タイトル未定 五拾八

イツムネペア(仮称)とは違い、青年はミュウちゃんとニコイチとなり特A地域を目指す。場数を踏んでいるため裏路地を通りながら。所々、居酒屋の赤提灯が灯る。誘惑には目もくれず武装した2人はひた歩く。

「あのふたりさー、大丈夫かなぁ?」

拳銃は剥き出しで携帯するな、とあれほど教えたにも関わらず人差し指でクルクルと慣れた風に回しながら。何か喋らなきゃ気まずいんだよね、とミュウちゃん。

「イツムネがついているから大丈夫だろう。彼の周りは必然的に皆経験者だ。」

「そうだけどさー、お狐くんはまだマッサラだし、お狐くんの能力も見た事ないでしょー?」

「オマエのような似非コスプレでないことは確かだろう。さっきの歓迎会の時…イツムネと話しているのを見ていたが、彼は炎を使うようだが…まだ未知数というのが俺の意見だな。」

体から炎、対象に炎…後者はパイロキネシスの類だろうか…いや、彼のベースが狐だとして、パイロキネシスというのは洋物チックだ。イツムネも燃えてはいなかった。あの刀にも何かカラクリがあるに違いないが…。今は任務に集中しなければ。

思考をシャットアウトする。ハッとなりお腹のあたりを触る。よかった。拳銃は持ってきていた。安堵する。

「エセコスプレはひどい!チームリーダーだからって!職権乱用!」

歯をギザギザにして地団駄を踏むミュウちゃんを制しながらも、気がつけばだいぶ奥に来た。奥に進むとそれに比例して雰囲気がどんどん悪くなっていくのが分かる。ココはいつ来ても粘着質というか後味がセンブリみたいに苦い。切れかかった街灯、築年数が進んだ団地…悪さを助長するものが沢山ありすぎる。そのうちココ周辺も指定地域になってしまうだろう。

「この先が特A地域だ。おそらくイツムネ達や他も先に入っているだろう。行こうか。」

2人は暗黙の了解の如く、残弾の確認→セーフティの解除→ホルスターに戻す。特別に治安が悪い地域。その中のグレードA。だから「特A地域」と呼んでいる。もちろん人によって呼び方に多少差異はあるがだいたいは通じる。

もちろん、この地域では犯罪(とりわけ殺人)などの発生率が飛び抜けて高い。人間のみならず、ココに来たやつが最初に見せられるあのビデオに出てくるようなカイブツまで棲んでる。飽きが来ない。悪い意味で。

「はーい、腕がなるねぇ~」

楽しそうだ。重くなられるよりかはマシだが。

ミュウちゃんと一緒に青年は歩き出す。団地の真向かいにある潰れた煙草屋より向こうが特A地域に指定されている。重苦しくゆっくり時が流れるような、埃臭い空気を裂きながら。少し舗装の悪いアスファルトに気を付けながら。

時刻は真夜中。芯からビリビリくる寒さなど気にせずに、また無事に帰れるように。

「うん」と頷いて煙草屋を通り過ぎた。

狐の青年よ。無事で帰ってくれ。俺の選択が間違ってたとは思いたくないから。

#小説



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