タイトル未定 六拾二

距離を詰める両者。その伸びてきた首をお狐様はまたもや拳でぶん殴る。本当に俺の体だよな…?これ。打撃を与える度に地面は沈み足場が悪くなっていく。

「「そろそろ終いにするかのう…!」」

お狐様は中段に御神刀を構えると土煙モクモクの中静かに意識を集中する。体の内、芯の芯からふつふつとエネルギーが昇ってくる。お狐様が作ったイメージなのか、青い灯火がゆらゆらと揺れそれが段々と膨張していく画像を俺も共有する。

そしてその灯火はやがて揺れる速度を上げ中心から勢いよく爆発した。ボワッとお狐様(俺)から炎が大きく上がる。あの時以来の感覚。熱くはない。お狐様の必殺技。その一撃を以て対象を確実に葬る(言い方が臭い)必ず殺す技の一つ。

だが、イツムネさんの事も忘れてはならない。イツムネさんの手に握られていた他のとは作りが違う依代。それがお狐様と同種の炎を灯し激しく反応していたからだ。当惑している間も手から離れようと、おおよそ紙が出すような音ではない「生き物」が苦しむような声を出しながら。

(あの時と同じ…もしくはそれ以上の何かを感じるが…。明らかに私の知っているクチナワのそれじゃない…。誰がこんなモノを…。)

「「終いじゃ!」」

御神刀はその炎を貰い、大きく燃え上がる。体が内側から吹き飛びそう、このエネルギーに耐え切れずに発火しそうだった。エネルギーを逃がしきれずブルブルする非力な俺の体でもお狐様は御神刀の柄を食い込むほどに掴む。 エネルギーの高まりに比例して、イツムネさんの手にある依代も反応が激しくなる。

そして、高まりきり凝縮されたそれを土煙が完全に晴れないうちに半芋虫にぶち込んだ。刃先が何かに触れる感触が当たったことを分からせてくれる。

グワオォン!轟音と共に辺りは眩いばかりの青白い光に照らされる。お狐様が放った一撃は戦いの舞台である公園ごと半芋虫を沈めてしまった。

らしかった。

「「ほう。耐えたかえ。慢心しておるつもりはなかったのだがのう。」」

小山のような青白い物体が晴れかかった土煙の中で動く。それは紛れもなくヤツ。その身を炎で焼かれ、呻き、苦しみながらも、やられっぱなしでも。そこまでして求める何かがあるのだろうか。しかし、ここにいてはいけない。帰るべき場所に帰れ。とイツムネさんは見ながら思っている。

「グ…ギギ…グガガ…ググギ…!」

「「苦しいかえ?しかしのう、妾はこの土地の神も兼ねている身故。野放しにしてはおけんのじゃ。静かにしておれば良いものを。…まあ、これだけ霊力がある者が二人とおれば、それも無理ってことかのう。」」

怒涛の如く腕から繰り出される半芋虫の連撃をひらりと交わすお狐様から語られた新事実。土地神も兼ねていたとは。

「「ほうれ。隙アリじゃ。」」

僅かに空いた腹部分に炎を纏った拳をお見舞いする。正拳突きのように放たれ、一瞬燃え上がったかと思うと、半芋虫は呻き声を上げながらコンクリート塀に激突した。空気中ではチリに燃え移ったのか、所々が青白く燃え、これだけを取り上げればなかなかに幻想的な風景である。芋虫がいなければ。

「「何を呆けておるのじゃ。オマエもこれくらいして見せよ。巫女の女子よ。ヤツはそろそろ終いじゃ。美味しい所はくれてやるわい。」」

袴をパンパンと埃を落とすように叩きながら、見ている事しかできない(できなかった)イツムネさんに縦割れた目を向けながら言う。強い反応を示す依代をグッと握りしめる。

「千狐様の命なら逆らえませんね…!」

この依代を使うには踏む段階が違う。帯にさしてあった小刀でその痛みに多少顔をしかめながらも指を切る。出た血を依代に真一文字に塗り広げ、もう一方の手で地面に依代を叩きつける。後はいつも通り。念じるだけ。

(かなり久しぶりに使うが…。お願い…!)

依代から激しく青白い炎が巻き上がる。クチナワ呼び出し10回分くらいの体力が一気に奪われていく。その感覚に多少眉根をピクつかせながらも。雑念があってはいけないと。

きた…!

確信と共に両眼を開くとそこには…

#小説



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?