タイトル未定 五拾

再び8F廊下。着物に靴と、どこかの幕末志士のような出で立ちである。あの人は正確にはブーツだが。左右を見回すとスーツを着る職員が。新旧フォーマル揃い踏み的な感じでいざ、職員室Bへ。

(無機質よのう。空気も汚いわい。)

辛辣というか、どストレートにものを言うお狐様。これが現代の労働に勤しむ者達ですよ。(誇張)

さて。職員室Bとやらはどこにあるのか…。

「あ、お狐さん~↑また会ったね↑」

この尻上がりで独特のアニメ声、甘い香りといえば。視聴者の皆さんもお分かりだろう。正解は!

(この女子は何じゃ。煩いのう。)

黙っててください…!

「あ、お着替えしたんだぁ!すんごく似合ってる~、コスプレイヤーも顔負けだよぉ!」

と、言うなりカメラで撮影される。しかも連射。なんというか…突拍子ないというか掴みどころがないというか…。

「ははは…。あ、ミュウさん、職員室Bって分かりますか?タテナシさんがそこで待機してろって言うんですけど…。」

「ちょうどそこ行くところだったよ!↑一緒に行こうか~↑」とミュウちゃんは先頭に立って歩き出すのでそれに倣う。左太腿のホルスターには45口径のマグナム、右太腿のホルスターにはナイフが怪しく光る。もう何でもアリだな、こりゃ。

「職員室B分かりにくいんだよねぇー、物置をついこないだ部屋にしたばかりだから案内図にも載ってないの↓」

歩くスピードを合わせてくれ、横に並ぶ形で歩く。ふわふわした服装と相まってますます掴みどころがない。髪もツインテールに結っており、外見はまさしくtheアイドル。

「職員室Bはお狐さんとミュウちゃんみたいな子達の集まる所なの↑ベースキャンプだね↑あ、青と赤のBOXはないよ~。」

「え、え…?とりあえず俺らだけではないんですね。」タテナシさんがそんな事言ってたような。

(興味深いのう。是非見たいものじゃ。畜生共を相手にするのじゃ。余程の武士じゃろう。)

「うん↑たぶん他の子もいるだろうから、お狐さんは新入りだね?お狐さんの席作ってくれてるみたいだから、ぼっちじゃないよ~↑」

「そこはあまり考えてなかった…。裏で色々手ぇ回して貰ってるみたいで…迷惑かけてすいません。」

「大丈夫大丈夫↑確かにすんごく危険なお仕事だけど、皆仲良くやってるから↑」

極論を言えば、殺るか殺られるか。命のやり取りをすると言うのに仲良しとは。自分が世間と比べてどれだけ思考や価値観に偏りがあるかは測りようがない。だけどこの考えには、根拠はないけど思わず「まった」と制しそうになる。その手を慌てて御神刀に持っていき、御神刀のポジションを直す。

「あ、ヨロイヤマさん↑お疲れ様です!」

「お~、ミュウちゃんもお疲れさま。お狐さんは初めまして。忙しい場所だけど、早く慣れてね。」

ヨロイヤマとかいう青年??が爽やかな笑顔を向けてくるので、愛想笑いで返す。その後も、すれ違う人と同じやり取りを何十回と繰り返したのだが、ミュウちゃんは顔の広さと、持ち前の社交性?のお陰で文字通りココのアイドルらしい。

そんなアイドルと8Fを歩いていると、突き当りにぶつかる。案内図(←→)もない。人こそいるもののここだけ殺風景な印象。ミュウちゃんが右を指さして歩き出すので黙ってついて行く。

ガラスの壁越しに見えたのは、デスクに向かう職員達だった。何かの図を見ながら喋るグループ、上司らしき人に頭を下げている職員、普通の会社の一風景がそこにはあった。そこを工場見学のように通り過ぎると、壁の奥に2枚開きの扉が現れた。十中八九ここ。

「はいっ↑職員室Bはここだよ~。もともと資料置き場だったから少し埃っぽいかもだけど…。後で正式に部屋が移る予定みたいだから、がまんがまん↑」

コンココンと3回ノックをした後、キレッキレのアニメ声で帰ったことを告げながら扉を開ける。内心ドキドキはしていたので少し頭が白くなっていると「はやくはやく~」とせっつかれたのでミュウちゃんに倣って部屋に入る。

「「狐だー!!」」

(何じゃこいつら!)

部屋内にいた全員が大きな声を出すものだから圧倒されてしまった為、人数はかぞえられなかった。それにしても園児めいたハイテンションである。

…ゆるキャラじゃないんだぞ。

#小説




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