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「色んなキャラが勢揃い」は君の好きなものまで揃っているか?~サツカレが書店で買える~

 殺人鬼10人が一同に会するマンガ『殺彼』の1巻が発売した。
 少年マンガや映画では敵キャラを好きになりがちな人間としては夢のようなマンガだ。好きなものがたくさん集まっている。トーストの真ん中の部分、生ビールの一口目、ショートケーキのイチゴを食べ放題みたいなものだ。

 ザックリ言うと「人並のクソ野郎がうっかり人を殺してしまって、人並みはずれた殺人鬼たちに次々出会うことに、もう大変~!」というストーリーなのだが、あまりにも脳がフンワリした内容に見えるので詳しくは以下。
「付き合った女性に手をあげるDV男、桐生優太。ある日彼女とのデート中いつも通り暴力をふるう優太は、ふとした拍子に人生を一変させることに——。
登場人物は全員特殊性癖持ちの殺人鬼。貴方は誰に殺されたい?」
(公式よりあらすじ抜粋)誰にも殺されたくない人でも楽しく読めるので、そこは気にしないでほしい。

 この作品は元々オリジナル同人誌『サツジンカレシ』シリーズだ。わたしは同人誌2巻から追いかけており、スピンオフの同人誌もほぼ履修済みの身の上である。同人版は「色んなマンガから殺人鬼を一人ずつ引っこ抜いてきて集めたマンガ」みたいなもので、それぞれの個人パートが中心、あとサツカレ同士のわちゃわちゃしたおまけ、みたいな構成だ。それもたのしいので気になる方はとらでゲットしよう。
 商業化してからもRTしまくっているのでフォロワー勢は「あ、アレね」ともう目タコ(耳タコの目版、痛そうな字面)だろう。
 すでに「1巻読みました!感想!」というブログはかなり出揃って、しかも粒ぞろいのようなので、視点を変えて、同人版履修済みマンとしてお話しようと思う。

 さて、単行本で出てきた殺人鬼は現時点(2018年3月)で4人。同人版はオムニバス形式というか、1巻から10人全員のビジュアルと性格が出ているので、残りの6人もどんなキャラかすでに承知済みというもの。キービジュアルの奥のほうで後ろを向いているキャラたちもばっちり履修済みというわけだ。

 まずビジュアルの話。
 上は商業版1巻の表紙である。記知(ピンク髪の人)がめちゃめちゃ目立っているせいもあって、一見で「ああ~~っもしかして色んなイケメンが勢ぞろいで逆ハーかつSっぽく迫ってくる感じのやつ!?」と身構えたくなる人もいるかもしれない。
 まあちょっと落ち着いてよく見てほしい。この手前の緑の髪の人……ブスじゃないですか?
 このブス主人公の優太くんは、作画ミスや印刷の不調ではなく、公式で顔面偏差値が低い。表情がクルクル変わるし可愛い顔をするので不快なブスでは全然ないのだが、今までにカエルや蛾に似ていることを原作者から言及される程度には偏差値が低い男だ。

 こういう経験があると思う。
 色んなキャラが出てくるから絶対誰かにはハマる!という名目の作品を見たところ、大体顔面偏差値も体格も似たような感じでしっくり来なかったというような状況。
 それはひとえに、「色んなキャラが勢ぞろい」の範囲が狭すぎる、若いほっそりしたイケメンしか揃っていない(作品によってはこの範囲に限らないが)などという理由に原因があると思われる。

 もちろん、それは悪いことではない。絞ったファン層に向けて発信していて、中身が伴っていれば成功するケースもかなり多い。この場合問題なのは「真に勢ぞろいではなく、一定範囲の勢ぞろいであるが、勘違いして範囲外の人が見て首をかしげている状況」である。だから、勢ぞろいの枠組みが狭い作品なら、より好きにコミットできて良いし、枠組みが広い作品は、それだけ多様なものをいっぺんに楽しめて良いということだと思う。

(公式Twitter画像より)

 1巻表紙で一番目立っている記知(ピンク髪)とその奥の景楽(メガネ)は、同人版で言及される限り、10人中、上から2位と3位の顔面偏差値だ。このタイプの顔のいい男はあと1人しかいない。残りはフツメン(本当に普通)かブスか、規格外に当たる(鉄平ちゃんは美少年ではあるけど一旦規格外とする)。
 もっとわかりやすく言うと、まつげのビシバシしているキャラは全体の4割ほど、残りはそうでもないということだ。

 年齢や体格もまちまちで、二の腕と太ももがパツンとした筋肉質のおっさんから、ほっそりした美少年(ショタかもしれない)までいる。ガリガリで全身の骨が浮くような車椅子の年齢不詳キャラも出てくるくらいなので、わりとここは幅広いと言えるだろう。元々キャラデザを二人で出されたということなので、そのおかげかと思う。

(公式Twitter画像より)

 キャラクター性について。
 このマンガが逆ハーレム系で男が寄ってたかって甘い台詞を吐いてくる系だったらわたしはそもそもここまで追っていないと思う。逆ハーレムのティーンズラブ作品は別に嫌いではない、体調と気分によってはめちゃめちゃに読む。しかし、それとこれとは別である。上の画像みたいに「サラ……」と耽美に髪に触ってくる男もいるが、これも殺す寸前だし、空白の噴出しの中身は軒並み自分ルールの解説で全然愛を囁いたりしない
 以下はわたしが連載前ヒマな時に書き出していた「こんな殺彼はいやだ」から抜粋する。

×名前とビジュアル確定のヒロインが通しで存在する
×ヒロインが殺されない
×「お前ってホント殺したくなる~!ねえ殺していい?(でも殺さない)
×「他の女は何人も殺したが、お前だけは殺したくない……」
×「(当て馬の男を殺し)お前は俺だけ見てりゃいいんだよ!
×ヒロインに意地悪をした人間が殺される

 ウッ体調が悪くなってきた……繰り返すが、上記のような内容が一切ないのがいいところだ。
 また、女の趣味がキャラによってまるきり違うのもいい。
 遊びなれたギャル系の女がいい!という殺人鬼、処女しか無理でギャルなんて無理あれは穢れた魔女……という強火の処女厨殺人鬼、人体として使えればなんでもいい~!という懐の広い殺人鬼、特にこだわらないけれど健康な若い女が望ましい殺人鬼など、色々いる。
 統一ヒロインがいないということは、全員が1人の女を好きにならないだけの多様性があるということなので、好きな属性が定まりがちな人には受け皿が広くてよいことだ。
 なお名前も出ないで死んでいく女キャラはわりとたくさんいるので男しかいない世界ではなくてそこも安心できる。

(推しコンビのスピンオフ同人誌)

 そもそも、ア●ビリーバボーや世界●る見えや仰●ニュースの殺人鬼特集を見て罪悪感を覚えながらもニヤニヤしているタイプの人間が、被害者の趣味も犯行動機も殺害方法も違う殺人鬼10人集めました、を嫌いなわけがない。グロいグロいというけど、現実の殺人鬼のほうがよほどグロテスクだし、上記の再現VTRのほうが過激だ。グロ度としては金●一少年レベルだと思う。生きたまま血液抜いて業務用エレベーターで運ぶ話怖くない?
 それに現実にいた殺人鬼の話はなんとなく楽しむのに引け目を感じるものだが、殺彼は全員フィクション。全員架空の女しか殺していないのでおおっぴらに楽しめる。本当にいいことだ。

(手しか出てこないヒロイン(?))

「なんか思ったのと違ったかも!気になる!」と思ってもらえたらありがたいし、とりあえず読んでみてほしい。
 くらげバンチで3話まで無料。1巻を購入したらそのつづきも無料で読めるこちらからアマゾンで。
 同人版が気になったらこちらから見てみるのもオススメだ。とらの通販で手に入る。

 同人誌に比べれば商業誌ってかなりお安い。アマゾンは送料気にしなくていいし、商業化してくれて本当に良かったと思う。こうしてリンク一つで同人誌のサンプルより充実したお試し読みに飛べるし、本屋さんで買える。相互の人なら貸し出し用同人版もお渡しできるので、ぜひこの期に声をかけてもらいたい。

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