見出し画像

いつも心の片隅にドリカム。

何年かぶりにカラオケに行ってきた。

私はカラオケという単語が出ると怯える。
特に30歳以降、なるべく誘われるシチュエーションを避けて通ってきたが、先日友人の出世祝いの飲みの余興で遂に行く羽目になった。

これまで避けてきた一番の理由として、選曲に本当に悩むためである。
必ずといっていいほど、本当は歌いたいのに人前で歌えない曲が多すぎる問題に出くわすのだ。

私のアマゾンミュージックのプレイリストは8割が洋楽。それも最近はもっぱらジャズやファンク。残りの2割の邦楽もいわゆるサブカル系のロックバンドを中心としているので、まずファンでなければポカンとされる。
しかし、実際歌いたいのはほとんどがここからである。

さらに30代に差し掛かると次第に歌う側から聴く側となり、10代、20代で触れてきた音楽には安易に手が出せない。

遡ること15年前(驚愕の年月である)、2008年頃にプレイバックしよう。

数人の友人と2時間ほど地元のラウンドワンのボウリング甲子園で腕を鳴らした後にそのまま上階のカラオケルームにイン。始発まで歌い明かした。

深夜1時に湘南乃風で粗品の無地タオルを一心不乱に振り回し始め、始発前の早朝4時半にケツメイシやリップスライムのラップ部分で噛んでグダグダになり、演奏中止ボタンを押してシラケるまでがお決まりのオチだった時代を過ごしたわけだが、紳士的となった今となってはもうそんなことをする気力・体力ともに皆無である。

月日は流れ、社会人になってからは同僚と行くカラオケも苦行だった。
俗に言うジェネレーションギャップ問題である。

最後に行った当時、私は比較的若い会社にいたため20代中盤の後輩ともなるとYOASOBI, あいみょん, official髭男dismあたりを平気で歌ってくる。
正直全く知らん。

もはや手に負えないので私は部屋の片隅で黒子に徹し、気だるい合いの手をいれつつドリンクやフライドポテトの電話注文のとりまとめ役を買って出ていた。
それ以来、しばらく逃れていた。

今回いよいよカラオケに行く流れになり、するすると最奥のソファに陣取った私は仕方なく選曲のリモコン(デンモクというらしい)からおもむろに曲を探し始める。

さて洋楽・サブカル縛りである私が何を歌えばいいのかと、とりあえず90年代ヒット曲リストを眺めていると出てきたのがDREAMS COME TRUE。ドリカムだ。

「…歌える!!」

ドリカムは、アウェイの私でも乗り切れる要素
①知名度があり適度に盛り上がる
②難しいラップも出てこない。
③そしてなにより日本語。
以上の点から無難に切り抜けられるとの結論に至る。

選曲ボタンを押そうとしたがここで躊躇が生まれる。

第一私は男なのでボーカル吉田美和の何オクターブもの高い音域が出ない。
キーを下げればいいのではないかという指摘もあるが、生来の音程オンチなため得意な音域というものがわからず安易に上下させることは出来ない。

第二に、そもそもドリカムは女性が歌うものではないかという先入観。
恋愛ソングを中心にヒット曲を世に送り出している彼女らは、該当する歌詞のシチュエーションとは無縁の人生を送ってきた私には至極ハードルが高い。

そして、今このカラオケルームにいる男友達は前述の湘南乃風やKICK THE CAN CREWなど、いわゆる輩系の選曲ばかりを歌ってきた仲間であること。
坂道系アイドルグループなども目もくれず、只々オラオラ系HIPHOPの曲ばかりを突き進んできた。

以上の事が頭をよぎり選曲ボタンを押すのをためらった。
かといって今この空間で迎合主義に則りケツメイシやリップスライムを歌う気には余りなれない。

そして何より、学生以来十数年の付き合いのこの男らにはドリカムが好きだということを未だ明かしてない。

追い詰められた私はここで白状すべきか。
若干の仕事のストレスもたまっていた私は、今日ばかりは歌いたかった。

思えば、過去に仕事で困難な状況に陥った時も帰りの電車で気付いたらドリカムが流れていた。
金曜の大事な商談の前には「決戦は金曜日」を流していたこともある。

ちなみに私が最も好きな曲はこちら。

どうだろうか、この世紀末感。

かつてこの曲を聴きながらPVのロケ地である代官山を散歩したり、室内でもサビに差し掛かると首から上だけ左右に揺れる吉田美和の真似をしながら風呂掃除をしたこともある。

(書いてて思ったが、思った以上にドリカムが好きだ)

「おい早くしろよ、さっさと入れようぜ」
輩Aの声をよそに迷った挙句、私は意を決して選曲した。


「え?」

その場にいた輩友達全員が止まった。
ドリカムカミングアウト達成の歴史的瞬間である。

しかしイントロが流れた瞬間、私は取り返しのつかないことをしてしまったことに気付いた。

この曲のラスト、高音シャウトがあるではないか!!!
私の低音ボイスで出るわけないだろ!!しかも原曲キー!!

「隣の人が~空見上げて舌打ちする~」

舌打ちしたくなるのはこっちのほうだ!
なんという選曲をしてしまったんだ。
まだ飲み会の酒の余韻も残っている。
ええい、ここまで来たら突っ走るだけだ!

あっと言う間にサビがきて、そしてラスト。

「あなたの~いない朝が今日もくるからぁ~あぁ↑↑↓↓!!」
案の定、見事に声がひっくり返りかすれた。  

曲が終わった。消費カロリー8.4キロカロリー。
私は見事に歌い上げた。本当に歌いたい日本語の歌を1曲歌ったのだ!

ふと静まり返ったカラオケルームに友人が一言。

「まあよかったんちゃう?」

と、淡々と次のKREVAを選曲して歌い始めていった。

私のカミングアウトはすべて次の曲のイントロでかき消された。どう思ったかはわからないが、さほど興味もないようだった。気の抜けた私はなんとも味わったことのない肩の荷が下りた感に苛まれていた。

今でもカラオケに対する拒絶反応が取れたわけではないが、ピンチの時にドリカムが味方になって場を切り抜けられるような気がしたことは私のここ最近の収穫である。

ただやはり、選曲は慎重にしたいと思う。

この記事が参加している募集

この経験に学べ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?