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NEVERTHELESS 全曲レビュー

もう桜も見頃が終わり始める4月のある土曜日、我が盟友のPGことノリボーンからTape Me Wonderの新作「NEVERTHELESS」が我が家に届いた。小綺麗にパッケージされた郵送袋の中にはCDの他にノリボーン自筆の手紙が入っていて、この新作が僕たちの関係性の中でちょっとした出来事であるのを思わせるメッセージがしたためてあった。PGとの付き合いも何年になるんだっけ?彼と僕との間にある幾つかの印象的なシーンを思い起こしながら、CDのパッケージを開封し、iMacのディスクスロットにCDを取り込んだ。

スピーカーから音が流れ出し、新しいTAPESの音楽に耳を傾ける。何曲かはLIVEでも聴いた事のあるフレーズやメロディだけど、聴き込んでいくうちに僕は久しぶりに「アルバム」という作品単位で好きなアーティストの音楽を手にいれたという実感を持つ事が出来た。ここ最近はApple Musicを始めとするストリーミング配信で楽曲をアーカイブする傾向が多く、アルバム単位で作品を聞き込む機会がかなり少なくなってきている。学生の頃なんかは1枚のアルバムを何度もリピートし、ライナーノーツや関連記事を読みながらその作品を理解する、なんて聞き方をしていたもんだけど、良くも悪くもそうした能動的な鑑賞手段はとらなくなっていた。

音楽との向かい合い方は人それぞれだし、ここでそれを書いても意味が無いのは理解しているけど、例えば僕とPGの関係性がある前提で「NEVERTHELESS」を評価するのと、彼等を知らない方が初めて「NEVERTHLEESS」を聴くのでは当然捉え方が違うと思う。ただ少なくとも、PGって人間を知っている僕が「TAPESの曲のどの辺に琴線が触れたか?」みたいな感想はこれからこのアルバムを聴く人に対して、何かしらの参考にはなるのかもしれない。

だから僕はおそらく人生で初めて、誰かの作品の全曲レビューなんて事をやってみようと思った。それが何か意味をなすかどうかは別として。それでも(NEVERTHELESS,)このアルバムはクラフトビールでも飲みながら、何か語りたくなってしまう名盤なんだと思う。

2016年4月10日 葉桜を眺めながら。 Ryuhei Ohnuki aka.3syk


TAPE ME WONDER/NEVERTHELESS - livedoor Blog
http://blog.livedoor.jp/noribooooone/archives/1842054.html

「EVEN」
スケールの大きなスローナンバー。波が押し寄せる様に「愛想つかさないで、愛を諦めないで」というフレーズがじんわり染みる。アルバムのオープニングに相応しい壮大な楽曲展開と、TAPESが持っている世界観が集約された1曲。

「MARSHMALLOW」
PGらしい軽快なメロディとホーンアレンジがお洒落。「最高じゃん、最高の人生」、「LIFE IS BEAUTIFUL」って、そう信じさせてくれる3分54秒。

「LIVE PARANOIA」
真夜中の青梅街道や早稲田通りをこんなガレージロックで上手く聴かせる曲を僕は知らない。

「HAPPINESS」
アコギと唸るベース、そしてホーンのセクションが奏でる切なさ満点のソウルロック。阿佐ヶ谷からバンコクを行ったりきたりする視点が世界観を広げてくれるから、僕らは何処にだって行けるって気にさせてくれる。

「太陽と北風男」
PGって人は昔から言葉の発音をとっても大事にしてる人で、奏でるメロディに本当に上手く言葉を合わせてくる。例えば、「ゆびきりげんまん」とかね。

「STAGE FLIGHT」
TAPESの疾走感が凝縮されたナンバー。例えば僕たちは10代や20代の頃に染み付いたリズム感やテンポ感に時に縛られ、時に鼓舞される訳なんですけど、そのお陰で同時代に生きてる事も気付けたりする。ブレイクやドライヴがいちいちしっくりくるから、こういうの本当に大好き。

「敗北の日」
いつだったかPGと酒飲んでて、バンドが何故素晴らしいか?という話になった。PGが何度も繰り返してたのは「バンドは切ない、だから美しい。」このフレーズはその後も折に触れて登場するんだけど、PGがそのキャリアの中で、自身のバンドやシーンに登場しては去っていった幾つものバンドを見続けてきたからこその言葉だと思う。「敗北の日」は一人称と三人称の視点が絶妙にクロスしながら、そういう切なさを奏でてる。

「MUFFLER」
メロディが素敵すぎて思わずリピートしてしまった。この2つの声のハーモニーはTAPESの強烈な武器だと思う。マフラー首に巻いて夜空を見上げ、そこに星がある。缶コーヒーを飲みながら。次の冬はきっとこの曲をヘッドホンで聴いてる事でしょう。色んな意味でズルい曲。

「NEVERTHELESS」
サイケデリックでオルタナティブな僕らの中にある90年代は今も形を変えながら進化してる。じわじわくる。

「LEAD SINGER」
フィジカルな楽曲に恐ろしく計算されたハーモニー。こういうの聴かされると、やっぱりある程度のキャリアがないと作れない作品ってあるなぁ、って感心する。そして歌詞が本当に素晴らしい。この世界に生まれてきた子供への想いやメッセージを、嫉妬するレベルの歌詞に昇華してる。

「CHAIN SAW」
僕たちは幾つになっても、「自分が何処に立っていて、何をしていて、何を見ているか?」を気にする生き物なんですけど、自己肯定をする為には過去の自分、更には目の前の世界に対しても相対化をしないといけない。これは結構しんどい作業で、なかなか出来るもんじゃない。でも前に進む為には、その力を振り絞ってチェーンソーで現状を切り裂いてかないといけない。そうか、これは僕たちのanthemだったんだね。

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