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ブレーキ競争がクルマ進化を加速させる

発車して角を曲がり、目的地に近づいたら重く大きなクルマを何とか止めなければなりません。レースの世界でコンマ何秒を争うドライバーたちの力量の差が大きく出るのもブレーキング、加速は誰がやってもアクセルべた踏みで差がつきませんが、ブレーキングとなると早すぎても遅くてもダメ、踏み加減も重要です。

ブレーキのハード・ウェアが進歩したのもレースの世界からで、いま一般的なディスクブレーキもレース育ちのアイテムです。日本車では60年代後半から次第に前輪に採用する車が増えてきましたが、それまで一般的だったのはドラム式ブレーキ。外からは見えませんがホイールの内側から摩擦材を押し付けるようにして回転を抑えるものです。1トン弱から⒛トンオーバーまで、大きな鉄の塊の運動エネルギーは何処に消えてしまうのか?それは熱として大気中に放出されるわけで、ブレーキ部品には速やかにこの熱を逃がしてやる放熱効果が求められます。

レース用のディスク・ブレーキだと,時として真っ赤に焼けたディスクの様子を目にすることが出来ます。その温度は最高で1000℃近くにも達します。鉄に代わって高価なセラミック・カーボンを使ったディスクもあります。

新幹線車両にも使われるディスク・ブレーキですが,ドラム式に比べてはるかに強い力で,回り続けるディスクを挟み付けなければなりません。ドラム式だと回転方向によっては自ずから食い込むような動きをしてくれるので、軽い力でも済みますがディスクブレーキには真空倍力装置(マスターバック)のような手助けがどうしても必要です。
エンジンフードを開けて、ブレーキペダルのある裏側あたりに見える円盤のような形のものがそれで、動力源はエンジンの吸気がもたらす負圧と大気圧との差です。

さて、エンジンを持たないEVでは何の助けを借りてディスク・ブレーキを締め付けるのか?三菱のi‐ミーブでは電動ポンプで真空を作り出し、プリウスやリーフでは電気でピストンを動かします。が、油圧のブレーキはあくまでも脇役、これからのクルマはモーター=発電機がクルマの動きを止める・・・・・運動エネルギーを電力に変換してちゃっかり電池に貯めこんでしまいます。日産ノートに装備されたワンペダル・ドライブも給電または充電の切り替えだけで加減速をコントロールするもので、減速度が大きくなるとブレーキランプも点灯します。

発電ブレーキで回収できるエネルギーはどれほどのものか?プリウスだと初期モデルで10パーセントくらい,。日産ののリーフだと30パーセント以上はラクに回収してくれます。これまではディスク・ブレーキが熱エネルギーとして、ただ大気を温めるだけに使っていたエネルギーを、再び加速のために使える・・・・ここにハイブリッドやEVの大きな強みがあるわけです。余談ながらEVのディスクブレーキ・パッドの減りは驚くほど少なく、リーフの場合、計算上は20万キロくらい無交換でいけそうです。

電気自動車のブレーキはつまり,油圧と発電(回生)を併用したハイブリッド形ということが出来ます。油圧ブレーキは自動車の歴史と同じくらい古くから使われていて、信頼性も高い機構です。それだけにブレーキ・オイルのチェックも大切です。

右足を数センチ動かすだけで,4輪のブレーキ・シューがホンの数ミリ動いて,ブレーキ・ディスクをギュッと挟み込む。ただ、そのままでは後輪がロックしやすくなってしまうので(特に空荷のトラックなどは)後輪のブレーキ力を手加減する機構(PCV)が備わっています。

油圧でコントロールされる長い配管にもしもの漏れや亀裂が出来たら大ごとです。そのため配管を2系統に分けて、前輪には二重に張り巡らせるX配管式のデュアルサーキット式も普及しました。制動力が充分に得られると、今度は雪道やぬれた路面でのスリップ事故を無くそうと、アンチ・ロック(スキッド)コントロールが登場します。これはもう、電子制御の恩恵です。車輪の回転センサーがタイヤ毎にロックしたことを知らせると、油圧回路にかかった圧力をワザと弱める働きを行います。それも4輪独立して、しかも1秒間に何回も緩めたり締めたりを繰り返します。こうすることで、どれか1輪でもロックせずにブレーキを掛け続けることができ、ハンドルを切ることも出来る様になります。道路上に黒々とブレーキの跡(ブラックマーク)を残すこともなくなるので、現場検証には役立ちませんが・・・・・・

今普及中の自動ブレーキはアンチロックとは逆に、ブレーキ圧を自ら加えるもの。混同しやすい機能ですが作動は全く逆の方向です。安全に車を走らせる方向では同一ですが・・・

各種の自動安全ブレーキではブレーキペダルを踏む代わりにポンプ等で油圧回路を加圧して、ブレーキをかけてくれます。その司令塔は当然半導体、いまやクルマパーツに欠かせない素材です。

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