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Chapter 5 「海中世界の王」

ここはどこだ…

モトヤはそう思った。

目の前には、蒼く光る巨大な水槽が見え、その中には二匹のシャチが不気味にコチラを覗いていた。

すると、


フッ、ハッハッ…

「御目覚かなぁ…モトヤちゃん♪」

物陰から1人の人影が見えた。

男の背は高く、何にやら気味の悪い微笑みを浮かべていた。

男の方まで近付こうとしたが、足には足枷が着いており、身体は椅子に固定され動くことはできなかった。

「んんもォオ…焦んないでヨ、ゆっくりやんましょうよ。」 

その声を、その奇声を聴き、モトヤはすぐさま男の正体に気が付いた。

アチワだ。



「あのなぁ… やるって、お前一体何をだ?」

「んふ、その何って、その、復讐を…」

「は?」

「君に対する、私の復讐だよ。」

「ん?ん?」

ナガヤマ君の復讐だよ、覚えてるかい?」

ナガヤマ… 誰だ。」

「ド・ブーズの誓いを忘れたか?」

「…」

「んふ〜、忘れたとは言わせませんヨ〜♪」

アチワは不気味に微笑む。

「じゃあ、忘れた。」

モトヤはヤケクソ気味に、適当にそう答えた。

「あぁ、そう。」

そう言って、アチワモトヤを椅子ごと蹴飛ばした。

ふわりと宙へ舞い上がり、着地と共に砕け散る椅子。

椅子の破片はモトヤの手足にへと突き刺さり、痛ましい悲鳴を上げた。

あぁあああ!!

「クソッ!痛てぇ!痛えヨォ!!痛えんだよぉ!!クソックソックソッ!!死ねカス、クソが!!なんで、俺がよ、はぁあ、あのクソカス野郎。ナガヤマなんて、何であんな、あんなどうでもいいモブのことを引きずってんだ… ハハハハ、ほんと、あんなマヌケのことが好きな奴がいたとはな、はぁはぁ、笑えねぇなァ…」

「どうでもいいのは、誰のことだい?」

「もちろん、ナガヤマだ。」

「いや、本当にどうでもいいのは、ユウキ君のことじゃないかナぁ? ねぇ、モトヤ君。」

ハッ、そういえば俺はユウキの事をスッカリ忘れちまっていた。自分のことにあまりに一生懸命になりすぎて、頭の片隅にすら無かったな…、

モトヤは思った。


ユウキは、お前、ユウキはどこだよッ!!」

「んーーーん、今頃シャチちゃんのオクチの中かな?」

「シャチ… シャチ… まさか!!」

「まさか! ここって、まさか!」

「そうだよ、思い出しましたか?君たちがナガヤマ君を見捨て、見殺しにまでした、あそこだよ。シャチ、そうシャチ。シャチのいる水族館…」

つまりは、

「ナゴヤか!!!」


「そう、その通り。」

「はぁ、はぁ、はぁ、なんてことだ。」

「君の墓標はここだよ、喜びなさい。」

「おい、嘘だろ、嘘だろぉ!!ふざけんじゃねぇよ!!!こんなところで死ぬ訳ねぇだろバカ!!ふざけんな!!どんだけ人の人生を不幸にさせたら気が済むんだよ!!」

「それは君に言えることじゃないよね。」

そう、アチワに言われると、突如モトヤの後ろには二人の仮面を着けた大男が現れ、モトヤを水槽の真上にある飛び込み台にまで連れていった。

水槽の中にはシャチが二匹、今か今かと腹を空かせて待っている。

そこで、モトヤは足を切られ、指は引き抜かれた。そのあまりに素早く、手馴れた大男達の愚行の数々に、痛みと絶望の中でモトヤは彼らの作業の正確さに僅かながらも感心した。

ここまでの手際の良さは俺の組織内でも見たことが無い。

「んふ〜〜ッ、どうだい?モトヤ君?気持ちが良いだろう?心地が良いだろう?これが人生の晴れ舞台だヨ、君が心から望んだ処刑台、そのものだ!」

「んぁあ、アレは、アレはぁ、ただのジョークだ、それを、真に受けて、真に受けて死んだ、あのカスが、お前とあの、あのナガヤマの責任だ。」

「こんなになってまでも、言い訳するんだネ、正直ガッカリですヨ〜♪」

「勝手にしやがれ…」

うむ、

「じゃあ、最後にひとつ質問。」

「いいから、黙れ!」


「なんだ、お前はもう答える気もないのか。つまらんの。」

そう言って、アチワはモトヤをプールの底へと突き堕とした。



堕ちてゆく中で、モトヤは、

シャチに噛み殺される、その瞬間。

いま、まさに命を終える、その瞬間の中で。

自身の死を察した、その一瞬に、

モトヤは自身の高校時代の走馬灯を見た…



つづく→


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