タイトル未定 五拾六

「うわー、まーた特A地域じゃん。上は危険な所に行かせるのほんと好きだよねー。」

部屋が暗く、顔までは見えない。自分の左のほうからそんな呆れ声が聞こえてくる。詳しくは分からないけど、単語から察しはつく。というか、ほんとにあれよあれよと言う間にだから何も分からない。

「各自、装備はしっかり整えて来ただろうな。できるだけ使って欲しくはないが、やむを得えない時はある。そういう時は惜しみなく使ってくれて構わない。」

…矛盾?

「もちろん、何があっても大丈夫。」

銃か何かをコッキングする音が聞こえる。物騒。

「皆から何かあるか?」とタテナシは言うも誰もうんともすんとも言わないのでそれを待って…

「それでは各自エリアに散開した後、巡回を開始してくれ。以上だ。」

そう言うと部屋の電気がボウッと灯く。映画館の上映後のように。皆に混じってとりあえず後に続こうとするとタテナシさんに呼び止められた。

「あの時はオマエ、もといオマエの中にいる者に救われたが、今回は勝手が違うからな。」

この問い(?)にどう返せばいいのか、分からない。確かに街に繰り出すという手前あの空間とは何もかもが違う訳だが。人一倍忠告されている気もしなくはないが、これは俺が新人だからという事か。

「えぇ、とりあえず勝手な行動はしませんよ。」

模範的な回答を何も考えず口にして会議室を出る。後頭部ににタテナシさんの視線を感じてツムジの下あたりがビシビシするが、まぁ気にしない。御神刀の位置を直して、数メートル先にいる青年達を小走り気味に追いかける。襟が詰まっていないので首周りが少し寒い。

金魚の糞で付いていくと、再び地下駐車場。黒い車に黒づくめの人達。深夜帯という事もあって吐く息は白い。誰も寒いと言わないのは統率のとれた組織たる証なのだろうか。ところどころ歯抜けになっている駐車場と建物への入口しかないこの場所で青年が再び仕切り始めた。

「これからお前達には巡回に行ってもらう訳だが…特Aは広い。…そこで2人1組で行動してもらう。自分の近くにいるヤツとパートナーを組んでくれ。もし現地で何かあれば俺かタテナシかスズナに電話してくれ。」

突然そんな事を言うものだから周りを探してしまう。ニット帽の少年とか色々目に入るけどこういう時に限って選り好みする癖…はっ、というか、俺お狐様中にいるからニコイチってことでいいんじゃないか?

いやはや。

「お、千狐君が意外と近くにいた。良かったら私と一緒に行ってはくれないか?」

そこには、俺と同じような服装をしたイツムネさんが立っていた。その事を指摘すると「これが私の一張羅なのだよ」と言ってクスッと笑った。違いと言えば刀があるかないか。

(カタチから入るやつじゃのう…?)

当然、というか特段断る要素もないので

「よろしくお願いします。」とぺこり。

他の人達も、サックリ見るとニコイチを作り終えた様子。青年の「着手」という号令を待って俺とイツムネさんはゆっくりと繰り出す。

何が待つか分からない、半分楽しみ、半分怖い、後戻り出来ない長い夜が支配する街へと。

#小説









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?