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「丁寧さ」をどこに築くか

「丁寧さ」のある旅人同士の空間を

物事において、何事も丁寧に行わなければ結果は伴わないと思います。
とは言え、単に何もかもを自分が丁寧に行えばいい、というものではないとも感じます。

丁寧さの本質を大切にしていくために、「丁寧さ」をどこに築くか――。
「丁寧そうに装う」あるいは「丁寧な感じにつくり込む」のは、意外と簡単なことだと思います。それこそ資金をはじめ、性格的な几帳面さや技量やセンス、営業力や宣伝力があれば「それらしく見せられる」でしょう。
しかし、それでは「万人受け」はしても、本質的に「心」には響かないのではないか、と思います。

「気持ち」を交わし合えるための「丁寧さ」として、何が大切か。
宿という、不特定多数の、大半が「初対面」となる人が集う場において、一人ひとりの「丁寧さ」の「基準や是非」が当然のように異なる中で、どうすれば偶然に集った人同士で「本質的な丁寧さ」を感じる空間ができるのか――。
答え、とまでは言えませんが、方向性が定まるまでに9か月かかりました。

宿を始めた当初は「到着後の応対を丁寧に行うこと」が最も大切だと考えていました。
が、今は「自然に丁寧さがある空間を生み出すには、どうするのが良いか」と考え直しています。
応対を蔑ろにするわけではありません。重要度が高いのはもちろんで、今も当然、心掛けています。ただ、その前に「それ以上に丁寧に行わなければならないこと」があって、「“順列”することによって、省ける丁寧さもある」と感じています。

電話に悩まされ「第一歩」重視

開業当初「電話応対」には苦悩の連続でした。
宿のホームページには雰囲気やコンセプトなどを事細かに記していますが、自分が思った以上に「内容を読まずに電話で予約してくる人」が多く、これだと「丁寧に接したところで『思ったのと違う』と言われてしまい、満足が得られないこと」がありました。「ゲストハウス様式の宿」への捉え方の違い(自分が目指すものなども含めて)で起きることが多く「丁寧に記しても意味がないのか」と悩みました。
「人は自分が思っているより、文章を読まないもの」だとは、新聞社に勤めていた時にも痛感していますし、分かっていましたが、「少し読む」ではなく「全く見ない人」が結構多く「電話」においては「想定外」が大きすぎ、「丁寧さ」が空(あだ)となることもあって、対応の難しさを感じました(予約の仕様を変えてかなり減りましたが、今も「読まずに電話」だけは苦悩させられます)。

今は「予約の時点での対応を、とにかく丁寧に行うこと」に徹しています。
やはり「第一歩」の段階が大事。
「旅は予約の段階から始まっている」わけで、この対応に大きく重点を置きました(後述)。

「予約→確認→返信」の流れが成立して、初めて「納得」に繋がります。併せて、そこで不安や緊張感も排除され、信頼関係が築けると感じます。
来てすぐに打ち解け、寛いでくださる人が、一般的な宿よりも多いと思っていますが、予約段階を丁寧に行うことで垣根が取り払われる感じは、明らかにあると思います。

うちは予算もないので、内装は特につくり込んでいません。それどころか、細かな段差など「小さい子どもには少し危険とも言える場所」が、そのまま放置されています。
ただ、これも事前に伝えていれば、苦情にはなりません。見えるもの、つくり上げるものを整えることも大切ですが「現状の説明」を「丁寧に」行えば済むものです。

自然な寛ぎも「丁寧さ」の一つ

来てすぐに菓子を食べ始めたり、宿内を走り回る子どもたち(2家族の子ども同士でかくれんぼが始まったことも)、こたつに潜り込んで寝そべって飲んでいる女子旅さん――。
それは一見「丁寧さ」に欠ける行動に映るかもしれません。

ですが「食べたごみを、そのまま放置する」「ほかの人がコミュニティスペースへ来たのに、足を突っ込んで寝ている」といった酷い不作法や無遠慮さがなければ、何ら問題ないことです。それら「自然な寛ぎ」は、むしろ本質的な丁寧さを感じてくださっているからだと思っています。
つくりこんでいないからこそ、宿泊者も、宿で過ごすうえで「いい意味で遠慮がなくなる」わけで、それでいて予約の時点でのやり取りが明確にできていることで「丁寧さ」が崩れるわけでもない、と言えるのです。

見栄えや表面上だけのものではない、自然で本質的な「丁寧な過ごし方」。宿の空間が「サードプレイス」としての様相が濃くなり、併せて「スローツーリズム」の感覚も生まれれば「丁寧に過ごせる空間」は、勝手に醸し出されていく気がします。

殆どの利用者は1日で立ち去るので「どんな組み合わせになるか」は、その時次第。繁忙日は「相性」を重視して予約を受けているとはいえ、気を揉みます。
が、予約ルールを明確に定めてからは「相部屋」「隣室」の人への気遣いが足りない人は、大幅に減りました(ちなみに外国人が数%ですが入ってきますが、ドミトリーで受けても空室があれば個室を使わせています。文化の違いから来るマナー面の相違は、如何ともしがたいです)。

予約時の詳細案内を徹底

公式ホームーページからの予約は、大抵が宿の特徴を捉えてのものですが、宿泊予約サイトに関しては「詳細を理解していない予約」が、ある程度は入ってきます。
その際に、どう対応するか。
昨年春以降、予約に対して「1000文字程度の詳細案内」を送り、コンセプトはもちろんですが「マイナスの要素」(個室は隣室との接点が近い、客室内は飲酒不可、寝室と水回りの階が異なる、入浴設備がシャワーのみ――など)を、あらためて説明しています。一方で「ほかの家族とも一緒に遊べる、豊富な観光資料がある、時間外でも緩く対応する」などのセールスポイントを伝え、雰囲気を事前に“感じて”いただくよう努めています。

これによりキャンセルも多く発生し、予約サイトからの成立は、ファミリー層で約6割、60歳以上のご夫婦に至っては1割がやっとでした(一人旅の女性は、きっちり調べてから予約されていると感じますが、それでも1割以上はキャンセルあり)。公式ホームーページからの予約は事情がない限り取り消しにならない感じなので、かなり差はあります。
キャンセルになるのは「宿からの質問事項への回答の言葉が簡潔な人(あるいは記入漏れがある人)」のケースが多めで、ある程度は予約段階で分かります。致し方ないですが、先述のように、来られてから「思ったのと違う」と言及されるのが一番困るので「ご自身の旅のスタイルに合う宿か」を理解していただくことに努めています(余談ですが、ご高齢のご夫婦は「部屋にテレビがないこと」「新聞を置いていないこと」などに不満を言われることがありました。「旅は非日常を楽しむもの」で「置かないことへの拘り」もあるのですが・・・)。
昨年秋以降は、不泊防止もあって「確認メールへの返信」を義務付け、さらに成立した人に対しては「事前の飲食案内や観光情報の交信」も行っています。特にファミリー層は「ゲストハウス様式の宿の未経験者が多い」ので「丁寧な説明」を心掛けています。その結果、実際に来られるまでに5~10回ほどメールを交わし合う人もいます。

ゲストハウス慣れした人からは「こんなに詳しい案内が送られてくる宿はない」と言われるのですが、ある意味「今、主流となっているゲストハウスのような雰囲気ではなく、コミュニティスペースの考え方や要素はユースホステルや民宿に近い」ですし「プランニングや旅の相談」には予約の時点から重点を置いて接していきたいので、対象者に関係なく徹底しています。

厳しいけれど、成り立つものは大きい

なので「予約ルール」は、一般的な宿泊施設よりも厳しめ。
宿泊予約サイトも「対象者を明確に絞った販売」にしていますし、「プラン対象外の予約」はもちろん「必要事項の記載漏れ」に対しては、ルール厳守に徹しています。「ホームページなどを見ず、とりあえず電話」という人に対しては厳格な対応を採っているので、はっきり言って「気軽に予約・問い合わせしやすい」とは言えません。
とは言え、宿としてもですが、予約する側にも「予約の大切さ」を意識していただくことで、成り立つものは大きいと感じています。
その分、「予約→確認→返信」の流れが成立した後の事前案内などには徹底していますし、とにかく「実際に来られるまで」を「丁寧に」接することについては、強く意識しています。

敷居が高そうだとか面倒に思われることもあって、利用者を逃がしている部分もあると思います。
それでも相対的に見て「予約ルールが守られている人は、宿内でマナーが良い」傾向は明確ですから、ほかの宿泊者との「相性」も含めて、この点は丁寧でなければならないと思っています。
予約時の対応を丁寧に行い、納得して来ていただいていれば、本質的に「丁寧な過ごし方」になり、ほかの旅人さんへの気遣いは守られ、「旅の恥は掻き捨て」という行為も起こりません。

設備面では、まだまだ改良の余地がありますし、備品の管理や清掃面なども、丁寧さが足りていないかもしれません(大きな苦言はないですが、改善要望はありました)。
こうした設備的な不便さや劣る点を補うためにも「事前」の「丁寧さ」を大切にし、メールの交信などから満足度に繋げていければと思います。

「予約から帰宅まで」を大切に

なお、宿泊者には必ず「お礼のメール」も送っています。
「チェックインからチェックアウトまで」ではなく「予約から帰宅まで」丁寧に接することを大切にしているつもりです。

ちなみに、この話は「元ネタ」があります。
以下の文章を参考にさせていただきましたので、お礼を兼ねてご紹介しておきます。
《「丁寧な暮らし」の“丁寧”の成分はなんなのかを考える》

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