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人生初ライブだったはずのライブを3年越しに見た話~初音ミク×鼓童スペシャルライブ2023感想~

バーチャル・シンガー「初音ミク」と太鼓芸能集団「鼓童」の3回目かつ最後のコラボレーションとなる「初音ミク×鼓童スペシャルライブ2023 ~結~」が、6月3日・4日に渋谷のNHKホールで開催された。

当初は2020年6月に開催されるはずだったこのライブだが、新型コロナの感染拡大で一度は中止になった。それから3年ぶり、前回の公演(2018年)からだと5年ぶりに開催が実現したのだから、多くの人が心待ちにしていたに違いない。そして私にとっては本来これが人生初ライブになるはずだっただけに、嬉しさだけじゃない色々な感情が沸き上がった。


■幻となった人生初ライブ

2019年の年末、それまでオーケストラのコンサートなどを除けば一度も音楽ライブに行ったことが無かった私に初めて「ライブに行ってみたい」と思わさせた存在、それが初音ミクだった。その年の夏に開催された「マジカルミライ2019」のダイジェスト映像をたまたま見たことで、実在しないキャラクターのライブというものがどんな感じなのかこの目で直接確かめたいと思ったからだ。

だけどいきなりマジカルミライみたいな歴戦の熱気あふれるオタクたちが集う場所に放り込まれても雰囲気についていけないと思った。もう少し初心者が行きやすいイベントは無いだろうか…
そんな時に舞い込んできたミク×鼓童ライブ開催のお知らせ。これなら多少は環境が落ち着いてるだろうからゆっくり見れそうだし、バーチャルシンガーしか出ない未知のライブよりも"人間が居るライブ"のほうが不安要素が少ない。こうして初めて自分の金でライブチケットを購入した。

しかしその直後に新型コロナの影響で開催延期→中止が決定。人生初の音楽ライブは無情にもお流れしてしまったのだった。


じゃあしょうがないなということで、かなり悩んだ末に12月の「マジカルミライ2020」を人生初ライブ振替公演として行ってみた結果、見事に初音ミクのエモさにやられてどっぷり沼落ちしたのはまた別のお話。

■念願の再演、声出し解禁

そんなこんなで3年の月日が経ち、2023年6月3日、NHKホール。待ちに待ち続けたミク×鼓童が帰ってきた!!
しかも運のいいことにコロナの感染が落ち着いたタイミングなので声出しも解禁。開催実現に向けて尽力してくださった関係者の皆様、本当にありがとうございます。

まだ右も左も分からない状態で体験するはずだったライブを、すっかりオタク側の人間になったうえで観るというのは不思議な気持ちがした。とは言ってもミク鼓童は過去の映像をちらっと見たことぐらいしか前知識が無いし、声出しOKなライブもほぼ初めて。なのでどんな雰囲気になるのか全く想像もつかないまま開演の瞬間を迎える。実質人生初ライブと同じぐらい緊張して心臓はバックバクだった。

「ウオオオオアアアアアアアア!!!!」
私が参戦したのは3日昼の初演。なのに千秋楽かと思うほどの大歓声に包まれながら幕が上がり、ステージ上の鼓童とバンドメンバーが姿を現す。「ドドン!」最初の太鼓でサッと会場が静まり、そこからもう一度ボルテージが上がっていく…
そして満を持して奥のスクリーンに初音ミクが登場。今回のテーマソング「NEPPUU~熱風~」から3年越しのライブがスタートした。

MCを挟んだ4曲目はマジカルミライ2020の1曲目でも披露された「太陽系デスコ」。3年前の幕張メッセで初めて初音ミクの姿が目に飛び込んできたあの瞬間を思い出したり、その時は封印されてた声出しコールを思いっきり楽しめたことの嬉しさで脳内はグチャグチャになった。

「やっと帰ってくることが出来ました!」
「命、燃やして頂けますか!」

続いて鼓童のソロパートに入り、小松崎正吾さんが熱い口上を述べる。「巴」という楽曲では多くの観客が手拍子をしていたが、私は初めて生で感じる鼓童のパフォーマンスに見入ってしまいしばらく身体が固まっていた。

ただ少し違和感があったのは、肝心の和太鼓の音が思ったより響いていなかったことだ。どうやら初演は音響の調整が良くなかったらしく、真の迫力を感じられなかったのは心残りだけど、それでも演奏が終わったときは鳥肌が立ちまくった。


■ONE TEAM

ここ一番のどよめきが起こったのは巡音ルカ・鏡音リン・初音ミクの3人がステージで踊る「どりーみんチュチュ」だろう。こんなゴリッゴリのキラキラカワイイ系ポップナンバーをマジでこの場でやるんですか!?と最初は目を疑った。

その後もミクとKAITOの「大江戸ジュリアナイト」、MEIKO・鏡音リン・レンの「Amazing Dolce」と複数キャラが登場する楽曲が続く。今回披露された曲のほとんどは過去のマジカルミライなどでも演奏されていて、キャラクターのモーションは鼓童コラボの為に作られた訳ではないはず。しかしステージ上の鼓童メンバーは、楽器を演奏しながらもキャラクターとリンクした動きやダンスで観客を沸かせる。きっとこのライブの為に何度もモーションをチェックして、2次元と3次元の一体感を作り出すために色々な工夫をしてくれたのだろう。


賑やかな楽曲が続いた会場の雰囲気がサッと変わる。バンドメンバーが去り、鼓童メンバーによる和楽器だけのアレンジで演奏されたのは「glow」。まさにライブのタイトル通り、初音ミクと鼓童だけのステージ。スクリーンの演出も相まってとても美しかった。

どんなテンポの速い曲でもEDM系でもバラードでも、ミク陣営と鼓童が互いに互いの魅力を引き出すアレンジや工夫を生み出している。流石は3回もコラボしてるだけあって、もはやコラボの域を超えたチームの力を感じた。


■何でもアリの大団円

今度はバンド中心のアレンジで「僕が夢を捨てて大人になるまで」を演奏。2曲続けてしんみりした曲だったので「もう終盤だっけ?」と思ったがまだ1時間ちょいしかたってない。むしろここからがヤバすぎる後半戦だ。

続いて鼓童メンバー紹介のコーナー。一人づつスポットライトが当たり、スクリーンに名前が表示される。そしてその流れのままバンドメンバー紹介のパートに繋げたところがカッコ良すぎた!

イナズマと共に鏡音リン・レンが登場。これまたガッツリEDM系「劣等上等」に会場はぶち上がる。曲中ではスクリーンに表示される太鼓と実物の電子和太鼓のビートが連動する演出もあった。さらに過去のミク×鼓童でも演奏された「リモコン」→「いーあるふぁんくらぶ」の繋ぎで大盛り上がり。噂に聞いたリモコンのお兄さんによる振り付け完コピを見られて感激。


ここで再び鼓童のソロパート。
…なんか背中にすごいでっかいの背負ってるんですけど!?

「LION」という楽曲では岩手県などの伝統舞踊「獅子踊(ししおどり)」を披露。「ササラ」と呼ばれる高さ3メートルもある竹竿を腰に差し、前方に頭をさげて床に叩きつけるアクロバットな踊りは迫力満点だ。

続いてはマリンバ(木琴)を取り入れた楽曲「巡」だが、私からはステージ上に木琴が見えなかったので、今回の目玉でもあった電子和太鼓で木琴の音色を出してたのだろうか。様々な文化が入り混じったリズミカルなメロディーと阿部好江さんの美しい唄声がホールに響き渡った。

ライブで使われた電子和太鼓「TAIKO-1」

「せか~いで~」の歌いだしで会場は再び大熱狂。定番中の定番「ワールドイズマイン」は珍しくミクがデフォ衣装のモデルだった。声出しの雰囲気にまだ慣れてないので凄まじいコールに笑いそうになる。

完全に予想外でした。マジカルミライ2018テーマソング「グリーンライツ・セレナーデ」がここで投下された。運営さんまずいって、死人が出るぞ。この瞬間の歓声は「うおおおおおお」とかじゃなくて地鳴りのような「ギャアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」だったし、自分も頭抱えながら椅子に倒れこみ、同時に「最後だから何やってもいいと思ってるな?」ってことを悟った。

スクリーンに「LAST SONG」の文字が現れ、聞き慣れたピアノのメロディーが会場を包む。本編最後の曲は「Tell Yor World」。これが最後のミク鼓童だと思いながら聴く歌詞はいつもより寂しく感じた。

■3年分の熱風

演者がステージから退くと「アンコール!アンコール!」の声が響き始めるが、それが徐々に「ミーク!鼓童!」というコールに変わっていった。ファンの暖かさにジーンとくる。

アンコール1曲目は「千本桜」。これがないと終われませんね。間奏でわちゃわちゃしながらテキトーに大太鼓を叩くミクさんが可愛い。

2曲目で再び絶叫が巻き起こる。6人全員が登場し、前回のマジカルミライ10thで大トリを飾った「Blessing」が再び披露された。すっかり浸透したサビの振り付けに鼓童メンバーも合わせてくれていて、会場全体が一体感に包まれた。しかもこの日は台風の影響で多くの交通機関がストップし、来ることを断念した遠征組も多いはず。そんな状況でも何とか辿り着けた人たちにとって「ここに集えた奇跡にありがとう」という歌詞はより来るものがあっただろう。

最後はお馴染み「Hand in hand」で2時間の公演を締めくくった。初演では銀テ砲の発射タイミングを間違うという痛恨のエラーがあり、夜公演では「グリーンライツ・セレナーデ」で音声トラブルが起きたそうだが、4日の千秋楽は無事に終演したようで何より。7月にはNHK BS4Kで放送予定なので関係者はヒヤヒヤしただろう。


3年分の思いを込めた打ち上げ花火がでっかく咲き誇り、そして一瞬で儚く消えてゆくような、テーマソングのタイトル「熱風」に相応しい怒涛のライブだった。正直、セトリは定番曲が多すぎて、これをバーチャルシンガー単独のライブでやられたら不満に感じていたと思う。ミク鼓童のフィナーレを飾るからこそ、このセトリは最高のお祭りムードを演出していた。

そして、私が3年前に思い描いていた「落ち着いてゆっくり観られるライブ」とはかけ離れたものだった。人生初ライブとしてこれを観ていたらカオスすぎる雰囲気についていけなかっただろう。コロナ渦で出会った初音ミクという存在は大きな心の支えになった。あの3年間がなければ自分は初音ミクを好きになってなかったかもしれない。だから、少し言いにくいけれど、自分にとってはこのライブが3年越しで良かったと感じている。

あれは!?
_人人人人人人人_
> どーもくん <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

初音ミク×鼓童スペシャルライブは、NHKが東京オリンピック・パラリンピックに向けて日本文化の魅力や素晴らしさを国内外へ向けて発信する「This is NIPPON プレミアムシアター」の一環として始まったイベントだった。つまりオリンピックも終わった今、3回目は開催されないまま真の幻となっていた可能性もある。それなのに、ほぼそのままの形での開催が実現した。

最後に改めて、関係する全ての皆様にありがとうと伝えたい。そして、いつかまたどこかで初音ミクと鼓童のコラボが復活することを願っている。

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