タイトル未定 三拾六

ミュウちゃんは器用に車のエンジンをかける。黒塗りの国産高級セダンには大凡似合わない運転手。というのは黙っておこう。さすが高級車だけあり車内の香りやシートの感触も、さっき乗っていたヤツとは雲泥の差である。

「んじゃ、出発するよ~↑」

とカーオーディオからはどこかで聞いた事ある曲が流れ始め、自然と歌詞を口ずさんでいると「あれ!この歌知ってるの~?」とミュウちゃんが食いついてきた。

「確か…魔法少女チャーミーのOP曲だった気が…ガキの時に見てたもので…」

日曜朝のあの時間。子供に夢と元気を与えてくれるヒーロータイム!…。

「ふぇえ~!仲間だ~!周りに知ってる人いないから嬉しいな!。」

ミュウちゃんはルームミラー越しに、後部座席に座っている俺にハニかむのだが、一部の人にはとてつもない破壊力がある笑顔だ。危ない。ははは…と愛想笑いを返しておく。いや、まじで危ないからね?

一方、タテナシさんはと言うとスマホで誰かと通話しているらしく「ああ」だの「うん」だの相槌を打ち、チャーミーのOP曲でよく聞こえないが時々長い言葉を喋っている。私用ではなさそうだが。

ちなみに、車内にはタバコにバッテンをくれたマークが貼られていて、タバコは吸えません。よっしゃ。

タダさんは俺の右隣で、ライフルを抱えて眠っていた。「ファマス…スパス…」とか訳の分からない寝言を言い、口の端からはヨダレがたれている始末。締りもクソもない。

そして俺はというと…特にする事もないので窓の外を眺める。車は片側2車線のバイパスを走っている。そこを走る様々な車…歩行者…潰れた建物…ラーメン屋…。

「世間」から存在を消された俺はもう、一般人としての生活は出来ないのだろう…。あそこの野菜マシラーメン、美味しかったのにな…

静かにため息をつき、足の間で車の動きに合わせて揺れる御神刀をじーっ…と眺めた。

#小説

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