D-1 Lawの話

1.新事務所には営業電話がくる
法律事務所を開設すると、日本弁護士連合会の弁護士検索HPに反映されるので、たまにそれを見て事業者の方がお電話をくださることがあります。
ポータルサイトと判例検索システムが主ですね。
今回は第一法規さんからD-1 Lawというサービスがリニューアルしました、というお知らせをいただいたので、その件を記録しておこうと思います。
(なお、聞いていて面白かったなと思って紹介するというだけなのでPRということではありません。)

2.代表的なシステム
判例検索システム、といってもなじみがない方が多いかと思います。簡単に言えばキーワードや裁判日付などをもとに裁判例を検索するウェブベースのサービスのことです。
法律事務所に持ち込まれる件の適切な解決のためには、過去の裁判例を参考にする必要があり、各事件と類似した裁判例をいくつか拾いだして、比較検討する場面が多くあります。
現在では、裁判例をテキスト化して検索システムに乗せることができていますので、このシステムを中心とした裁判例のリサーチが行われることになろうかと思います。
判例検索システムとしては、判例秘書という名前のサービスがよく用いられていると思いますが、その他にも、私が法科大学院のときはTKCローライブラリーというものを使っていましたし、West‐Lawというシステムもあります。
これらと並んで、D-1 Law というサービスもあり、法律書出版を行っている第一法規株式会社が運営しています。今回は、このシステムがリニューアルしたというお電話をいただきましたので、ものは試しに、デモ版の説明をオンラインで受けてみました。

3.D-1 Law がリニューアルされたらしい
正直なところ、これまであまりD-1 Law(以下、単にD-1といいます)を使っていなかったことから、D-1の特徴などはよくわかっていなかったのですが、実はD-1は法体系ごとの判例整理が売りであるということでした。
裁判例を、判断された争点ごとに分け、その争点がなんという法令のどの条文に関することかをあらかじめ分類しておき、法律の体系に沿って調べられるようしている、ということです。
ご担当の方曰く、今回のリニューアルの点は3つ。
(1)裁判例要旨による類似裁判例の検索が可能になった
D-1の特徴として、各裁判例に裁判例要旨を当てており、裁判例要旨には、どの法律のどの条項が問題となったものかを関連づけているそうです。
この裁判例要旨の監修と関連付け部分を多くの学者先生にお願いしているとのことでした。
今回、各判決の裁判例要旨から、類似の(同じ論点が問題となった)裁判例の検索ができるようになったということでした。
確かに、「この論点は典型的にはどのような争い方をされるものだったかな?」という疑問が湧くことは多いので、そのような場合に簡単に比較検討できそうです。
他方、「事実関係が類似している事例を調べたい」という場面では、法律の適用条文が近い事例が事実関係も類似しているとは限らないため、少しノイズが多くなる可能性はあると感じました。
☆ブログを書いていて、この機能が実際に今回追加されたものかどうか少し自信がなくなってきました。(2)の後半に書いた「判決文 詳細マップ」が新機能の一つ目という説明だったかもしれません。
ただ、D-1の機能としては一押しのもだということは確かです。
(2)時系列が表示されるようになった
裁判例には、いくつも年月日が表示されますが、D-1の新機能では、画面右端に裁判例の事実認定に登場する年月日がまとめて表示されるという機能が追加されたようです。
裁判例を理解する上では、時系列を認識する必要があることが多いですが、これまでは判決文を見ながらメモに取るなどして作ることが多かったようです。関連する裁判例を多くリサーチする場合は、そのひとつひとつの時系列表を作ることが難しい場合もあります。
他方、自動で年月日を抽出してくれれば、自分でピックアップする手間は省けますし、その機能を前提に必要十分な時系列表を作るということでも事務的な手間を軽減することができます。
そのような意味で便利な機能と言えます。
また、裁判例の表示画面も右端に、自分が今どのあたりを表示しているのかのガイドが表示されるようになったそうです(「判決文 詳細マップ」)。画面スクロールの縦棒の幅とそこまで変わらないんじゃないのという印象だったので、今後の改善があれば嬉しいです。例えば判決の表示している部分が当事者の主張なのか、裁判所の判断なのかで表示が変わるなど、一見してどういう部分を見ているのかわかる画面であると利便性が上がります。
(3)法体系+フリーワード検索
担当の方の説明によれば、法体系の一部分にフリーワード検索を行うことができるようになったということ。
裁判例要旨が法体系に分類されているので、これを絞った後にフリーワードを検索することで検索のノイズを減らすことが期待できるということでした。
これは確かに、検索のノイズが減る効果は期待できそうだと感じました。(1)の改善をさらに補強する機能と位置付けられそうです。

4.判例秘書と比べてどうか
今、私がメインで使っている判例秘書と、D-1とでは、裁判例掲載数などでも差はあるのでしょうが、重視している部分においても差があるように感じました。
判例秘書は、雑誌の解説記事の掲載に力を入れており、価格が真ん中のプランでも4誌の解説が見られるようになっています。他方、D-1は、判例タイムズ誌の解説が主ということでした。この点は判例秘書の利点としては大きいと思われます。
他方、検索画面のUIや判例要旨の法体系への関連付けについては、D-1の方がかなり便利そうであるように感じました。特に、判例要旨の法体系とフリーワードを重ねて検索することで検索上のノイズを除くことができるという点は、非常に興味を惹かれるところです。
自分の検索技術が低いことが第一次的な責任ですが、判例秘書は、検索ノイズを除くという点が結構な手間であり、「全然関係ない行政法の類似事例がたくさん出てきちゃったよ」ということが頻発します。
そういった裁判例を除くことで勉強になることも多いのですが、リサーチにかかる時間が増えることとのバランスでは少し効率が悪いように思います。
ですから、D-1でこの点が改善されるのであれば、ありがたいなと思います。
判例秘書においては、自分で書庫をカスタマイズできるという点が有用かつユニークです。自分で調べた裁判例をフォルダ整理して、類似事例があった際にさっと取り出せるようにしておくということです。
この点は、事件処理を重ねることで専門性が積み重なってきた際にとても強みになると予想されます。

5.まとめ
上記の点を考えると、現状、
・長期的に判例や文献を整理して蓄積していくなら判例秘書
・事件処理のために効率的に裁判例を探すのであればD-1
という強みの分け方ができるように思われました。
そうするとやはり判例秘書が最初の選択になり、資金的余裕が出てきた段階でD-1を追加で契約するというのが現実的ではないかと考えました。

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