元ジャン・ジャン('00年まで渋谷にあった劇場)のカフェミヤマだったと思う。

成河 すげー怪しげだったよ(笑)。そん時の福ちゃん。

福原 覚えてんのは、最初に俺が「今日は〝出ます〟って言うまで帰らせないけど、どうします?」って成河に言って。

成河 言われた、言われた(笑)

福原 あの時点では俺のこと知らなかったでしょ?

成河 うん。

福原 よく出たね。

成河 よく出たよね(笑)

福原 なんで(笑)?

成河 その前に、(長塚)圭史さんの芝居('06年『ウィー・トーマス』 作・マーティン・マクドナー)で、トミーさん(富岡晃一郎)と共演してて、その縁で紹介されたのかな。あと、演劇界に知り合いも少ない頃だったし(笑)

福原 え、友達作り(笑)?

成河 そういう意味じゃなくて(笑)。声かけてもらえること自体が新鮮だったし。

福原 でもなんか、すでにスター然としてたよね(笑)

成河 (笑)してないしてない、…してない(笑)!…けど、まぁ、劇団(ひょっとこ乱舞)やってたから、ちょっとは。

福原 劇団やってるだけでスターの空気が出るわけじゃないよ。

成河 いや、だから、つまりさぁ(笑)

福原 ごめん、わかるよ。あの頃のひょっとこ(乱舞)の芝居がね、ちゃんと主役が真ん中に立って引っ張る芝居だったからね。

成河 うん。

福原 静かな演劇と呼ばれるものとか現代口語的なものが増えると同時に、群像劇が増えた頃だったけど、そういう芝居と比べたら、スター的な輝きが要求される芝居というか…、

成河 そうそう。で、ポエティックな感じもありっていうのが好きだったしね、やっぱり。

福原 『人間フィルハーモニー』も、成河には「主役は俺だ!」って台詞があったしね。

成河 あれは台本がおかしい(笑)

福原 オープニングで、親族代表(福原が演出を担当したことのあるコントユニット)のリーダー(嶋村太一)と根上(彩)さんの2人で3分くらいのシーンがあって、その途中で突然、成河が「この芝居の主役は俺だ!」って乱入してきて…、

成河 (笑)

福原 「脇役はどいてろ!」って叫んで本編が始まる。

成河 あったね。…いやぁ、いろいろ大変な芝居だった。駅前劇場が客席まで水浸しになっちゃったしね。

福原 駅前劇場に花道を作ったんだよね。客席の入り口から舞台上にかけてまっすぐの。で、その花道の床板がはずれるようになってて、ラストシーンで床板を取り外すと、下が全部プールになってて…、

成河 要は、花道が水路に代わる。

福原 そこを、成河と(高木)珠里さんがクロールで反対の端まで泳いでいって、ズバーッと水から飛び出て一言、

成河 「ご来場ありがとうございましたぁ!」って。

福原 それで芝居が終わるという(笑)

成河 楽しかったねー。いやもう、めちゃくちゃ楽しかったよ、ほんとに。

福原 そしてあの頃は若さに溢れてた。

成河 (笑)

福原 成河は今でも何も変わってない。

成河 いやいや(笑)。若いっていうか、まぁ、あの頃、めちゃくちゃ調子に乗ってたんだよ。で、あの芝居の後、ボッコボコにされてんの。

福原 あー、そうなんだ?

成河 『春琴』(演出:サイモン・マクバーニー)』でさ。

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ーー若き日の成河、サイモン・マクバーニーにボッコボコにされる
 
成河 サイモン・マクバーニーとヨシ笈田先生にもうボッコボコに…、まぁ、人生の2大師匠ですけど(笑)

福原 それは、芝居のダメ出しみたいなことで?

成河 そこから始まって人間性、文化的教養、なにもかもが陳腐だと(笑)

福原 あー。

成河 いや、まぁこれは言い方難しいけど、世界基準なわけよ、比べてるものが。ピーター・ブルックとかをボンと横に置いた時に、「君の発想は本当に陳腐だね」、みたいな(笑)

福原 へーーー。

成河 「なんで、どこかで見たことしかやれないのかねー」みたいな(笑)

福原 俺の印象では、成河はいつも、どこでも見たことないくらい飛び跳ねてたけど。

成河 だから、こっちはもうシャカリキに何でもやって、それこそ飛び跳ねて、「おっきい声出ますよー!」みたいな。「派手なこと何でもやれますよー」みたいにやってたの。で、「何なのそれは?陳腐だねぇ!」と言われ…(笑)

福原 反発したの?それとも落ち込んだの?

成河 うーん、今思えばさ、共演の深津(絵里)さんとか、笈田さんも厳しいながらも温かく支えてくれてたんだけど、サイモンっていう人は、もうほんと言い方がひどくてね(笑)

福原 落ち込んだのね。

成河 しまいにはね、「お前のそのジャージが気に入らない!」とか、「お前のその髪の毛が気に入らない!」とか、めちゃくちゃな事言い出してね。サイモンもめちゃくちゃ尖ってた時期だから。

福原 落ち込んで、どうしたの?

成河 …その日の夜に自分でチョキチョキチョキチョキチョキーって、次の日、こんなぐちゃぐちゃのツンツンになってね、「はい、髪切ってきましたー!」つって。

福原 落ち込んでないじゃん(笑)。反発してるよ!

成河 まぁサイモンも「お前、頭おかしいなー」って笑ってくれて。でも、稽古が始まったら、「違う!違う!違う!違う!違う!違う!」(笑)。「お前のことなんかどうだっていいんだ!」みたいな(笑)

福原 (笑)でも意外だな。成河は、客席で見てる分にはもう「舞台上で出来ない事はない生き物」みたいな印象で、

成河 んなこと、それは言い過ぎですよ。

福原 あとは「明らかに演出で言われてない箇所でジャンプしてるな、コイツ」みたいな印象(笑)

成河 それはだから、やっぱ野田秀樹さんに憧れて芝居を始めたし、野田秀樹さんのコピーをずっとやってたような所があるから。で、その野田さん自身も後年はロンドンに行って、自分の方法論を体系化していく訳じゃんか。でも、俺は野田さんの原始的な衝動みたいなものだけを追っかけて、自己満足的にやってた部分ていうのがあったから。…だから世界が狭かったよね。

福原 うーん、

成河 狭い中で、それでももう当時20代後半になろうっていう時期だったんだよね。

福原 なんか、そういう時にさ、…これ、あとで聞こうと思ってた事でもあるんだけど、

成河 なになに?

福原 自分で自分を打破しなきゃとか、新しい情報を手に入れたり、テクニックとか考え方を手に入れて変わっていこうっていう時に、元々大事にしてきた物と両立出来た?俺は、それまで大事にしてきたものを捨てないと、新しいものが手に入んなかったの。それで悩んじゃって。

成河 なに、この話、面白いんだけど(笑)

福原 これ、もともと成河に相談したかったことなのよ。

ーー成長すること。成長することで失うもの。
 
福原 変わろうと思ったあの若き日に、何も譲らなかったら、今頃、どうなってたんだろう、とか思うし。

成河 んー。

福原 考えたってしょうがないんだけど、

成河 めちゃめちゃ、分かる。…あの、さっきのサイモンと笈田さんの話で言うとね、2人が言ってたことは、とてもシンプルなことなんですよ。

福原 うん。

成河 「何もしないで、ただそこに居ることがなんで出来ないんだ」っていうさ。

福原 うんうん。

成河 「役者は最後消えろ、役者は最後忘れられて消えるべきなんだ」っていうのが笈田さんの持論だからね(笑)。ただそれって、つかさんの真逆なんだよ(※成河は一時期、北区つかこうへい劇団に在籍)。福ちゃんの根っこにあるものでいうと、唐さんね。

福原 うん、逆だね。

成河 我々は「特権的肉体論」を鞄の片隅に入れながらやってきたわけだから、俳優至上主義でドーンとやってきたものが、『春琴』の稽古場でヨーロッパの文化的な文脈とバーンとぶつかったって話でさ。 じゃあ、その特権的肉体論を捨てて、ヨーロッパの対話主義的なリアリズムの世界に入っていくのかって言った時にね、

福原 成河はどっちを選んだの?

成河 いや、そういう話じゃないの。だって、サイモン・マクバーニー自身がまったくのリアリズムの人間じゃなかったから。

福原 そっか。そうだよね。

成河 『春琴』でもさ、すごく東洋的な表現主義的な部分と西洋のリアリズムをどう共存させられるか、っていうことをしたかったと思うんだよね。それで俺も「どっちかだけじゃダメなんだ」って考えるようになって。

福原 うーむ…。

成河 だから、さっき福ちゃんが言ってた、「何かを捨てないと何かが入らない」っていうのは容量としてはそうなのかもしれないけど、結局のところ、「どっちも使いながら新しいものを生み出していかないといけないんだぞ」っていう。だから「どっちも主義」。それから僕はずっと「どっちも主義だね」(笑)

福原 いや、そうなんだよ。そうなんだけど、「どっちも」って言葉をさ、「バランスがいい」って言葉に置き換えるとしてね。

成河 うん。

福原 「バランスがいい」って、悪い意味でも使えるじゃない? バランスなんか崩壊してる人の方が面白いっていう価値観で生きてきたから。

成河 そうだね、わかるよ(笑)

福原 だから、「どっちも主義」でどっちも手にした瞬間に、やっぱり何かを失っている気持ちになっちゃうのよ。…ねぇ、俺、20代のうちに解決しとけよ、みたいなこと言ってる(笑)?

成河 いや、すごい面白い(笑)。あと、俺も毎日考えるよ、そんなんは本当に。

福原 (笑)

成河 まぁだから、それは「目標設定」なのかなぁと思うけど。

福原 目標は、好き放題出来る単価の高い仕事をすることです!

成河 うん(笑) 

福原 ごめん、真面目に聞く。

成河 いやさ、例えば、「人前に立つ」という意味の俳優として考えたら、いびつというか、不完全なまま存在するっていう面白さがあることはわかるの。

福原 うん。

成河 でも俳優には別の側面もあるというか、…これは高田恵篤さんが言ってたことなんだけど、「作ってる最中が面白いんであって、出来上がったら、後は誰がやったっていいんだよ」って。俺は、そんな考え方したことなかったの。

福原 えっと…、つまり「人前に立つ俳優」と「作る俳優」がいるってこと?

成河 あ、区別するとか、どっちが上とかいう話ではなくて、さらに言えば、この意見に大賛成でもないんだけど。とにかく0から1って言うけど、何かポンとビックバンのようなものを生み出すっていうことの大事さをすごく思ったんだよね。で、その「作る」作業、…クリエイションって言うとカッコつけた言葉になっちゃうけど、それが豊かになるかどうかっていうのは、そこにいる俳優に全部かかってるわけ。

福原 うんうん。

成河 で、「どっちも主義」とか「バランス」の話に戻るけど、すごくいびつで不完全で面白い俳優がいたとして、クリエイションが豊かになるのかってことがあると思うのね。

福原 えっとねぇ…。…。 

成河 今、なにを考えてるかわかるよ(笑)。日本の70年代、80年代のアングラの天才達はさ、不完全の猛者を集めてすごい作品を作ってたけどさ。

福原 そう、それがよぎった(笑)

成河 うん。でもそれはクリエイションっていう物の、ものすごく特殊な一面に過ぎなくて、それが全てではないじゃない?

福原 うんうん、なるほど。

成河 だから俳優の1つの考え方として、クリエイションに重きを置くって考えた時にね、「どっちも主義」で収まらないくらいの様々な価値観と、いい意味での「バランス」は必要だと思う。

福原 …成河先生!

成河 (笑)でもあの言葉はほんとに大きかった。「クリエイションが出来ちゃえば、そっから先は誰がやってもいいし、誰に渡してもいい」

福原 逆に言うと、クリエイションの場は…、

成河 誰でもいいわけじゃない。誰がやるかにかかってる。

福原 …怖いね。客前に立つこととは別の怖さだね。

成河 でも心底面白がれる、スゲー大事なポジションをもらってんだってことだよね、俳優は。

ーー「工場で作る演劇」と「営業する演劇」
 
福原 …今の話を、ちょっとだけ、つまんない角度で話していい?

成河 うん(笑)

福原 えっと、クリエイションをする場が大事だってなった時に、でも最後はお客さんにお披露目するわけじゃない?そのクリエイションを。

成河 そうなるね。

福原 となると逆算して、クリエイションの場に影響が出てくるじゃない。お客さんの顔色伺うっていうと言葉が悪いけど…。

成河 はいはい、商品化の話ね。

福原 あれ、もう結論が出てるのかな(笑)

成河 いやいや(笑)。要は、〝工場〟と〝営業〟っていう話だと思うのよ。で、工場(稽古場)でクリエイションしている時間が楽しいっていうのは、ま、当たり前だと思うんだよ。

福原 うん。

成河 で、もちろん工場で作ったものは営業して売るわけだよね。

福原 そうね。

成河 この営業の楽しさっていうか、自分達がクリエイションしてきた物を、舞台上で演技を通して、お客さんにプレゼンして、納得させて、買わせる、イコール、お客さんの心を動かす、っていうことのスリル、スペシャル感も俺は大事にしたいの。

福原 ゾクゾクするよね。

成河 そう。それをやらないっていう人生は俺は選ばないかな、って思う。つまり工場だけにいるつもりはない。工場のことだけ考えてはいないわけ。

福原 それがさっき「高田恵篤さんの意見に大賛成なわけじゃない」ってポロッと言った意味?

成河 そう。高田恵篤さんの言葉は、やっぱり「工場がすべてだ」ってことだから。…でも!

福原 はい。〝でも〟?

成河 現状の演劇界を見回した時に、…って偉そうな言い方になっちゃうけど、でも見回した時にね、工場がおろそかにされてる商品が8割だなぁ、っていう風には思うから、「工場を軽んじるな!」っていうことは、もう常々言いたい訳だけど(笑)

福原 今の話はさ、「お客さんのことも考えて工場で作ってます」ってことだと思うんだけど、俺、何年芝居作ってても、お客さんのことわかんないの。

成河 え?(笑)

ーーお客さんって何?
 
福原 お客さんのこと考えたいけど、なんかいっぱいいるし(笑)。それぞれ違う人格だし。

成河 そりゃそうだよ。

福原 お客さんって何?誰?

成河 どうしたどうした(笑)

福原 別の言い方をするとさ。えっと、自分の劇団ならね、まだお客さんの様子も把握出来るんだけど、なんかもう何年も毎回違うお客さんの前でやってて、

成河 はいはいはいはい。

福原 お客さんとの信頼関係を、毎回、芝居開始の0秒から作ってかなきゃいけないのね。それは当たり前のことで、劇団公演だって本当はそうなんだけど、…でももうちょっと誰もが待っててくれる場に作品を提出したい(笑)。俺がお客さんについて考えてるほどお客さんは俺のこと考えてくれないの(笑)!

成河 いやー分かるよ。今、まさしく、『冒険者(『冒険者たち 〜JOURNEY TO THE WEST〜』  上演台本・演出:長塚圭史)』で神奈川ツアーを回ってるから、マジで日々考えるよ。

福原 うん。

成河 KAAT(神奈川芸術劇場)は、そういう意味では、演劇が守られている場所だから。

福原 そうかもね。

成河 演劇を好きな人達が来てくれて、で、「喜んでくれた」とか、「こちらのやろうとしていることが伝わってるな」って感じもするし。でも今回のツアーで回る場所は「演劇見慣れてないかも」って場所も多くて、

福原 そもそもそういう場所に行くっていう企画だよね、きっと。

成河 うん、で、その見慣れていないお客さんの事を、俺らは想像して作ってるけど、やっぱり本当のところでは気持ちはわかんないんだよね(笑)

福原 そう言われるとね、他人の想いなんかわかるわけないとは思ってる。

成河 でさ、これは俺、昔から基本中の基本として、「お客さんが、一番賢い」とか「お客さんを信じることが一番誠実だ」って思ってやってきて、これからもそう思ってやるとは思うんだけど、今回の稽古場に「そんな考えだから、どんどんマニアックになっていくんだよ」っていう方がいて面白かったの。

福原 一理ある。どっちもね。

成河 そう。で、「信頼しすぎるとマニアックになるぞ!」って意見はわかるし、でも「お客さんをバカだと思って作る」って姿勢の先には、「教育」って言葉がちらつくし。

福原 テーマを教え諭すような演劇。

成河 うん。

福原 今、いみじくも「どっちも一理ある」って自分で言ったんだけどさ、まぁいろんな考え方があって、それぞれの考え方の〝程度〟もあるじゃない?そうなるともう無限というか、何に寄り添っていけばいいのかわからなくならない?

成河 福ちゃん。俺はそれを「多様性の罠」と呼んでるんだよ。

福原 俺が今、入り込んだ袋小路に、成河がすでに名前をつけていた(笑)!先生(笑)!

成河 (笑)どんな角度から見ても、物事は全部、裏っ返るし。裏っ返ったものもさらに裏返るし。だから結局、「どんなお客さんなんだろう」って想像すること自体が、なんか…、そんなに先のあることじゃねーのかもしれない、って最近は思うようになってます。こっちが楽しくやるしかねぇだろうな、ていう。

福原 そうか…。楽しくやるの苦手なんだよな。

成河 でも、楽しくやっている所に人は集まってくるよ。

福原 …俺、今の話で納得したつもりでいるんだけど、これ読んでる人で納得してない人もいると思うから、あえて聞いてみたいんだけどさ。

成河 粘るね(笑)

福原 楽しくやってるとさ、内輪ノリみたいにならないのかな?

成河 …うーんと、ならない。条件付きで。

福原 条件付き?

成河 あの、そもそもさ、俺達がクリエイションした〝世界〟って、作った人にしかわからないものだと思うの。いや、わかるとかわからないとか、間口が広いとか狭いとかの観点で語る意味がないものだと思うんだよね。だって、作った人が「こういうもの」って定義したら、それがもうその世界の全てだから。

福原 うん。

成河 で、「全てです」って言ってるだけだと内輪ノリになっちゃうから、その〝世界〟を手にさ、いろんな人のところへぶつかりにいくの。何が起こるかわからない危険な場所に飛び込んでいく。それをしていれば内輪ノリにはならないと思う。

福原 …つまり、俺は今まで、自分で作った世界にどんな港を作って旅行客を招き入れようかとか、どんな観光施設を建設して楽しんでもらおうかとか、作った世界の形を変えることで、内輪ノリにならないようにしてたんだけど…、

成河 いや、自分が想像した世界には忠実でいいんだよ。でも否定されるかもしれないって思いながら忠実でいる。

福原 そして自分の世界ごと、他所の世界へ会いにいく?

成河 そう。それって「出会いのツールになる」という事だよね。否定してくる人もいるだろうけど、それも一種の出会いだしさ。

ーー否定されると涙がでちゃう
 
福原 あの…、もうひとつ。とてもいいお話だったんですが、私、否定してくる人と会うと疲れちゃうんですけど。

成河 (爆笑)

福原 泣きそうにもなる。

成河 んー…(笑)

福原 どうしたらいいですか?

成河 えー(笑)。もういいんじゃない、それで。福ちゃんの芝居にはそういう人間性がいつも感じられて、そういうところが面白いと思ってるし。

福原 …腑に落ちない。

成河 (笑)

福原 あ、でも自分でいっこ、思い出したことがある。

成河 なになに?

福原 昔、(菅原)永二さんが俺の芝居を見に来てくれた時にさ、俺の方から「ポジティブな評判もあって、でもネガティブな評判もあるんです」みたいな話をして。「幕開いてるし、今から修正する時間も限られてるし、どうしたらいいでしょう?」って聞いたのね。

成河 面倒くさい質問(笑)

福原 うん。その時に永二さんに言われたのは「福ちゃん、暇だね」ってこと。

成河 ん?

福原 「お芝居って年に多くても数本しかできないから、否定的な人のこと気にしてる暇なくない?」って。「自分のこと褒めてくれる人の為にやるだけで忙しいだろ」って。

成河 (笑)

福原 永二さんがさらにさ、「まだ俺の芝居みたことない人の中に、俺のこと褒めてくれる人がいるかもしれないから、まずその人達、全員に俺の芝居を見てもらいたい」って言ったのね。

成河 あー、いい事言うね、永二さん。

福原 「俺は〝今、褒めてくれる人〟と〝将来褒めてくれる人〟の為に芝居をやる!」って。まぁ永二さん、泥酔してたから、こんなところで書いちゃうと「覚えがない!」って怒られる可能性もあるけど。でもそれを聞いた時に、「自分の味方のために芝居すんの?内輪ノリじゃん!」とか思っても良さそうじゃん。

成河 うん。

福原 でもなぜか思わなかったの。なんで?俺も酔ってたから?

成河 いや、だから永二さんの言葉の中で一番いいなぁと思ったのは、「俺のこと褒めてくれる人がいるかもしれない」ってところじゃない?可能性の話をしてるわけで。

福原 うん。

成河 「まだ会ったことのない人に会いに行く」って事はさ。内側に向いてないんだよ。

福原 〝出会いのツール〟か!​

成河 そう。で、当然、出向いた先でさ、傷つくこともあるんだよ。

福原 否定するお客さんにも出会っちゃうよね。

成河 もちろんだよ。ただ、永二さんは傷を負いながらも、まだ見ぬ〝自分を褒めてくれる人〟と出会うために、また立ち上がって旅を続けるんだよ(笑)

福原 壮大な「褒められ」旅だな。大冒険だ。

成河 だから、色んなところにガンガンガンガンガンガン行ってさ、会ったことない人に会うエネルギー、っていうのを、どう絶やさないか、つう事じゃない?

ーー宝塚に、俺はでる!
 
福原 いやぁいい話聞けたな。申し訳ないな、俺が聞くばかりで。怒ってる?

成河 なんで(笑)。楽しいよ。

福原 …成河はなんだかんだで俺に優しいというか、一緒に芝居を作ったのはさっき言った『人間フィルハーモニー』が最初で、次が去年のIMY('21年 『あくと』 演出・成河。福原が脚本を担当)じゃん。

成河 15年、空いてる。

福原 でもその間も、俺の芝居を毎回じゃないけど、1年半に1本とか見に来てくれるじゃない?

成河 俺は行くよー。

福原 でも、いつも思うのはさ、俺がいつもすごくこう…、迷いながら作ってるものをどう思ってるんだろうって。

成河 どうって?

福原 俺は勝手なイメージでさ、成河は芯のある人っていうか、自分の信念に基づいて突っ走ってる人っていう風に思ってるから、そういう人が俺の作品を観て、「なに、ウジウジやってんだよ」とかイライラしてるんじゃないかと…。

成河 (大爆笑)やばいね、結構、褒めた感想言ってきたと思うけど、全く信用してなかったんだ(笑)

福原 そういうわけじゃないけど。

成河 最高っすね。いやでもいいじゃん。それが福ちゃんだよ。それこそ福ちゃんすよ。

福原 …。

成河 そういう世の中に対する疑いのまなざしが作品からいつもするから(笑)。それが信じられるところだよ。

福原 (苦笑)

成河 思考停止で無条件になにかを信じたり、信じさせられたりしてる人の作品じゃないから観たいなって思うし、自分のメンテナンスの意味でも、観に行ったりするよね。やっぱり大事じゃん。世を疑う姿勢さは(笑)

福原 今、メンテナンスって言葉を使ってくれたけど、俺も成河の芝居を見に行く時は、なんかそういうのがあって、

成河 有難いけど、俺の芝居がメンテナンスになる?

福原 だって、どの企画、どの芝居でも、そこでやらなきゃいけない事を全部やった上で、プラスが確実にあるでしょ。

成河 いやー、それは嬉しいね、なるほどね。

福原 やらなきゃいけない事やらないで、自分のやりたい事やってる役者は結構いるけどね。

成河 なるほどなるほど。

福原 新感線の豊洲のぐるぐる劇場('17年 『髑髏城の七人』Season花@IHIステージアラウンド東京)の時の成河もさ、​​​​​​

成河 あ、すごい褒めてくれたよね、覚えてるよ。

福原 あれは色んなことを成立させなきゃいけない企画だったじゃない。役作りとか、作品のクオリティとかだけじゃない、劇場に対する期待とか…、ただのこけら落としじゃないしね。あそこから延々新感線が果たさなきゃいけない責任(Season花を皮切りに1年3ヶ月に渡るロングラン公演)のスタートなわけで、そういうことまで全部引き受けた上で、プラス、役に〝成河〟の人間性が乗っかってるっていう、

成河 おぁー!それは有難い。

福原 感動したよね。人として強いっていうか。〝全部のせ〟みたいな。

成河 いやいやいやいやいや、嬉しいけど。でも、それで言うと、根っこに悔しさがあって、全部求めちゃうんだよね。

福原 「悔しさ」?

成河 …これ、しょっちゅう喋っちゃう事なんだけど、演劇始めた時にさ、駒場で始めたからすぐ近くで、平田オリザさんがブイブイいわせてる訳よ。

福原 アゴラ(駒場アゴラ劇場)でね。

成河 で、やっぱ面白い訳。『上野動物園再々々襲撃』とか、もう何回も行って、毎回泣いてんのよ、俺。で、その後、花園神社行って唐組見て、本多行って大人計画見て、宝塚も見てってさ。それ全部好きなんだよ。

福原 うんうん。

成河 でも、全部好きで役者やりたいと思ったのにさ、アゴラの人は花園神社に出れないじゃない。宝塚の人も、青年団出れないじゃん。

福原 出れないルールがあるわけじゃないけど、まぁ現実味ないよね。

成河 それが俺はずっと納得いってなくて、「ちきしょう、全部やりてぇなぁ」って悔しくて。だから「いつか絶対、全部出てやるからな!」って思って突っ走ってきて。その思いは今でもある。ずっと貫いてる。

福原 …つまり成河の初期衝動は、宝塚出るまで満たされないわけだね。

成河 (大爆笑)そうだね。

福原 じゃあもう、死ぬまで満たされないわけだ。

成河 いやいやなに言ってんの!? 死ぬ前に出るよ、絶対!80歳くらいまでにはさ、宝塚としてやらなきゃいけない様式からなにから全て満たしてさ、出るよ!出てやるよ!出てくださいって言わせるよ!

福原 …ごめん、成河、カッコいい!

成河 (笑)単なる欲張りだけど。だって出たいんだもん(笑)

福原 いや、成河を知ってる人ならさ、これ冗談じゃないってわかると思うしさ。俺、もう今から興奮してきたし、泣きそうだよ(笑)。マジで実現すると思ってるし、思わせてくれる役者だし、成河は。

成河 (笑)

福原 …俺ももうちょっとウジウジしないで頑張るよ。

成河 それはまぁいいんだけど、面白いから。

福原 いやでもさっき成河がさ、〝作った人が「こういうもの」って定義したら、それがもうその世界の全てだから〟って言ったけど、今の俺の悩みもね、俺が勝手に〝悩み〟って定義して、勝手に悩んでるものだからね。まぁそれも俺の世界として尊重するけど、内側に向かずに…、

成河 出会いのツールとしてね。

福原 ちょうどさ、スリーピルバーグスって劇団でツアーに行くわけでさ、こういうウジウジを作品にして、まだ見ぬ人と出会いに行くよ。

成河 おぉ、うまく宣伝につなげた(笑)

福原 でも会いに行くって言っても、お客さんの家に直接行くわけにも行かないしさ、お客さんの方でも少し歩み寄って会いに来て欲しいですね、会場まで。

成河 本当に宣伝だ(笑)

福原 東京、札幌、中富良野の三箇所ツアー、チケットは3月8日、発売開始です!

成河 (笑)

<おしまい>

5週にわたり、鼎談&対談シリーズをお届けいたしました。読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
本日3月8日(火)より、『旅と渓谷』のチケットが発売開始となりました!!
ぜひぜひ、東京で、札幌で、中富良野で、お待ちしております。

スリーピルバーグス『旅と渓谷』H P
https://3pielbergs.wixsite.com/3333


そして、来週、3月15日(火)もnote更新します!
劇団員の三土が、もうすぐ開始するスリーピルバーグス『旅と渓谷』のお稽古に向けて、ひとりなにやら動きだしたようで……、おたのしみに!!

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