真夜中にカルピス

 夢を見ていた
 私は入院中という設定で病院のベッドで寝ていて
 隣のベッドで誰かが寝ている
 静かで
 呼吸音だけが互いのコミュニケーションツールだ
    
 不意に
 隣の療養者に来客があった
 来客に隣の療養者が言った
「隣の人(私)が僕の西瓜を食べちゃったんだ」
 (・・・なぬ?聞捨てならない)
 私は人のモノを横取りするようなことはしない
 ましてや西瓜なんて最近食べたこともない

 とりあえず咳ばらいをしてから
「そんなもの食べてないぞ!」
 と叫んだ
 すると隣の来客が
「あなたの分も持ってきたわよ」
 と聴き慣れた声で言った
 来客は私の母で、隣の療養者は私の弟だったのだ

 私は起き出して西瓜の一切れを受け取り
 むしゃぶりついた
 果汁が口いっぱいに広がり、美味しかった
 それから私は、西瓜を持っていないほうの手で
 母と手を繋いで病院から抜け出した
 病院の外は広大な森林公園になっていた

「お母さん、お母さんは西瓜食べたの?」
 と訊くと
「お父さんと一緒に毎日食べてるわよ」
 と言った
「うらやましいなぁ」
「あんたも早く結婚しなさい」
 他愛無い会話の後
 食べ終わった西瓜の皮をゴミ箱に捨てた

 すると今度は一面に梨畑が広がっていた
「もう食べられるかな、梨」
 と訊くと、母は
「今日は梨、食べ放題だからね」
 と返事した
「梨、食べ放題?そりゃ最高だ!」
 私は甘い梨の果汁を想像して
「僕は救われた!」
 と大声で言った

 ・・・この場面で夢は終わり、目が覚めた

 西暦二〇二四年二月十三日、午前二時
 私が目覚めた場所は病院ではなく
 千葉県内にある自宅アパートのベッドであった

 私以外に同居人はおらず
 母も滅多に来ることはない
 目覚めた私は、喉がカラカラだった
 西瓜もなければ梨もない

「そうだ!」
 と私は手をたたき
 冷蔵庫からカルピスを出してグラスに注いだ
 真夜中にカルピスを飲みながら
 私はこの詩を書いた




  著者・霧島葵(51歳)
  著作年月日・2024年2月13日
  (C)Aoi Kirishima.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?