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丸いステアリングも今のうち?

ステアリング(ハンドル)は丸いのが当たり前。
そんな常識も壊れつつあります。最新のプジョー208のコクピットに座り、ゆるいカーブを描いた長方形のステアリングを握っていると何故だかF1マシンを操っているような気分に高揚してくるから不思議です・・・・
ではステアリング・ハンドルはいつからいつまでマルなのか?

自動車が発明品と呼ばれていた時代には長い舵取り棒でひとつだけの前輪の向きを変えていました。四輪車の時代になり、ステアリングも船の舵みたいな操舵輪に姿を変え、長いことその形が続いたものです。
1世紀近い丸の歴史が崩れ始めたのは、まだ最近のこと。ひざ上の空間を確保するべく、丸いステアリングの下を直線的にショートカットした、かまぼこ型デザインが歴史を変えた第一歩。以来、ステアリングは四角いかたちへと変貌していくかもしれません。

もうひとつ、ステアリングの歴史で革命的なことが起きたのはホンの一昔前。日産スカイラインに装備されたダイレクトアダプティブステアリング(ステアリングbyワイアー)では緊急時にこそハンドル軸が直接タイヤの向きを変えるリンケージに繋がりますが、通常は電気信号でしかハンドルと足回りが繋がっていません。

前輪の片方が大きな石ころを踏んだとしても、その衝撃がドライバーを驚かせることは、もう無いのです。

そういえばステアリングの果たす機能もずいぶんと変化してきました。今ではオーディオの操作も、クルーズ・コントロールのスイッチも、電話だってインフォメーションの表示切替だってステアリングの一部に埋め込まれています。つまりハンドルそのものが大きなスイッチの塊のようなもの。F1のステアリングを見れば、色とりどりの各種ボタンが付いているのが最近の傾向。無線のスイッチ以外にもブレーキバランスや車体の細かいコントロールは皆ここで操作し、ダッシュボードに手を伸ばすことはもうありません。

ちょっと昔なら、せいぜいそこには警笛を鳴らすためのホーン・ボタンがあるだけでした。あとは非常時に展開するエア・バッグが搭載されていますが、普段はあまり中身を見かけない装備です。これもちゃんと作動させるための回路があって、整備やレース出場のときなどは該当する部品のヒューズをはずしておきます。

ホーン・ボタンは、その昔ウィンカーのように、レバーを倒して鳴らす方式もありました。ウィンカー・スイッチとホーン・ボタンを兼ねた半円形のホーン・リングで、両方の操作が可能だった(二代目)トヨペット・コロナの例もありますが、知らずに乗った人はウィンカー・レバーのありかを探しまわることになったかも。(このクルマのガソリン給油口は、後ろの可倒式ナンバープレートの背後に隠されています)

前輪のほうから計器盤の方向に向かって伸びたステアリング・シャフトは、衝突時には凶器ともなりうる代物で、1960年代にはこのハンドル軸が衝撃を受けても突き出さないよう、コラプシブル(衝撃吸収型)タイプのステアリングに置き換わりました。東海道線で売っていた5個入り冷凍みかんを入れる赤い網目のタイツみたいな構造を持つ収縮式のシャフトでステアリングとシャフトを繋いだモノです。

そこから二十年程が経ち、ステアリングに仕込まれたナイロン製の大きな袋が、火薬の力で急速に膨張、収縮することで衝撃を和らげるエアバッグの市販化が実現しました。開発は60年代から始まり、3点式のシートベルトと共に、今や市販車には不可欠の装備となっています。

各種専用スイッチにエア・バッグ、ステアリングの表情も随分と変わってきました。(裏の配線も複雑に)これが、エアバッグ装着前ならお気に入りのステアリングを買ってきてノーマルのハンドルと交換、と言うドレスアップも人気でした。イタリアブランドの有名なウッド製のステアリングや太いレザー製グリップを纏ったレーシング・タイプのもの・・・・・あるいは、ハンドル軸に巻きつける皮やゴムのカバーくらいなら、まだ愛用者も見つかるでしょうか?

最新型のフォルクスワーゲン・バスのプロトタイプなどは、計器盤からタブレットがせり上がってきて、それがステアリング代わりになるというユニークなデザインを採用しています。タッチパッドの上には前進、N,後進を切り替えるシフトスイッチも仕込まれています。おそらくは自動運転も視野に入れたデザインでしょう。

トヨタが上海で公開した新型電気自動車のステアリングはまるでジェット旅客機そのもの。ステアリングバイワイアのお陰で何回もくるくる回す必要が無くなり、丸である必要もないからです。懐かしのナイトライダーのポンティアックのステアリングもそうでした。教習所で十時十分の位置を握るように教えられたのも遠い昔の語り草に・・・

もう丸いステアリングは時代に取り残されていくガソリン・エンジンのような存在になってしまうのかも・・・・・

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