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醜いわたしは灰かぶりの少女に手が届かない豚の子でした。

「あなたは美しい」

こんな言葉を言われたことのある人間が、
今どき何人いるだろうか。

こう言ってくれた人は
わたしの顔なんて見た事もないし、
やり取りだってつい最近始まったばかりだ。
ただ、相手が書いている文章に
以前からわたしは惹かれていて
意を決したわたしが話しかけたのだ。

わたしは友達に、気になる女の子がいた。
けれども、彼女が大切過ぎて
「友達」の域を越えるには
わたしはあまりに汚れすぎていて、
忍びないのだ。
そんなわたしを慰めようとして、
わたしの中身を「美しい」と褒めてくれた。
「あなたが近づくことで、彼女が汚れるなんて事は決してない」と。

本当にそうだろうか。
今のわたしはただの引きこもりだ。
夕方位に起きて、
スマホのうさんくさいネット記事を
流し読みしながら
目玉焼きとベーコンを口にかきこむ。
それからは、
ぼうっとベッドに寝転んで
カーテンの薔薇の模様を見つめたり、
好物であるチョコミントアイスを食べたり、
悪霊の続きを読む。
そしてまた暗くなったら目を瞑るのだ。

一日一日の境界線はなく、
朝と夜が陸続きの日々を
漂うように繰り返す。
こんなわたしを見たら、彼女はどう思うだろう。
「西野って本当努力家だよね」
中学時代彼女は
よくわたしにこう言った。
わたしはその頃成績が良くて、
何かと憎まれたりもしていた。
中にはあからさまに罵ってきたり、
消しゴムのカスをずっと飛ばしてきたりする、ちょっと意味不明な奴もいた。

「才能あるっていいよなー」

けれど、彼女はわたしの事を
見てくれていた。
わたしは全然頭なんか良くないし、
数学はもう、この単語を耳にするだけで
目が血走る程苦手だった。
ただ、同級生の誰よりも努力していただけだった。
クラスの男子がバイオハザードの新作に
はしゃいでいる間、
延々問題集とにらめっこしていた。
塾の感想欄に
「数字かわいい」と書いていたらしい。
末期である。

そんなわたしの影の頑張りを、
彼女は知ってくれていた。
「この学年で一番の努力家は
西野だと思う」なんて、
真顔で言ってきたりもする。
そうやって、
彼女に認められるのが
誇りだった。
勉強が分からなくなると
いつも真っ先に「にーしのー」って
泣きついてきた。
家で揉め事があったり、辛くなったりすると
相談もしてくれた。
そうやって、彼女から頼りにされるのが
嬉しくて仕方なかった。
口悪くて、プライド高くて、
でも泣き虫で、よく笑って、寂しがり屋。
笑った時に出る小さなえくぼ、
ぴーぴー泣きじゃくって
真っ赤に腫らした柔らかい瞼、
全てがくらくらする程眩しかった。
わたしはいつも、彼女にとって
頼れて
尊敬できる
かっこいい親友でありたかった。

なのに、今や引きこもりニートで
似たりよったりの毎日を過ごすだけだ。
大切な人だからこそ、
こんなみっともないわたしの姿を晒す訳にはいかなかった
情けないわたしじゃ、駄目なのだ。
それに
わたしは根本的にどす黒くて汚い。
彼女は平気で
わたしに抱きついたり、
スカートを揺らしながら
クラリネットを吹くけれど。

彼女は知らない。
わたしが夜は中年の男のちんぽを
くわえていることを、
しかもそれを喜んでいることを。
彼女は知らない。
わたしが
自分より年下で仲良しな女の子の首を
しめ殺しかけたことを、
それに全く罪悪感を感じていないことを。

わたしは所詮、どぶ沼に沈みながら
上手く息を吸うこともままならない
豚でしかないのである。
あなたは美しい?
茶化すのもいい加減にしてくれ。
溺れゆくわたしが、
夢うつつ見た
シンデレラの幻想。
浮かんでは消えていく
しゃぼん玉に手を伸ばしてみても、
いつも酸素が足りないんだ。
濁りきった泥水が
肺にあふれる間、
クラスメイトの王子様が
もう迎えにきたみたいだね。
その怒ったらすぐとんがる唇に
キスをするのはあたしじゃない。
お風呂に入る時
わたしの理性をぐらつかせた
小さい腰を抱き締めるのはあたしじゃない。
こんな獣の前足じゃ、
ワルツに誘うことも出来ないね。
水草の影で
こんなにも汚いわたしが
こんなにもきみを想っていることも
知らない癖に、
今日もあなたは
うさぎのパーカーを羽織って
楽しそうに高校へ通った。
可愛くも憎らしいきみ、
せめてわたしの近くで
スカートひるがえしながら
踊っていて欲しい。

溺れそうだよ。


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