挫折

私のこれまでの人生はあまり波がなかった。
受験も希望のところに受かった。
中学受験はノリで受けて落ちたけれど。
高校も希望するところになんとか行けた。
高校では勉強を頑張って大学受験は推薦で合格した。
友人は私のことを「安定してるね」と言っていた。
その言葉がちょっと嫌だった。
変化がないと言われているようで嫌だった。
安定なんてしてないのに。
でも外野からはそう見えていたのだろう。

人生で初めての挫折は大学生の頃だった。
座学では単位を落としたことがなかった私が、実習で単位を落とした。
たった2週間の実習、それが出来なかった。
毎日莫大な量のレポートに追われ睡眠時間はなく、それに加えて次の日のための予習・復習。
症例発表の前日などは原稿の準備。
気が休まる時間なんて1秒もなかった。
病棟に行くのが怖くなった。行けなくなった。
実習停止を告げられ、みんなが出来ていることが出来ない私はだめなんだ。
向いてないんだ、もう学校を辞めようとまで考えた。
泣きながら友人に電話したり、泣きながら先生と話したりした。
初めて心療内科にも通った。
ああ、私はこんなにも脆く、できない人間だったのかと初めて気付いた。
取れなかった単位の実習は4年生のときに一つ下の学年と一緒に実習に行った。
1年長く勉強しているにも関わらず、これまで彼女たちよりも多く実習を経験してきたはずなのに私なんかより全然出来が良く、楽しそうに実習している彼女たちを見てさらに心が廃れた。
ごまかしながら、周りに助けられながらなんとか実習の単位は取れたが、私が看護師としてこれからやっていく自信はここでマイナスになった。

卒業後の進路について面談があったときに、あなたは大学院へ進学した方が良いのではないかと言われた。
私には「あなたに臨床は無理」というように聞こえた。
私はたぶんそこで意固地になってしまい、臨床に行くことに決めた。
今考えるとそっちの選択肢の方が良かったのかもしれない。

私は大学病院の看護師になった。
看護師の名札を付けてナース服を着て働いている私は、これまで色々あったけどみんなと同じスタートラインに立てたと思った。
頑張ろうと思った。
実際、頑張った。
でも、だんだん頑張るのが辛くなってきた。
同期は先輩とも仲良く、そして色々なことを経験し進んでいるのに対し、私は上手く先輩とも関われず、実技もなにも成長出来ていないと比べるようになってしまった。
それに加え、匿名で名指しで外部から身に覚えのないクレームまできた。
病棟で泣く回数が増え、眠れなくなった。
ある時、もう無理だと思って病棟に行けなくなった。
そこから私は仕事を休んだ。仕事を始めてまだ半年だった。
産業医との面談、心療内科への通院、その報告の電話、の繰り返し。
それもストレスだった。
心療内科では症状の改善がないと思われ、どんどん薬を増やされた。
私はその薬の量を見るたびに、私ってこんなに悪いんだと笑ってしまいそうになっていた。
睡眠薬を飲んで眠りにつくときに、このまま朝が来なければいいのに、目が覚めなければいいのにと毎日思いながら薬で眠らされていた。
朝目が覚めて、また何もない一日が始まる絶望感。
その絶望感の中に何か一つでも小さな光があれば、私は戻ることができたのかもしれない。
結局半年の病休を経て、そのまま退職した。
人生2度目の大きな挫折だった。

次の職場では3年勤めることができた。
続かなかった私が3年も看護師として働けたことは大きな成長だと思う。
ただ、大学病院など教育体制がしっかりしているところで働いている同級生たちとは圧倒的な知識・経験・技術の差が開いてしまい、それを考えるとまたどうしようもなく打ちひしがれていた。
このままここで何の成長もなく、ただ理不尽さの中で仕事するのは精神的にも体力的にも限界に近付いており、退職した。

保健師として仕事を探している今、挫折の真っただ中にいる。
一つ面接を受けたのだが、遠回しに「あなたには無理」と言われているようだった。
分かっている。
私には無理なんだ。
向いてないのだけれど、私には選択肢が少ないのだ。
きっと落ちているだろうが、もう一つ面接が控えている。
もうやる気が削がれてしまったが、受けるしかない。
そしてまた挫折するのだろう。

大人になってからの挫折に対する回復力を持ち合わせていない私は、ただただ自分自身を蔑むしかない。
私を羨んでいた友人たちよ、私は全く安定していないぞ
私は今あなたたちを羨み、そして妬んでいる

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