影山飛雄の先輩


影山飛雄というセッターがいる
バレーボール以外は世間知らずで危なっかしい

バレーボールにおいては、純粋であり最恐である


影山飛雄はバレー馬鹿なので、強いとこの上手いセッターには年齢問わず食いつく節がある。
セッターを見つければ、残像を残して首が回る
影山は真面目なので、先輩には敬語を使うし話しかけるタイミングを伺うという前置きをする

そんな影山のターニングポイントであり
多分一生勝てないと思わせている先輩が2名いる
名前を 及川徹,菅原孝支という。

共に影山飛雄の2つ上で、
及川は中学の、菅原は高校の先輩である

影山飛雄の中学バレーは、かなり暗いが
長いバレー人生において必要な3年間ではあった
及川徹は、影山の最初の憧れの対象であった

及川徹は努力家で負けず嫌いだ
負けず嫌いが功を奏し、アルゼンチンまで飛んだ
中学生の及川徹は、白鳥沢という王者の背中を
睨み続けていた。

才能に飢えていた及川は、それを努力で
こじ開けるしかないことを知っていた

そんな及川の元に、ひょっこり影山が現れる。
さっきまでランドセルを背負っていた童顔は、
メキメキとセッターの頭角を現し、及川の後ろを崖にしてしまった。

及川は運が悪かった
牛島が運が良かったように

中学3年生にぶつけるには
あまりにも酷な運命だった
しかし仲間には恵まれていたと思う
見事に築き上げた信頼は、裏切ることはなかった
"信頼"は影山が才能と引き換えにしていたものだと、及川はまだ知らない

幼馴染の岩泉は、及川の全てを見ていた
天才が捨てたであろう才能を拾い続ける及川もまた、岩泉からすれば天才であった

体格にも、器用さにも恵まれたというのに
宮城という狭い激戦区では
及川は枝を広げることが出来ずに、アルゼンチンへ飛んだのだ

15才と13才は、
真っ向コミュニケーションしか知らない
時に、真っ向コミュニケーションが急所を抉る
影山は、真っ直ぐだった
及川という2つ上の天才のようになりたくて懸命だった。けれどその真っ直ぐさはあくまで影山視点であるから、及川から伸びる影が見えなかったのだろう。


菅原孝支は優しく堅実で、
誰よりも後輩の世話を焼いていた。

落ちた強豪という異名
欠けた部員と先の見えないラストイヤー
思いもよらない、扱いにくい新入部員

だけど確実に、烏野がもう一度飛ぶために
なくてはならないパズルのピース
白鳥沢でも青城でもなくウチに来た天才

日向が影山に壁を切り開いて貰う裏で
菅原孝支の影は伸びていた
それでも菅原は笑った
自分がコートに立てない地獄より
烏野でのバレーボールの延長を選んだ

菅原孝支は影山よりも2年多く生きていた
それなりに大人なのである
置かれた場所で咲くことができる賢さと
勝ちへの執着を持ち合わせていた

菅原もまた、信頼を築き上げることに優れていた
及川のようにはなれないが、精一杯の丁寧を
積み重ねることならできた
そして仲間にも恵まれている

菅原が優しいのは100%人のためでは無い
少なからず、可哀想と言われる自分を自衛し
影山や、コートで重責を担うスパイカー達の
不安要素となることを避けるためであった
烏野の3年生はもれなく全員、自責の念が強い

それらを雑念にカウントする影山は
菅原も当然上手いセッターであり、いつ自分が下ろされてもおかしくないと思っている

影山が烏野としてプレーできているのは
菅原孝支の背中のおかげなのだから。


影山飛雄はバレー馬鹿である
純粋にお世話になった先輩を慕っている
彼らの深く伸びた影も葛藤も知らないから、
さも当然のように先輩の背中を追うのである。

それが及川にとっては影山の憎たらしいところで、菅原にとっては影山の可愛いところなのである。


日の丸を背負う影山飛雄を生み出すまでに
沢山の人間が影で涙を零し、
選ばれた者とそうでない者の領域を意識した
しかしそれと同じだけ、影山飛雄も影を見た

やはり妖怪世代は恐ろしい。
それでもバレーボールにハマってしまっているのだから

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