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少しだけ未来の話~マジカルミライ10thライブ感想~

夢が、まだ“夢”が愛せるなら
間近に在る、ハジマリはずっとずっと
魔法を信じていた

マジカルミライ 10th Anniversary テーマソング『フューチャー・イヴ』
sasakure.UK feat.初音ミク

ハジマリがあれば、終わりもいつか必ずやってくる。

人々が"夢"を愛せなくなったとき、魔法は解けてしまうんだろうか。

それとも、魔法が解けてしまう方が先だろうか。

どんな"少しだけ未来の話"が現実になったとしても、人々は"今"と同じように、こうしてどこかに集っているだろうかー



初音ミクたちの"今"を体感できるイベント『マジカルミライ』。10回目の節目を迎えた今回は10th Anniversaryと題され、久しぶりの夏開催となった。

私は3年目の参加で、今年は初めて大阪会場にも足を運んだ。節目ということもありマジカルミライや初音ミクの歴史を振り返る要素が強かった今回だが、ついに初音ミクが設定年齢に追い付く来年や、さらにその先のミライを示唆するようなポイントも垣間見えた。そうした部分を軸にしながら、私が参加した大阪初日と東京最終日のライブについて感想を書いていく。

■"公式"初音ミクの決意

開演前から景色に違和感があった。ミクたちキャラクターが投影される横長いディラッドスクリーンが見えない。かわりに見えているのは巨大な紗幕。去年の演出で使われたものの賛否両論だったアレだ。
ここからどうライブ本編を始めるのかと思いきや、その紗幕にオープニング映像が流れて最後にロゴマークがデデーンと表示された直後、なんと紗幕がバサッと下に落ちて見慣れたいつものスクリーンが現れた。会場が少しどよめく。なるほど、去年の結果を踏まえると確かにこれが最適な使い方だ。

ミクがどえらいジャンプ力でステージに現れ観客に手拍子を煽る。1曲目はマジカルミライ2014のテーマソングなのにいろいろあって今日まで演奏されなかった「ネクストネスト」が悲願の初お披露目!
ついに今年もマジカルミライが始まったことを実感して気分が高まる一方、同時にそれは終わりに向けて時が進んでいることでもあり、早くも寂しさを覚える情緒不安定人間がここに存在していた。

2曲目「ヴァンパイア」は2020年から恒例のR3(リアルタイム3DCGコントロールシステム)によるAR合成映像がサイドスクリーンに映し出され、キャラクターの動きに合わせてカメラも動くなど演出もさらに進化していた。


今年もコロナ対策で発声は禁止だが、多少のどよめきが起きちゃうのは仕方ない。歴代テーマソングを全て披露することは分かっていたけれど、2019年のテーマソング「ブレス・ユア・ブレス」をまだMCすら挟んでない3曲目にぶち込んでくるとは思わないって。

マジカルミライが始まった2013年ごろのボカロシーンを自分はよく知らないけど、たぶん最初のブームが落ち着いてファンもクリエイターも初音ミク自身も…もとい「公式としての初音ミク」をプロデュースするクリプトン社の方々も将来を模索していた時期だろう。まさにネクストネストの「終わらない居場所探し」である。
そして数年後、人間と対等な存在になってしまった初音ミクにクリエイターが別れを告げる様を描いたブレス・ユア・ブレスだが、ステージに立つ"公式"初音ミクが「それぞれ歩き出すんだ さあ、ミライへ」という言葉を放つことには別の重みを感じる。
この2曲を序盤に続けて演奏したのは、マジカルミライ10回目、初音ミク発売から15年の節目を迎えた今年、"公式"初音ミクも自身を模索してきたこれまでに別れを告げて、確立した"バーチャル・シンガー"初音ミクのポジションを突き進んでゆくという決意表明だったのかもしれない。

以上、今適当にひねり出した考察です。
ライブ中は私をこの世界へと誘った全てのきっかけと言っても過言ではないブレス・ユア・ブレスを聴けたことがただただ嬉しくてそれ以外のことを考える余裕などなかった。

■愛の恩返し

ミクが最初のMCを終えると再び初披露曲のターンが始まる。
まずは鏡音リン・レンがステージ上で喧嘩をおっぱじめる「おこちゃま戦争」。新モデルだからといって必ずAR合成が出せるわけじゃないんだね。ちょっと残念。
そして体温30000℃のMEIKOが会場を真っ赤に染め上げた「私の恋はヘルファイア」、導入部のアレンジが加えられたKAITOの「FLASH」、原曲MVに忠実な演出が印象的な鏡音レン「#心がどっか寂しいんだ」、クラップと派手な演出でブチ上がる鏡音リン「天才ロック」と続いた。
おや、ルカさんの姿が…

再びミクが登場すると「砂の惑星」「39みゅーじっく!」「初音天地開闢神話」と歴代テーマ曲を続けて披露。早くもクライマックスのようなセトリだが、まだまだここからが本番と言わんばかりに、次の3曲は過去の公演を彩ってきた複数キャラが登場する楽曲の日替わりコーナー。個人的には昔の定番曲「shake it!」と「どりーみんちゅちゅ」を聴けて感無量だった。


会場が濃いピンクの照明に包まれる。
過去2年のマジカルミライはしっとりバラード枠を任されてきた巡音ルカ。私はその姿しか知らない。だからこそ今年のルカ枠「Someday’z Coming」は何と言うか…狂う。

私事だが最近ツイッターを始めた。そしてこの曲を作った書店太郎さんが想像を遥かに上回る限界ルカ廃だったことを知った。

彼はこう言った。「巡音ルカを信じろ、俺は信じてる

存在しない相手への愛。オタク文化の理解が広まった現代でもそれをあざ笑う者は大勢いるだろう。しかしその愛を信じて表現し続ければ、こんな「恩返し」をしてもらえるかもしれない場所、それがマジカルミライ。真髄を目の当たりにした。

■少しだけ未来の話

17曲目の楽曲コンテストグランプリ受賞曲「Loading Memories」は演出面で新たな試みが行われた。サイドスクリーンのミクは舞台とは別の空間にいて、曲の進行とともに周囲の花畑が色づき幻想的な光景が広がってゆく。ただ逆にメインステージが暗黒のままなのが寂しいかも…

次はお待ちかねのバンドメンバー紹介。年々皆さんをしっかりフィーチャーした演出が増えていて嬉しい。正直ここが一番ペンライト振っちゃうし、今年は向こうからの"愛"もすごかった。投げやり投げキッス大好き。

間髪入れず今度は2018年テーマソング「グリーンライツ・セレナーデ」。曲中に何度も指でハートを描くミクは、なんだかバンドメンバーに負けじと対抗しているように感じて面白かった。


今年のセトリで特にヤバかったのは次の日替わり3曲だろう。「みんなみくみくにしてあげる♪」「ODDS & ENDS」「ハジメテノオト」などの初音ミクを代表するレジェンド級の曲たちが次々と観客たちの情緒を崩壊する。まさか今年これらを聴けるとは思ってなかった。

そう、「やるなら来年じゃない?」と思った。来年は初音ミクが設定年齢に追い付く記念の年。今年これらを消費してしまっては来年のマジカルミライはハードルがグンと上がっちゃうんじゃないかと心配になった。
もちろんこの段階でまだ来年があるかどうかは分かっていない。だからこそ心配だ。

まさか…

マジカルミライ、終わるのか?



本編最後の曲は2020年テーマソング「愛されなくても君がいる」。あ~、確かに前の3曲が今年のセトリに必要だったか理解できた気がした。
歴代テーマ曲をすべて演奏することはある意味大きな"縛り"でもあったはずだ。しかも愛されなくても~はこれで3年連続の披露。ここぞという適切な場面で差し込まなければマンネリ化は避けられない。
それなのに今年が一番心に刺さったのは間違いなく前の3曲があったおかげだろう。まるで物語の起承転結のように(順番は違うけど)初音ミク15年間の軌跡を的確に表していた。

大丈夫 楽しいパーティーが終わっても 君が笑うなら
ずっと ここで 初音ミクでいさせてね!


曲が終わるとバンドメンバーも退場し、客席からはアンコールの手拍子が起こる。今年は過去2年と違ってこの間のBGMが一切無かった。何もしなくても自然に手拍子が起こるだろうと観客側を信頼してのことなのか、それとも何か深い意味でもあるのだろうか?この寂しさがちょっと不気味だ。

アンコールを経て再登場したミクは今年のメインビジュアル衣装に変身。近くの女性客が思わず「かわいい….」と声を漏らしていた。わかる。
アンコール1曲目は10th Anniversaryテーマソング「フューチャー・イヴ」が満を持して披露された。

私はこの曲を初めて聴いた時からずっと、どう受け止めればいいのか分かっていない。歌詞もMVも、アニバーサリーに似つかわしくない不穏さが立ち込めている。今ステージで歌っているミクの表情も、他のテーマ曲よりどこか寂しげに見える。

これからも、音楽の魔法が続くように、願いを込めて…

曲が始まる前のMCでミクはこう言っていた。まるで自分に言い聞かせるように。

夢が、まだ“夢”が愛せるなら
間近に在る、ハジマリはずっとずっと
魔法を信じていた

ハジマリがあれば、終わりもいつか必ずやってくる。

初音ミクたちボーカロイドが創造した歴史はこれからも永遠に残り続けるだろう。しかし歌声合成ソフトウェアやバーチャルシンガーとしての"公式"初音ミクは所詮ビジネスだ。音楽の魔法が続かなければ価値を失ってしまう。
人々が"夢"を愛せなくなったとき、魔法は解けてしまうんだろうか。

それとも、魔法が解けてしまう方が先だろうか。
もちろん"公式"初音ミクも残そうと努力すれば何百年でも残るだろうけど、誰かの手によって簡単に消すことも出来るはずだ。人々はそれでも"夢"を愛せるだろうか。

どんな"少しだけ未来の話"が現実になったとしても、人々は"今"と同じように、こうしてどこかに集っているのだろうかー

■マジカルミライの終わり

自分でも何言ってるのかわかんなくなってきたから、寂しい話は一旦置いといて「Hand in Hand」は純粋に楽しみたい。毎年同じ映像の繰り返しなのにそれを受け入れて楽しんでいる自分。すっかりこの世界に安住しちゃってるなあと勝手に感慨深くなっていた。

アンコール3曲目「DECORATOR」はラスサビで6人が全員集合!!!!!!これな~2017年にやってることを知らずに来たかったな~~~あの瞬間のペンライトが一気にカラフルになる光景は最高に美しかった。

唐突に話は変わるが、ミクたちキャラクターは曲が終わるとエフェクトとともにステージから消えてしまう。去年とかはそのままMCに繋げてた曲もあったけど今年は今のところゼロだ。
ちょっとライブ感としてどうかな~~とは思うけど過去に披露したデータの再演がほとんどだし技術的にしょうがないのかな…


ミク「わあ~皆で踊るの楽しいね~(曲終わりからそのままトーク)」

やればできるんかーーーーい!!!!!!
結局はお金や労力の問題なんだろうか。


ルカ「色とりどりのペンライトがすごく綺麗~

リン「ホント~!ずっとこの景色を見ていたいな~…

おいおいまた不安にさせるワード出てきたよ?


ラストを飾る「Blessing」はマジカルミライ史上初めて6人全員がステージで歌唱した。

この曲はオフィシャルアルバムに収録されているから、やることはほぼ分かっていた。10th Anniversaryという記念の舞台で、きっとライブの最後らへんで披露されて、6人が楽しそうに踊って、色とりどりのペンライトが綺麗なんだろうな。その光景も全て想像できていた。

でも、想像以上だった。

Blessings for your birthday
Blessings for your everyday

私が参加した公演は大阪初日と東京千秋楽の2回。
大阪初日は当然みんな初見状態だ。それでもサビの振り付けに合わせて少しずつペンライトの動きが揃ってくる。
そして三週間後、東京千秋楽で見た光景は、完璧に揃った美しいペンライトの波だった。
泣きそうになった。いや泣きはしなかったんだけど、欲を言えば最後に紙吹雪なんかが舞う演出があれば号泣してたかもしれない。

Hip hip HOORAY これから先も
Hip hip HOORAY 君に幸あれ

この空間には幸せが溢れていた。自分も十分幸せだった。3年間幸せな夢を見せてもらった。ずっとこの景色を見ていたいとも思うけど、むしろこの美しい景色のまま全て終わってもいいと思った。

このあと、実は今年が最後のマジカルミライです、とか、来年がファイナルです、なんてアナウンスがあってもいいと思った。



はい、まあ皆さんご存じだと思うが、千秋楽の最後に『マジカルミライ2023』の開催が発表された。例年通り年号表記に戻ったということは2024も
2025もまだまだ続けたいと考えているんだろう。

私は発表の瞬間、嬉しさよりもあっけなさを感じていた。正直本気で今年か来年が最後になるんじゃないかと思っていたし、なんなら心のどこかでは「終わってほしい」とすら思っていた。

それは単純に、その方が話題性が高いし面白そうだから。

冷静に考えてみて、今回がかなりのグランドフィナーレ感で来年のハードルが上がってるのだから、「来年もやります」より「来年が最後です」と言われた方がより期待してしまう。このままタイトルの年号だけ変えて5年、10年と続いても面白くないんじゃないか。むしろ十分長く続いたイベントなんだから、10回目の今年か初音ミク16周年の来年が一区切りつける絶好のタイミングじゃないか。

そんな上から目線で、自分勝手で、安直な考えによるものだった。

■マジカルミライとハジマリ

でも、マジカルミライはそう簡単に終わらせていい程度のものではなくなっているようだ。

この世界には想像以上に初音ミクたちによって生かされている、初音ミクたちと共に生きている人が存在する。私はついさっき「Blessing」で繰り広げられたペンライトの波を見てそのことを再認識させられた。

私は3回目の参加にして初めてまともに企画展も見て回ったが、今年は3年ぶりにコスプレが解禁され、自作の衣装を纏った人がたくさんいた。端から見れば異様な光景だけど、こんなこと相当な愛がないとできない。
そして本当に様々な年代の人がいる。きっと今年もこの中から小さなハジマリたちが芽生えたんだろう。数年後にはこの場所で「恩返し」をしてもらえるかもしれない、そんなことを夢見てこの場所に集っている。

企画展といえば、スポーツ報知のブースで発売してたマジカルミライ10年の歩みを紹介したタブロイド新聞に、クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之代表と関本亮二プロデューサーへのインタビューが載っていた。

関本さんは冒頭からいきなりこう述べている。

永遠に初音ミクの創作文化は続いていくんだろう、クリエイターがいる限りマジカルミライも終わることはないだろうと思っています。

伊藤社長のサインに書かれた一言も強かった。

まだ10年!!

初音ミクやマジカルミライの未来はこの人たちにかかっている。未来を消す権限だって持っている。それでも二人は、少なくとも今の段階で終わりなんてものは全く見据えていなかった。新たなクリエイティブが生まれるハジマリの場所として、マジカルミライを続けていきたいと考えていた。つい忘れがちだが、そもそもこの人たちが最も初音ミクたちと共に生きている。そりゃあ簡単に終わらせることなんてできないわ。


それでもやっぱりマジカルミライはいつか終わるだろう。だって『マジカルミライ2039』とか『マジカルミライ50th』なんて言ってるとは想像できないもの。このまま続けてもマンネリ化するんじゃないのという私の意見は決して間違ってはいないと思う。

だからイベントの名前とか主旨とかは多少変わっててほしいけど、人々は何年先も"今"と同じように、こうしてどこかに集っていると信じたい。そこでまた「好き」を共有して、新しいハジマリが生まれていてほしいー



今年の楽曲コンテストグランプリ受賞曲「Loading Memories」で重要なキーワードになっているのがサムネイルにも描かれている「砂時計」だ。コンピューターの読み込み中(Loading)を表すマウスポインタの砂時計のことだと想像できる。

彩る生命(いのち)が 創り上げた今が
不可能を可能に 可能を実現に
木漏れ日 生い茂る青の葉
君と眺めていた 愛の砂時計

一方で本物の砂時計は、人の寿命のように戻れない時の流れを象徴している。でも砂時計はひっくり返せば再び始まりに戻すこともできる。これって少し初音ミクの概念みたいだなと感じた。

砂時計の砂粒が落ちきった時、初音ミクは誰かとサヨナラを迎える。それでもまたどこかで誰かと出会い、砂時計は動き出す。サヨナラと初めましてのスキマを繋ぐエネルギーが砂時計をひっくり返して、初音ミクは生命を繋げてゆく。

このサイクルをどこまで続けられるかは"今"の私たち次第だ。

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