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NHKの出口調査-いったい何がしたいの? どうにか出来るのは、どこの誰?

 私は2019年7月19日、つまり2019年参議院選挙の前々日に期日前投票を行ったのだが、その時、NHKの出口調査に協力した。生まれて初めてだ。

 選挙当日の投票所を出た時、複数のメディアの出口調査が待ち構えていたことは、もちろん何回もある。しかし、私には声をかけてこない。車椅子に乗っている「いかにもマイノリティ」という人物の選択を聞き取ってしまうと、選挙速報の精度を下げることになるかもしれないからかもしれない。イマドキの当落の判定に、マイノリティ1人で結果がひっくり返るようなヤワな方法は使われていないだろうけど。
 とにかく私は生まれて初めて、出口調査に応じることになった。

 私は、調査員の持っているタブレットを渡され、指先でタッチして回答した。調査員は、一応、タブレットの手元は見ないようにしていた(そういうインストラクションがされているのかも)。しかし回答しながら、私の頭の中では「ん? これでいいの?」という脳内ツッコミが止まらないのだった。
 以下、記憶に頼って質問内容を再現し、ツッコんでみる。

性別
「男性」「女性」の二択だった。
 質問しないわけにはいかないだろうけれど、イマドキ「その他」「回答しない」という選択肢がないのは、なぜなんだ?

年齢
「18~20歳」の他は、5歳区切りだった気がする。よく覚えていない。
 高齢側がどのような区切りになっていたか、上限が何歳だったか、ちゃんと見てくればよかった。

投票での選択
 選挙区では投票した候補者、比例区では投票した政党(または候補者)を回答する。回答は番号で行う。番号のコード表は調査員が持っているので、それを見ながら番号を入力する。
 謎が残ったのはここだった。私の記憶が正しければだが、「え? そう行くの?」というコーディング(番号付け)が行われていたからだ。
 選挙区の候補者は、政党名や会派名とともに個人名が書かれており、個人名に番号が付されていた。これは、まあ、わかる。
 比例区の場合、政党名にそれぞれ番号が付されていた(たとえば 自民党は「1000」のように)。これも、まあ、分かる。それとは別に、候補者の個人名に番号が付されていた。その番号は、はっきり覚えていないが、おそらく名簿順だった。
 参院選の場合、「選挙区と比例区の両方に同じ候補者が」という重複立候補はない(衆院選はある)。だから、「A党のB候補者の番号が、選挙区と比例区で2つある」ということにはならない。しかし、番号の付け方が衆院選でも同様ならば、「A党のB候補者の番号が、選挙区と比例区で2つある」ということになる。
 それでも問題はないのかもしれない。選挙区と比例区の得票は、基本的には別モノだ。衆院選では時おり、選挙区で落選した候補者の「敗者復活」が話題になるけれども、「A党のB候補者の選挙区での得票を比例区での得票見込みに加える」というような単純な計算がされているわけではない。むしろ、基本的には別モノの得票を別モノとして扱うためには、「A党のB候補者(選挙区)」と「A党のB候補者(比例区)」は別の番号として集計する方が間違いにくいのかもしれない。
 いずれにしても、「なぜ、こうするのか?」が明快に理解できないコーディングだった。
 そもそも、なぜ、「コード表を見る→それを1桁ずつ入力する(「21」なら「2」と「1」のように)」という手間をかけさせるのか。番号の見間違いと入力で(しかも桁ごとに)、入力者のミスによる誤りが、3回起こりうるではないか。候補者名や政党名をタブレットに並べておき、「その人」「その政党」の名前をタップさせれば済むことではないのか。「いやNHKだから操作するんでしょ」と疑われている可能性を警戒するのであれば、集計時のコードを候補者名と政党名と一緒に表示させておけば済む話ではないのか? 
 いろいろと、モヤっとした。

その他の質問
 実はこれが最大のモヤモヤ、というかムカムカの原因となっている。
 内容は、「改憲について(賛成・反対・どちらでもない)」「今年10月から消費税を8%から10%に上げることについて(賛成・反対・どちらでもない)」、そして「最近報道された『老後のために自己資金2000万円が必要』という話題は、あなたの選択に影響を与えたか(与えた・与えなかった・どちらでもない)」という内容だったと記憶している。
 改憲と消費税についての意見を問われるのは、まあ、理解できなくはない。改憲は長年の論点の一つだ。消費税についても、既に決定はされており、いつ・どのように実施するかが焦点化されている。
 でも、「老後の自己資金2000万円」が、なぜ、ここで出てくるわけ? 「選挙対策として報道しました(政府は、タイミングを図ってリークしました)。その効果を知りたいんです!」と、わざわざ公言しているのと同じことじゃないの? それに、どれも簡単な択一で答えられる内容じゃないはずだ。

 まず改憲については「するかしないか」ではなく、「どの改憲案なら支持できるか、それとも改憲自体に反対か」を質問すべきではないのか。自民党以外は改憲案を提示していないけれど、「改憲自体は無条件に悪とは思ってないけど、自民党改憲案は……ちょっと……?」という有権者もいるはずだ。改憲についての「賛成」という回答は、「自民党改憲案に賛成、かつ改憲に賛成」「自民党改憲案には賛成しないけど、改憲自体はアリだと思う」の両方を含みうる。改憲についての「反対」という回答は、「自民党改憲案に反対、かつ改憲自体はアリだと思う」「自民党改憲案に反対、かつ改憲そのものに反対」の両方を含みうる。どれなのかハッキリする形で回答を得て集計してくれないと、シャレにならない。もう少しハッキリ言うと、「自民党改憲案での改憲を支持する有権者比率が、過大に評価されるかもしれない」という危惧を抱いた。

 消費増税についての質問には、消費税に対する有権者の意見を質問したいのではなく、「今年10月の消費増税の予定」が自公政権の支持を揺さぶる可能性の程度を見たいんだろうなあと、ゲスの勘ぐりをしている。もしも消費税率に対する意見を知りたいのなら、「消費税率は何%であるべきでしょうか?」という質問項目があり、スライダーで数値を入力できるようになっているはずではないのか。負の消費税率だってアリだ。「-200%」の消費税率、すなわち「1万円の買い物をしたら2万円戻ってくる」というのなら、消費意欲は喚起されまくり、だろう。

 老後のための自己資金2000万円が、選挙での選択に響いたかどうかって? それを、NHKが質問するの? それは「私たちは、選挙の結果をコントロールするために報道しています」と宣言しているのも同然じゃないの? そこまで開き直ってるの? ……NHKは一枚岩じゃない。数千人の番組製作担当者がいる。私は、自分が直接知っている、ハートと志と能力を持ち合わせた何人かのディレクターのために、この質問に内心、ハラワタを煮えたぎらせた。ちょっとだけ「撹乱回答しちゃおうかな」と考えた。結局、「その報道によって影響は受けなかった」という内容の選択肢を選んだ。実際にそうであったけれども、「そんなアケスケな操作に影響されてたまるか! 人をバカにするな!」という意見表明でもある。

じゃ、誰がどう調査すればいいんだ?
 いろいろと問題は感じるのだがが、出口調査自体を禁止したら、さらにマズいことになるはずだ。出口調査がなくなったら、開票後に示される結果の妥当性をチェックできなくなるかもしれない。それに「NHKだからダメ」というわけでもない。どこが実施しても、「完全に問題がない」と言える調査は無理だろうと思う。
 しかし、出口調査の内容自体のチェックや比較は出来ないものだろうか。少なくとも、のっけからセクシャル・マイノリティを悲しませる「性別」の質問は、ちょっと、アレすぎるんじゃないか? セクシャル・マイノリティが怒ってタブレットをぶん投げる事件が発生しても、少しもおかしくない。

ここは、学術機関の出番かもしれない
 たとえば質問事項のガイドラインを作成し、そのガイドラインに沿った質問の選択肢を用意し、メディア各社には、それらから選んでもらったり、それらを参考に調査項目を作ったりしてもらうという方法は、どうだろうか。
 性別を質問し、しかも「男」「女」のどちらかから選択させることは、それ自体が人権問題を引き起こす。今、戸籍と住民票では、誰もが「男」「女」のどちらかに当てはめられるわけなのだけど、それ自体が問題を含んでいる。
 調査の方法や集計結果についても、たとえばタブレットで行うのなら、どうすれば数多くの有権者にとって操作しやすくなるのか、もう少し検討されてほしい。使い勝手のよいアプリを開発してきた実績のある、まっとうなICT企業に外注する資金くらい、大手メディアなら持っているだろう。とはいえ、いちいちゼロから作り上げる必要があるものとも思えない。候補者や政党のコーディングとともに、アプリのプロトタイプが用意されており、メディア各社はそれを使ったり改良したりするわけにはいかないのだろうか。
 最も危惧されるのは、実際に投票した候補者や政党と政治的意見の関係が、セットで取得されていることだ。勢力の弱い政党や会派を効率的に叩き潰す報道を行うために利用される可能性だって、「ない」とは言えない。これは、よりによって大手メディアが、出口調査で行うべきことなのだろうか? 出口調査で質問することが好ましくない質問内容は、どのようなものだろうか? 理由をセットにしたNG質問集があれば、「じゃ、どうしろっていうんだよ!?」というメディアの中の人の悲鳴も上がりにくくなるだろう。「それでも、やれ」という”上”のゴリ押しも、通りにくくなるかもしれない。

 以上のような「選挙調査の準備」を行う機関として、最もふさわしいのは、大学や研究機関をはじめとする学術機関ではないかと思う。というのは、学術研究は一応、政治から独立していることが求められるからだ。「そんなのタエマエだけだろ」と言われたら、そうかもしれない。しかし、大学や研究機関は、タテマエやキレイゴトの実行を、その他の場よりは強く期待されている。もちろん、期待に沿っているとは限らない。それは、大学や研究機関を舞台とした数々の事件で実証済みだ。だから、「ちゃんとやれよ!」と見守って励ます数多くの人々が必要だ。それは、すべての人々と社会と、大学や研究機関自身を守る力になるのではないだろうか。

 互いに期待して当たり前、互いに期待に応えられてナンボ(もちろんNHKさんも、ね)。そんな社会に少しずつ向かっていくために、何かできることはないかなあ? 一緒に考えてくれる人が増えたら、出来るかもしれない。そんなふうに無理やり「ポジ抜け」させて、本記事を締めくくる。

ノンフィクション中心のフリーランスライターです。サポートは、取材・調査費用に充てさせていただきます。