タイトル未定 六拾

さっきのウロコは蛇にかけたんだけど…気がついてもらえなかったなぁとか考えながらイツムネさんと公園の前にさしかかった。塗装のハゲた遊具に歴史、は感じない。今まで体験した様々な情報+コレである。夜の公園といえばカップルがイチャイチャしたりイチャイチャする所だろうけど、1ミクロンもそんな雰囲気はない。

ここで、イツムネさんはこんな事を言う。

「…千狐君、公園に何かいる…。」

嬉々とした口調ではなかった。何かを忌み嫌う、近寄るな、近寄りたくない、警戒する。そんなニュアンスで。静かにイツムネさんが指さす方向を見る。よく分からないけど何か見える。

「影…ですかね…?」

砂場の当たり、何か黒いものが蠢いている。ようやく暗順応してきた目でよく見ると、コールタールのようなものだ。グジュ、グジュと不規則な運動を繰り返している。公園の砂場にあるには違和を感じずにはいられない。

「やってらんねぇよなぁー、アイツさー、気に入んねぇから殺っちゃおうぜ?あとでさー。」

2人だけの緊張を壊したのはちょうど公園を通り過ぎようとしていた、見た目は不良っぽい少年2人だ。この夜遅くに薄着かつタバコを吸いながら歩いて行く。「ああ…」と何となく振り返り不良と目が合ってしまう。

「なんだあ?なに見てんだよ?おい!」

漢ではなかった。最近の不良はあいさつより先に手を出したいらしい。怖さなんてなかった。強がってるなぁと思った。

不良が2人に殴りかかろうと、拳が当たるか当たらないかというその時である。

お狐様の「嫌な匂いが」という予想が100%当たったということをまざまざと見せつけられる。青天の霹靂だった。

砂場にいたヘドロがビュヴンと高速で不良に飛びかかった。

「ぼい!わなぜ!(おい!はなせ!)」

グシャアッ。

これが不良の最期の言葉であった。持てる血の全てを道にぶちまけ圧死。赤い海の中でコールタールはバキボキ、グチャグチャ肉を喰らう。骨を砕きながら。つるんでいた不良は顔を蒼くして腰をぬかしてしまっていた。

(コイツじゃのう。まったく嫌な匂いじゃわい。好き勝手湧きおって。)

「起きちゃいけない事が…くそ…さっ、早くあの人を安全なところに連れて行って…!」

素早く、イツムネさんは依代から2体目のクチナワを呼び出す。そして、腰を抜かした不良を器用に背中に乗せ、どこかへと走り去っていった。

(童、声を借りるぞ。)

「「イツムネとかいう女子。あれは言うなれば穢れの幼体じゃ。幼体とはいえ女子でも殺れるかという穢れじゃのう。」」

「…千狐様。確かにこの穢れ、今まで見たことがありません…しかし、私も巫女のはしくれ。しかと倒して見せます…。」

巾着からありったけの依代を片手にとるイツムネさん。低い唸り声あげながら、ブチュブチュ音を出しながらコールタールは段々とその異形ぶりを露わにしていく。

「俺もお手伝いします…!」

御神刀を腰から鞘ごと抜き、柄を軽く掴む。不思議と怖くなんてなかった。ここまできたらなんかもう、丸め込まれてる自分がいたというか、こういう世界って自分の見てない所であるのだろうなと思っていたし。

「うぅ…う…」

コールタールは文字通り幼体と呼ぶにふさわしい姿となっていた。ゴールが蝶とするならばその幼体とは何か。

芋虫である。が、そうは形容し難い。人間の腕が足に当たる部分から生え、目も双眼のギョロギョロと濡れたものであるからだ。足して2で割っている(おい)。口も目いっぱい裂け、鋭い牙が見える。そしてデカい。

「千狐君、こうなれば殺るしかないみたいだね…。くれぐれも無理だけはしないでくれ…!」

「「叩きのめしてやるわい。」」

…ちょっとお狐様!?

そうして、あのこもり声に続く第2回目の戦闘として半芋虫との戦闘が始まろうとしていた。

ファイッ!

#小説


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