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唇に溺れる

自転車で遠出をした。
まだ真夏ほどの潔さはない蒼穹を仰ぐと、ふと「ああ、世界って広いんだな」とあたりまえの感慨が浮かんだ。

世界は、とても広くて。
私は、とても小さくて。

ぐん、とペダルに力をこめると、自転車は風を切って進む。
この広い世界で、小さな私と、小さな他の生命が出会うことは奇跡だろう。
そう奇跡、滅多にない、ものすごく低い確率……の、はず。

なのに、なぜ。
こうも頻繁に、私のリップグロスで羽虫が溺れ死ぬのか。
やめろよ。こんな広いんだから、もっと他の死に場所あんだろーが。
わたしゃモウセンゴケかい。

そりゃまぁね。
雨降り前の川沿いの道でママチャリ走らせたら、蚊柱に突っ込む確率あがるよね。犠牲になった不運なウンカには、すまんけど。
でも、いい香りをさせるのも唇プルつやにするのも、決してお前たちをおびきよせるためじゃないから。
もっと大きな悪い虫が付いちゃうかも(´▽`)キャ♡と、微粒子レベルの可能性に夢見てんだよ。
低気圧だけじゃなくて女心の空気も読んでくれや、昆虫さんよ。

出会いがしらの事故チューなんて漫画の中だけで十分。
てか、リアルだとしても、せめて人間でお願いします。

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